第1章 聖ジェファールズ豪華客船事件 挿話1-3-3 モチャ・ファズの日常
清土祭から三日後のことだった。
私は祭りの日に無理をしたからか、また医務室で過ごす日々を送っていた。
ジャティも、マゾーテも毎日お見舞いに来てくれた。
昨日も、
『明日には退屈で仕方ないここからも、ようやく解放らしい』
そう言うと、二人とも喜んで、また部屋で宴会でもしようとそう言ってくれた。
「今日は二人来ないのね」
黒髪の美人な女性、サワロ軍医少将がそう言う。
私が祭りに行くために抜け出したときは、鬼の形相で怒っていた彼女も、今は優しい仏のよう。
「今日は二人一緒の任務で、かなり東の方に行くって言ってましたから」
そう言うと、彼女は少しばかり複雑な表情をした。
あからさまではないところに大人の余裕を感じるが、私は人の顔の変化に敏感だった。
「何か?」
そう聞くと、彼女は跪いて、それからベッドに寝る私の肩に手を置き、
「若い時の傷は、甘くみちゃ駄目」
「はぁ、、、だからこうして安静にしてますが?」
「違うわ。心の方。私も、そのせいで今もこんなところにいる。何十年も」
「言っている意味が全くわかりませんが、、、」
「とにかく、落ち込むときはとことん、落ち込まないとだめ。深く深く潜って、それからまた浮き上がるの。じゃないと、二度と息ができなくなるから」
やっぱり言われている意味が分からないまま、彼女は私のベッドから離れていった。
▲▽
自室に戻り、久々に訓練場で体でも動かそうと思っていたときだった。
耳に付けた小型通信機器に、突如通信が入る。
『_____ファズ!助けて!お願い、ファ____!』
「マゾーテ?どうした?おい!返事しろ!おいっ!!」
その一言だけで通信が切れる。
プライベートチャンネルでの通信。
よほどの緊急事態だ。
私は部屋の立体映写ビジョンで彼女たちの任務位置を確認する。
モッペル経済国との国境付近。
マゾーテの故郷に近いエリア。
ただの国境の偵察任務だが、、、。
「どうする、、、」
私は司令部に通信を入れるか迷った。
常識ではそうするのが妥当。
だが、それでは救援まで時間がかかる。
新たに指揮官を擁して、部隊の編成をする必要がある。
それで間に合うのか?
でも、私が独断で動いたら軍規違反だ。
マゾーテが司令部ではなく、私に通信を入れたのは、それらも見込んでのことかもしれない。
余程に緊迫した状況ということだ。
「ばぁちゃん、、、」
私にとって大事なのは、軍で昇進することでも、成果をあげることでもない。
優しい人になるためだ。
だから、迷うことなんてない。
それを思い出させてくれたのは、あの二人だから。
▲▽
私はパミドール州の最も南東の指定転移先に転移していた。
そして、マゾーテとジャティが向かったと思われるモッペル経済国との国境まで急ぐ。
その間も通信を試みるが、反応がない。
(くそっ、、、戦闘になったのか?)
