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第1章 聖ジェファールズ豪華客船事件 第42話 正統

「まったく、立場が逆じゃないですかね」


ビノス・ゴーテキ曹長が呟く。

ダンスホールの入り口、その扉に体を隠しながら、ビノスは拳銃を構える。

ファズ中尉が地面に伏しているのは見えた。

それから身じろぎする子どもたちの姿。


(おかしい_____)


ビノスはすぐに異変に気付いた。


(なぜ逃げる_____?)


適合者にとって、拳銃の弾など石の礫ほどの意味もない。

だが、その敵と思しき、ファズ中尉の頭を嬉々として踏みつけていた少年は最初の銃声を聞いてすぐに身を伏せ、子どもを盾に後ずさりした。


(転移、、、できないのか?)


ビノスは己の細い顎を伝って落ちる汗を拭いもせず、思考する。

奴は適合者じゃないのか____?

いや、そんなはずはない。非適合者に中尉が負けるとは思えない。

ファズ中尉の能力だろうか。

だとすれば、やはり食い下がってでも彼女の力を全て教えてもらうべきだったと、過去の自分を叱る。


『お前が戦うような羽目にはなんねぇよ、それよりごめんな、奥さん、もうすぐだろ?』


その気遣いに心を打たれて、いつもなら追及すべきことが抜け落ちた。

ビノスはもともと、第一騎兵師団の所属だった。

その前はウーシア技術を用いた立体映写テレビジョンの設置を仕事にしており、小さな新興の会社だったが、創業メンバーでもあったため、副社長として経営に携わっていた。だが、妻と結婚したとき、一念発起して軍隊に入ることを決めた。そして皇帝直隷第二十一班に配属となった。


ファズ中尉は、他のどの適合者よりも積極的に非適合者の男性兵士に声をかけていた。二十一班には、すでに指揮系統とは別にする、いわゆる社会階層ができあがりつつあった。


ジャルジャ中将、エチカ・ミーニア少佐の総指揮ライン。

ユト・クーニア上級大尉は現場の最高権力者。

ルラ、フランシャルン、イサラの、いわゆる「三辞三嬢さんじさんじょう大尉」。

この六人が集まることは、班員の中で「二・一・三会議」と呼ばれ始めており、一般兵にとってはまさに殿上人だった。

そして、その次点としてファズ中尉・ルールラ中尉がいる。

この2人の中尉からが、ようやくほか約三百名の班員が話しかけられる尉官だった。

だが、カリスマ性のある女性たちが班の中核ということもあり、男性兵士は階級に関わらず「静かに過ごすべし」といったような雰囲気が漂っていた。逆に、一般女性兵士たちはあっさりと上官らと打ち解けている。


その中でファズ中尉だけが、男性兵士の詰めるコテージによく顔を出し、酒宴を共にしていた。まだたった1か月ほどだが、自分に妻がいること、子どもが生まれそうなこと、なぜ軍隊に入ったのか、気づけばアルコールが琥珀色に揮発するような空間ですべてを話していた。そして自分のことのように、出産のことを気にかけてくれていた。ファズ中尉がいなければ、この班の男性兵士の士気は保たれない。


ビノスは再度、扉越しに中を窺う。

すると、1人の少女と目が合った。

彼女は他の子どもたちと違い、目に力があった。

そして、こくりと頷いてみせた。


(覚悟を決めろということか_____)


ビノスは心の中でカウントダウンをし、身体を敵にさらけ出して中に侵入した。

拳銃を人質に当てないように大きく外しながら発砲し、けん制する。

目論んだ通り、敵は子どもの体に隠れたまま、どんどんと中尉から離れていった。


「ファズ中尉っ!!」


ビノスは滑り込むように中尉の傍に近づき、身体を上向けにする。

そのまますぐに状態の確認に入る。


____息はある


だが、その左目は潰れ、胸、脚からの出血が酷い。

顔も見るに堪えないほど変形してしまっている。


(でも生きてる____)


時間的猶予はなかった。

決断を早くしなければならない。


「レガロ帝国、皇帝直隷第二十一班所属、ビノス・ゴーテキ曹長です!!みんな入り口に走ってっ!!」


ビノスが声を張り上げるが、子どもたちは立ち上がらない。

だが、


「みんなっ!行こう!!はやくっ!!」


1人の少女が手近な子を立たせながら叫ぶ。

ビノスも適宜発砲しながら、1人1人立たせる。


「お前!!ただの兵士の癖にっ!!」


紫の髪の少年がぎりぎりと歯噛みしながら、ナイフを人質の子供の首に刺そうとする。

ビノスは覚悟した。

1人の人質が殺される間に、全ての子どもたちを脱出させる。

そうでなければ、人質に意味がないと悟った敵が、あたりかまわず殺戮を始めるかもしれない。


(ごめんなさい、、、中尉_____)


それは無慈悲な選択だった。

特に、これから自分の子供が生まれようとしているビノスにとっては断腸の思いのする決断だった。

だが、自分には力がない。

拳銃では精緻な照準は期待できない。


(申し訳ない、、、)


だが、その時だった。


「_____くそがっああああああああ!!なんでお前だけ転移できるんだっ!!」


意志をもった1人の少女が動いた。

それはまさに「転移」だった。

彼女は敵の傍に姿を顕し、その顔を思い切り殴りつけていた。

まるでファズ中尉のように。

それはただの殴打。

だが、意表を突かれた敵は人質と間を空けた。


「当たってくれ!!」


ビノスはすぐさま拳銃を構え、敵に駆けながら発砲した。

丁度、人質の子どもまた、頭を抱えてしゃがみ込んだのが幸いした。

銃弾が、敵の肩口を割く。


「こっちに来い!!」


ビノスは叫ぶ。

少女が少年を抱える。


「いいぞ、そのまま出口に行け!!」


ビノスは銃弾を込めなおし、再度発砲を続ける。

敵は転がるようにしながら、戦闘の余波なのか、ダンスホールに空いた穴に逃げようとする。


「くそっ!!止まれっ!!」


だが、ビノスの静止を聞かず、敵はそのまま穴から外に出た。


(人命が優先だが、、、どうする、、、?)


適合者と思しき敵、だがどうしてかその力が使えてない今、仕留めるには格好のタイミングだ。

だが、、、。


ビノスはファズ中尉を抱え、ダンスホールの出口まで駆けた。

そこにはまだ四、五十人の子どもたちが互いに身を寄せ合って固まっていた。

表情が能面のようにない者、泣いている者、気絶している者、様々だった。

それだけでどれほどの惨状だったのが分かり、胸が痛む。

ビノスはファズ中尉に止血など、簡易的な治療を施すが、明らかに死神がその目蓋に手をかざしているのが分かる。


「、、、よく頑張った。まずはここに居てくれ。助けを呼んでくる」


ビノスは子供たちをこの場に置いていく不安に駆られたが、通信機器が使えないらしい現状においては、自分が動くしかない。

他の場所に移動するにも、そこも戦場になっている可能性が高い。


「君、名前は?」


「ナリサ・イモーレットです」


「イモーレット卿のご令嬢か?」


「そうです」


子爵の娘とは思えない、戦いへの覚悟を持った目だと、ビノスは見た。


「適合はいつから?」


「先ほどです」


「それは、、、なんともだな。なぜ奴はウーシア運用ができない?」


「ファズ中尉の攻撃で、、、攻撃によるものです。私はそれを直撃しなかったので、多少運用できる、のかと、、、思います」


大人らしく、あるいは兵士らしく受け答えようとしてたどたどしいが、端的な答えに頭脳のデキの良さを感じられた。


「お、おそらく、この場は安全な可能性が高いと思いま、思われます。先ほどの同盟の輩は、もう子供を殺す必要はない、というような意味合いのことを言っていました」


「そうか。ありがとう。それではここを未来の同僚に任せるとしよう」


「、、、承知!」


帝国軍らしい返事を、少女は僅かに恥ずかしそうにしながらだった。


▲▽


それがクラン・イミノルだと、エチカに分かるまで数秒の時間を要した。

ホールにはウーシアが実体化したような蒼い鉱石が無数に生え出て、こちらの肺を押し潰すほどの存在の充溢にひれ伏しそうになる。

黒髪は金に輝き、両の瞳からは細い枝が生え、白い花を咲かせている。

むしろクランの方が、その花の地中にできた塊茎かいけいに見えた。

新たな異形となったクランは、左腕をなくしつつ、もう片方の腕では大太刀を握りしめている。

濡れそぼったエチカをクヘルス二等兵が支えているのか、その逆なのか、二人は互いに肩を貸し合いながらホールにたどり着いた。


『愛は素晴らしいものでしょう?だから、立ち上がりましょう。皆さん。大丈夫です。新たにできる国家は、皆さんのものです。帝国でも、神聖国でもない。民族も宗教の垣根もない、新たな国家観による次世代の国になります。民族同化大戦を古いものとし、新たな世界を創造するのです!!!』