私は鉄馬もないまま、懸命に転移で空を駆ける。
唯一の救いとして、マゾーテの通信機器は生きているらしく、位置は示されている。
仰嵐山脈の最南端に近い場所の麓だ。
確か、マゾーテの民族が同化後に定住しているエリア。
あと少し、もう少し。
「ジャティ!マゾーテ!!」
ようやく二人の姿が見えるが、彼らは誰かと戦闘しているようだった。
私はすぐさま意識を切り替え、彼らの近くに、そしてマゾーテを襲う適合者に拳をぶつける。
「ぶっ飛べっ_____!!!」
殴り飛ばす瞬間、相手が帝国軍の軍服を着ていることが判ったが、拳は止まらなかった。
第二反発を超えて、拳は相手の鳩尾に届き、地面を転がっていく。
「はぁ、はぁ、、、無事か!?ジャティ、、、マゾー、、、テ、、、?」
私は振り返り、彼らの様子のおかしさに気づく。
大きな荷物を背に背負っている。
それに、そこにいるのは彼らだけじゃない。
二人の背後には、百人を超える人間が、走りながら集落を出るように、山脈の麓の森の方に逃げいていくところだった。
「おい、、、いったい、、、」
私は再度振り向く。
私がふっとばした奴の周りに、気配を感じる。
こちらに銃口が向けられているという直感。
数も多い。
そして、、、
「___オペリン、、、少将、、、?」
私が吹き飛ばした相手は、間違いなく上官のアヤヴァウィン・オペリン少将だった。
「なんだよ、これ。おいジャティ、いったいどうなってる!?」
私はジャティに向かってそう叫ぶ。
私を抱きしめてくれた彼、誓いを立てた彼が、ゆっくりと笑いながら近づいてくる。
その雰囲気の異様さに、私は一歩足を引くが、彼はそのまま、私をぎゅっと抱きしめた。ついこの間の川の中でのように。
「おい、お前、ふざけてる場合じゃ、、、」
「なぁ、モチャ。助けてくれよ、お願いだ」
「助けてって、なんだよ、おい!説明しろ!」
彼の暖かい体を、私は突き飛ばすことができない。
この温もりを、手放したくないと、心が叫んでいる。
「あいつを、倒してくれ。お前ならできるだろう?」
耳にささやく声。
いつもの無邪気な声とは違う、冷酷さを帯びたもの。
私に綺麗だと、好きだと言った声と同じものとは思えない。
「倒すって、、、なんで、、、おいジャティ、、、マゾーテ!」
「愛してるよ、モチャ。だからお願いだ」
力強く抱きしめられる。
私は、何も考えられない。
そのとき、集落の家が、大きな音を立てて爆発した。
屋根が燃えながら吹き飛んでくる。
「くっ、、、、」
爆風とともに、私は吹き飛ぶ。
その視界の先で、ジャティとマゾーテが手を繋ぎながら駆けていくのが見えた。
なにがいったい、、、。
そんなことを考える間もなく、オペリン少将のウーシアの波長がさざめくのを、燃える道の先で感じた。
私の体は、思考よりも先に動いていた。
「邪魔をするのか、モチャ・ファズ少尉」
炎に囲まれながら、私は彼の前に立つ。
三十になったばかりぐらいの彼は、ただその若さを感じない。
あるのはただ純粋な重み。
「彼らを追う理由を、教えてください」
私がそう言うと、彼は持っていた鉄槍を構え、私の背後に転移する。
私はすぐさま振り返りつつ、体を回転させ拳を打ち出す。
第二反発が共鳴して、雷が落ちる。
「私は帝国を脅かす存在は1つたりとも許さない」
「ああ、知っている」
反発して二人の間にまた距離ができる。
私は痺れる拳を再度構え、体勢を整える。
「それは貴様も、そしてあの女もだ」
それはマゾーテのことを指して言うのだろう。
「少数民族出身だからか?それなら杞憂だ。私は帝国を愛してないが、自分の民族も愛してない」
「貴様は、な」
それはつまり、
「マゾーテは違う?いやでも、彼女の民族は、あなたが仲裁して友好的に、、、」
「いや、奴らはずっと、帝国から逃げる算段を企てていた。だが、亡命するにも第三騎兵師団から逃げ切る力がなかった。だから、あの女が力をつけ、そして味方が増えるときを待っていたのだ」