女が悠長に演説している。


_____リュメーラス・ハイゼンヴァウム


エチカはその人物を知っている。

帝国陸軍から脱兵したのは10年以上前。

その後「大地の党」という極左政党に加わり、党首となった。

また、帝国の樹立とともに信仰が禁止されたジシュア旧派の神官を名乗り始め、政党ごと民主神聖同盟に参加したことを機に、完全に帝国の反逆者となった。

陸軍においても、生死を問わない捕獲作戦が幾度も決行されたが、全て失敗に終わっている。海外も含めて彼女は拠点を移動させていたらしいが、ほとんど表舞台に顔を出すことはなかった。


そして、異常はもう1つ。

ホーバス新聞社の二人が、それぞれ刃とライフル銃を持った何者かに囚われていた。

蒼い髪の女は銃を構えている。

その引き金にかけられた右手。

シルバーアクセサリーを顔やら首にごてごてと身に付けた女。

その挑発的に持ち上げられた左眉の上。


____王冠を被った小鳥


鷦鷯しょうりょう印刷会社だ。


「よ〜し。これで放送終了だねぇぃ!電波ジャックなんて始めてだよ、できればこのキュートなお顔を臣民どもに見せたかったけどさ!」


「気を抜くなよ、ヒィラ。____おい同盟。オプションだぞ、こんなの」


「ええ、分かっていますよ。費用はきちんとお支払いいたします。それから、、、あと1人、あぁ、いらっしゃいましたね」


リュメーラスが顔を動かさずに言う。


「エチカ少佐、ご無事で、、、」


ビノス・ゴーテキ曹長が息を荒げて後ろから声をかけてきた。


「これは?」


「分からない」


エチカは敵から目を離さず、ゆっくりとホール内に足を進め、キュイゼル・フリンスの側まで来る。ビノスとクヘルスもそれに続いた。


「エチカ少佐、ファズ中尉が瀕死の状態です。1秒でも早く治療を受けないと、もう、、、」


「そうか。キュイゼルは問題ないんだな」


「____え、ええ。イミノル伍長が、覚醒を、それで、、、申し訳ございません。私の失態です。ホーバスのお二人を守りきれませんでした」


キュイゼルは答えながら、エチカの様子に違和を抱いた。

それこそクランのように見た目が変わった訳ではない。

ただ、記憶喪失に由来すると思われる、どこか淡白で、自嘲を孕んだような口ぶりではなくなっている。キュイゼルは、今このとき初めて、エチカという人間に名前を呼ばれたような気がした。


「そう覚醒_____これは、本当に予想外の力。鷦鷯しょうりょう印刷会社の皆様に助けて貰わなければ、危ないところでした」


リュメーラスが舞台の上で頭を下げる。

と、そこに現れたのはエチカも挨拶を交わした、この客船の船長だった。


「いいえ、水が高いところから低いところに流れるように、情報もまた、均一に広がらなければなりません。誰かがそれを堰き止めたり、ましてや汲み干すことなどあってはならない」


船長の姿が二重、三重となる。

まるで網膜を直接切開されたような不快感ののち、皆の目に映るその姿は大きく変わっていた。


「お初にお目にかかります、私は鷦鷯しょうりょう印刷会社社長、ドローマ・ニグトゥと申します」


痩身の、小汚い男だった。

伸びるに任せた、自由奔放なウェーブの髪で視線が分からない。

まるで帝国大学の教授連中に糞のように付き従う学生のような風貌だった。


「情報の件、あれ、うちらへの皮肉ですよね」


マックス・ジスは首に添えられた刃を気にせず言った。

ヘスリ・カルセンもまた、背中に突きつけられたライフル銃などないかのように、


「後輩くん、情報を水に例えている時点で、あれは三流以下よ。情報には指向性があるの。決して均等に広がることはない、馬鹿というか、浅はかね。あと、大手を批判する零細企業ほど、この世に価値がない存在もないわ。大手の仕事を認めて、その手の届かない範囲をカバーする企業こそ、後に大きくなるの。だからあれは馬鹿ね」


へスリの言辞は、彼女を捉えている者を笑いに誘ったらしい。


「ほう、女。意見が合うな、あれは馬鹿だ。会社ごっこをしたいだけのな」


「でも、部下に馬鹿と言わせておくだけの度量はあるみたいね」


「違うね。あいつ童貞なんだ。女に言い返せないんだよ」


「従業員1号!顧客の前で何をっ!!」


エチカはその間、戦闘への準備を怠らなかった。

身体はすでに1つの個人というより、複数の分身がそれぞれに手をつなぎ合って形を保っているような、軋み合う痛みに囚われていた。


「エチカ少佐、あの二人、かなりの技量があります。イミノル伍長の覚醒に気を取られていたのは確かですが、、、」


キュイゼルが助言する。


「あぁ、分かる。並ではないだろうな」


特に蒼い髪の女だ。

ライフルの銃口はへスリの背中に向けられているが、幻視の射線がこちらの額に刺さっているような感覚。

ただ、ファズ中尉のことを考えると、こちらは動かざるを得ない。


「フリンス____」


「承知」


エチカには、あの幻のようだった赤いウーシアはもうない。

あれはなんだったのか、磨りガラスの向こうの人影のように朧だった。

だが、心持ちの違いは明白だった。

精神を溶かすほどの、溶鉱としての心を己の中に見つけた。


『____入祭____』


キュイゼルの詠唱に合わせて、エチカは鉄槍をへスリを捕らえていた女に転送させた。と、同時に、絵画の神々のように制止していたクランも動く。その大太刀が残像を残して一閃され、ヒィラと呼ばれた少女がいた場所を穿つ。

そして、フリンスがその間にへスリとマックスを拐う。

言葉は交わさずとも完璧な連携。

だが、


「____入祭。ウーシアを局所的に固着させ、流れを止める技。蝋で固められたように対象者は動けなくなる。だが、瞬間の内にウーシアの主導権を奪い返せば、その蝋は溶けうる」


青い髪の女が、リュメーラスを守るように立つ。

自分だけでなく、もう1人のヒィラも一瞬のうちに助けたらしい。

だが、エチカにはそれ以上に驚くべきことがあった。


「クラン、なぜ手を抜いている?」


覚醒としか思えないクランのウーシア波長。

それにも関わらず、彼女は「圧倒的」ではない。

エチカの疑念に答えたのは、しかし、クランではなかった。

彼女は本当に絵画の一部になってしまったかのように、こちらのことなど目に入っていないようだった。


『エチカ少佐、嫌な予感がします。先ほど、あのリュメーラスという女に攻撃を止められました。あの錫杖_____普通のウーシア兵器ではありません』


脳裏に、白い吐息のような声が響く。

聴き慣れた声に似て、それでいて少しだけ記憶に差異する。


「まさか_____」


『お久しぶりです、エチカ少佐』


「そうか、君が助けてくれたのか」


もし、そのエチカの声をユトやミラリロが聞けば、彼が記憶を取り戻したと錯覚しただろう。

ノランの耳には、ただ、かつてないほど慈しみに満ちたものに聞こえるだけだった。


『助けてはいません。お姉ちゃんが、自分で乗り越えたんです』


「そうか。それでも、ありがとう。やっぱり君は最高の兵士だよ」


『少佐、、、ありがとうございます。ただ、今は_____私に考えがあります。少佐とフリンス少尉で、リュメーラスの動きを一瞬止めてください。それでここからは出られます』