「そんな、、、亡命って、、、モッペルに?」
「あぁ、そして、時を置いて、また山脈に戻って生活するつもりだったんだろう」
オペリン少将は、今度は鉄槍を私の腕に転移させる。
それを拒絶して、私は彼の横に転移し、拳を突き出すが躱される。
それは戦闘というよりかは、教練に近かった。
「でも、マゾーテは民族として生活したことはない、、、両親はいるけど、、、でも、そんなことをする義理が、、、」
「分からんか?」
「____分からない」
マゾーテが帝国を裏切ってまでそうする理由がない。
彼女は私と同い年だ。
生まれた時にはすでに民族同化大戦は終わっていて、彼女は適合者だったからすぐに軍に入った。
両親も殺された訳ではないし、休暇には会いにいける。
私のように、父を殺され、母が犯されたわけではない。
民族に対する愛着もそんなにあるとは思えない。
だから、なんで、、、。
「レガーリャ人はレガーリャ人としか結婚できない、くだらないが、それが理由だろう」
「なっ、、、、」
私は目の前が真っ暗になった。
自分がそこに立てているかも分からない。
だが、爆風で体が飛ぶなかで見た光景。
手を繋ぐジャティとマゾーテ。
「はは、、、嘘、、、でしょ、、、?」
「私はお前を軍に入れるとき、監視を付けた。それがマゾーテだ」
まさか。
じゃぁ、、、全部、、、。
「すべての少数民族出身の適合者には、監視を付けている。それも同じ立場のな」
「なんの、ために」
「反乱を起こさないか見るためだ」
「監視する方とされる方が結託したら?」
「それが一番好都合だろう?一気に芽を二つ摘むことができる。今回もそうなるかもしれん」
「じゃぁ、ジャティは、、、」
「奴は知らん。興味もないが、お前はもう分かってるんじゃないか?」
そうだ。
私は認めたくないだけだ。
ジャティとマゾーテは、とっくの昔に互いを思い合っていた。
だが、彼らは帝国では結婚できない。
一緒にいるだけで、揶揄され、蔑まれることも明白だろう。友人であればいいが、それ以上の関係に見えてしまえば、だ。
結婚せずに一緒に居続ける、ということも可能ではあるが、そうした周囲の目に耐えられないと考えたのかもしれない。
そして、おそらくマゾーテは、自分の民族から亡命の協力をずっと依頼されいた。
その二つの目的が、重なった。
あと足りないのは、、、そう。
「私は、、、足止めのための、、、道具、か」
「そうだろうな。貴様は強い。私でも確実に時間は取られるだろう」
「でも、、、詰めが甘いな。こうして私とあんたが話せば、全てバレるのに」
「そうでもないだろう?だって貴様、まだ拳を下ろしてないぞ」
確かに少将が言うように、私は拳を構えたままだった。
でも、頭の中は過去のことばかりだ。
私が任務で死にそうになって、血相を変えて医務室に入ってきたジャティ。
あれは、そうだ、きっと私が死んでこの作戦がおじゃんになるのを危惧しての心配だったんだ。
私に好きだと言ったのも嘘で、みんなで飲み明かしたあの日も、この日のために、私を懐柔するため。マゾーテが泣いたのも、きっと私と打ち解けられたからじゃない。ジャティとの未来が、より現実的なものになった、その嬉しさからだ。
____憎い。
憎い。
憎い。
憎い。
でも、体がまだ、彼の体温を覚えている。
憎いと思うのは、愛してしまっているから。
私の命は、彼に預けてしまったから。
ジャティは、私の命を、交換したのだ。
彼の、マゾーテに対する愛のために。
「ああ、本当に、命を懸けるに値するのは、愛なんだね、ジャティ」
彼は行動でそれを証明してみせたのだ。
「最後に、なんで今日、彼らが亡命すると?任務地がこの辺だからか?」
私は半身になって、右手の拳を構える。
そして、左手を前に。
円環が回る。
「いや、彼らが昨日、婚姻の届けを出したからだ。無論、却下されたが」
「あぁ、そう。馬鹿だな、あいつら本当に」
私は構えた拳を円環に叩きつける。