「本当か?」


『はい、信じてください』


ノランの顔は見えない。

だが、その言葉には信じるも信じないも、その二択は存在しなかった。


『_____________キリエ_________』


短剣の雨が降る中、エチカは駆ける。


「ちっ、連続転移オブシスト、厄介だな」


クイネルラップは短剣を避けながら、しかし大きく転移することはできない。

その雨の中で、転移は死と直結するはずだった。

だが、どの短剣もエチカの体とは重ならない。

ヒィラもクイネルラップも、エチカに追いつけない。


「リュメーラス・ハイゼンヴァウム、お前の目的はどうでもいい。ただ、仲間の命がかかってる」


彼女の近くにいたフィーモア・イミノルは、接近したエチカに驚き腰を抜かす。

だが、


「仲間の命、私が想像しているエチカ・ミーニア少佐が言わなそうなセリフですね」


その余裕はウーシアの波長に乗って、エチカの槍を止める。

それから転移と直接物理攻撃を織り混ぜるが、全ていなされる。

まるでこちらの動きを予知したようなその動きに、エチカの動きが一瞬、止まる。


「ここで何かを見ましたか?」


「お前も俺の記憶が戻るのを待っているのか?」


「いえ、それはカンパニアの目的であって、民主神聖同盟の目的ではありません。私たちはただ、私たちの土地を取り戻す、それだけです」


「ハルム人のか?お前たちの国はもうあるだろう?」


「親に喧嘩の仲裁をされることほど、恥ずかしいことはありませんから」


「アラン=ヴィシュクか。だがそれはもはや侵略だ」


「ふふっ、少佐、知ってますか?権利の親は、いつでも暴力です。侵略で得た土地も、年月がそれを権利とする。レガーリャ人が己の地とするところも、もとはハルム人から奪ったもの。正統性もまた、暴力を母とします」


「ジシュア旧派の考えか」


「ええ、ジシュア様とフォラリス様は敵対などしていません。この大地は、ハルム人のものであり、かつレガーリャ人のもの。私にとっては、それが正統性です」


「ということは、貴様の前では、交渉も協定も、何も意味をなさないということか」


「はい。私は暴力を肯定しています。元来、理性的であり、より普遍的な人権思想を持つ者ほど、暴力には肯定的であるべきです。それは革命を必ず伴いますから」


エチカは思考する。

まだリュメーラスには余裕がある。

一人では足りない。

練度が違いすぎる。

それは、強大な覚醒者よりも厄介だ。

ウーシアの機微を把握し、百を、千を超える死闘を超えてきた者の強さ。

それは、皇帝直隷第二十一班では、イサラ・ザクトーフのみが持つ宝。

エチカは視線を向ける。

その先には、ミンク・クヘルス二等兵がいた。


「レークっ!!」


クヘルスが叫ぶ。

その叫びと同時に、エチカも連続転移に入る。

レークの遠隔操作が入ったクヘルス二等兵の動きと合わせれば、それは擬似的な練度の高さを産む。

リュメーラスは風に身を任せる木の葉のように流麗に動く。

まだ足りない。

もう1つ。

キュイゼルは鷦鷯しょうりょう印刷会社の二人を抑えるのに奮闘している。

クランは機会を伺って制止している。

もう1つ。

あと_____。


その時、ビノス・ゴーテキ曹長は声を聞いていた。


『心拍を抑えて。凍ったように。息も____パターンが見えてきます。適合者は、自由に飛ぶ鳥のように見えて、実はそうじゃないんです。詩のように、決まったルールの上で言葉を組み合わせています。ウーシアという絶対的な場のルールに従って____三____二____一____今です!』


ビノスはその言葉に従って銃を放つ。

放った瞬間、その射線には誰もいなかった。

だが、次の瞬間、その弾丸は確かにリュメーラスの耳を掠めた。

彼女はその時、初めて驚愕に顔を歪めた。


それは、まさに一瞬の隙だった。

エチカは目を瞑る。

その射撃が、本当は誰の手によるものか、分かっていた。


「なんだ、ノラン伍長。君が自分で隙を作るんじゃないか」


「伍長って、言われ慣れないですね」


クランの瞳の花が、咲き乱れる。



_____神(ひら)き、霜枯れ



クランは呟きとともに、その上段に構えていた大太刀を振り下ろす。

音はなかった。

風もなく。

ただ、客船が、割れる。

地響きのような音を出しながら船が左右に傾いていく。

無音の一太刀。

ただその断面は鮮やか。

まるでこれからその両端を合わせて船を完成させるといっても信じられるような滑らかさだった。

船が割れた瞬間、エチカは神経を研ぎ澄ませた。


_____通信が戻る。

_____外のウーシア波長を感じる。



「アイリスっっ!ファズ中尉を救出しろっ!!」


『承知』


「フラン、こっちだ!」


『承知』


二人の英傑の息吹が、新たな時を運んで寄せる。

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