「本当にそうだな。そして貴様も___」
「おっっしゃる通りとしか言いようがない」
____角逐
わずかに文脈の違うウーシアがぶつかり、奔流となる。
その波は、すべての罪を流す川よりも、激しく地を駆けた。
▲▽
「よぉ、新婚さん、追いついたぜ」
山道。
海側からではなく、山脈を経由して亡命しようとするその集団。
そのしんがりに追いつく。
だが、そこに居たのは二人だけだった。
そして、思っていたよりも進んでいない。
まるで、私のことを待っているようだった。
「____ファズっ!?、、、あなた、、、まさか、、、勝ったの?」
「あ??当たり前だろうが。それぐらい強いから、私を標的にして、楽しい楽しいピクニックを決行したんだろう?」
マゾーテが驚きに顔を白黒させている。
「本当に勝ったのか?」
ジャティもこちらに近づこうとして、踏みとどまる。
私は戦闘でハイになっていた。
角逐。
開発したばかりの技で、使用すると周囲のウーシアが乱れる技だが、自分の精神まで酩酊したようになる。
「だからそうだって言ってんだろ。適合者ってのは、若い方が強いんだぜ?それに、私は天才なんだ、、、だって、声が聞こえるんだ、たまにな」
私は道に腰を下ろす。
角逐を使用すれば、あとは転移のない、単純な殴りあいだ。
私は爆発で気絶していた兵士の銃を奪い、それで少将の脚を撃った。
それでも奴は倒れなかったが、常に素手の格闘で戦っている私に、いくら少将で男であるとはいえ、敵わない。
それから一般兵の狙撃を撒きつつ、ここまできた。
脇腹と脚を弾が掠めたが、命に問題はない。
でも、ここまでだ。
「あ〜あ、これじゃあ私も反逆者だ。内乱罪か?」
「ファズ、、、」
「お前らすげぇよ。私が帝国側について、少将とお前らを追いかけて殺すとか、考えなかったのか?考えないよなぁ、私、馬鹿みたいにお前に惚れてたもんな、、、ほんと、馬鹿みたいだ」
心を、憎しみが這いまわって、食い散らかす。
痛い。
痛い。
でも、、、仕方がない。
1人でいることを止めるということは、こういうことだ。
「モチャ、、、俺は、、、」
「いいよ、何も言わなくて。すぐに追手が来る。逃げろ、ここでならまた転移を使える。一般兵なんて何人いても余裕だ____ジャティ、ありがとうな。命を懸けるに値するもの、証明してくれて。それからマゾーテ。私の命が無駄にならないようにさ、頼むよ。二人に預けるからさ、私の」
不思議だ。
徹底的に裏切られたのに、1人でいたときよりマシだ、なんて思うなんて。
何も感じない天国にいるより、騒がしい地獄の方が私の好みだったのかもしれない。
「死んだら星になるなんて、まっぴらだなぁ。お前らのこと、ずっと見てるからな、だから_____幸せになってくれ」
下から声と足音がする。
私は拳を握る。
____強制転移。
これで二人を吹っ飛ばす。
だが、その時、
「おい、なんのつもり___」
ジャティがまた、私の体を強く抱きしめていた。
「やめてくれ、、、やめろっ!!」
私が暴れても、彼は私を離さなかった。
そして、マゾーテも私を抱きしめた。
「おい、ふざけんなよ!なんのつもりだよ!裏切るなら、最後まで、、、おい、、、やめてくれ、、、」
体が震える。
脚が砕ける。
そのまま三人で膝立ちになる。
「やめろよ、、、ほんと、、、絶対許さない!殺してやる、お前らなんて!殺してやる、、、だから、離せよ、、、離してくれ、、、じゃないと、、、そうじゃないと、、、」
_____許したくなる、お前らのこと
「おい、いたぞ!!!」
兵士の声がする。
私はなんとか二人を振り払おうとするが、
「許してくれとは言わない。でも、モチャ、君が優しい人だと思ったのは本当だ」
ジャティが言う。
「ごめんなさい、ごめんなさい。ファズ、、、、」
マゾーテがウーシア兵器の短剣を取り出す。
「待て、、、やめろ、、、まさかお前、、、」
「ごめんね、ファズ、ごめんなさい、、、」
「いらない!!いらないから!だから、生きて____」
マゾーテは三人で抱き合ったまま、最初にジャティを、それから自分をその短剣で刺した。
「____いらない、、、いらないよ、、、」
二人が倒れていく。
私の腕を離れて。
____いらない、二人の命なんて。
____だって、それを何と交換すればいいか、私には分からない
仰向けに倒れる二人に覆いかぶさるようにして、私は叫んだ、
「いらない!ねぇ!!お願い、、、行かないで!私を、、、また1人にしないで!!」
その願いに反して、二人はもう声を発さない。
ただ、マゾーテはその短剣を私の手に握らせた。
私が彼らを殺したとみせるように。
私は軍服のポケットからハンカチを出して、ジャティの傷口を押さえる。
もう片方の手は直接、マゾーテの傷口を。
でも、出血は止まらない。
ジャティは緩慢な動きで私の手からハンカチを取る。
私はそれに逆らえなかった。
ジャティは、震える指で、血溜まりに指をつけ、そして二人の名をなぞるようにして消した。
_____二人の命は背負わなくていい
そういう意味だったのかもしれない。
「勝手すぎるよ、、、勝手に近づいてきて、勝手に騙して、勝手に死んで、それで忘れろって、、、そんなの、あんまりだよ、、、ひどいよ!!!!」
私は泣いた。
ばぁちゃんが死んだとき以来だった。
また私は1人になった。
▲▽
「セクロン、もう少し協調性を持てよ、お前」
私は彼女の軍服を縫いながら、そう言う。
14歳になって、彼女はいっそう背も伸びて隔絶したスタイルをしていたが、性格は変わらない。
黒と金の混ざった髪をより分けるように弄りながらだった。
「うっざ、説教?弱い奴とつるんだって意味ねぇじゃん」
「お前だって弱いだろうが、エチカにボコボコにされる程度なんだから」
「はぁぁぁ!?あれは油断しただけだし!!次やったらコロス」
「油断してる時点で弱ぇんだよ。新しい部隊、フランシャルンとか、アイリスとか、ルラがいんだぞ?そんな舐めた態度だとお前の方が殺される」
「ババァ達が何人集まろうが、関係ない。あたしが一番強い」
「そんなことばっか言ってると、軍服もう改造してやんねぇぞ」
「うっ、、、それは困る、、、次は真っ黒で作りたいのに」
「馬鹿か、流石に色を変えるのは無理だ」
「だって緑色ださいんだもん、お願い!!」
「無理だ。あと、向こうに行ったら別な奴に頼めよ」
私は身長が伸びたセクロンに合わせて縫い直した軍服を、下着姿で待つ彼女に投げ渡す。
「は?マジ無理。ファズの姉貴より裁縫うまい奴いないもん。戦闘はあたしより弱いけど、そこはマジ尊敬してる、神」
「そういうところを治せ、と言ってんだ。怪しい部隊なんだ、外部の奴とはなるべく関わらない方がいい」
「だったら姉貴も来ればいいじゃん。聞いたよ、昔オペリンのジジィと喧嘩してボコボコにしたって。やばすぎ、さすがにあたしもそんなことしないわ。問題児じゃん。そういう奴集めてんでしょ?今回の部隊」
「うるさい、さっさと出てけ、クソガキ」
「マジで頼む!!服は、服だけは命に関わるから____」
私はセクロンの背中を蹴って部屋から出す。
と、それと入れ違いに、
「あのガキ、上官をババア呼ばわりしてたな」
ユトが舌打ちをしながら入ってくる。
「しっかり教育してやってくれ」
私はそれで話はおしまいだと、ユトに手をひらひらと振る。
詮索された謝罪もいらないし、これ以上勧誘されてもたまらない。
だが、その時、彼女は一枚の紙を差し出してきた。
「なんだよこれ、、、婚姻、申請書?」
「貰ってきた」
ジャティ・リモエルと、マゾーテ・ツィミスのものだ。
書類への筆記は基本的に女性が行うもののため、筆跡はマゾーテのもの。
そして、十五歳以上、二十歳未満の者の婚姻には成人男性の証人が1人必要だ。
その証人欄には、アヤヴァウィン・オペリンの名前が記されていた。
「あなたが無理言って、婚姻認めさせたんでしょ?だから記録にも、ジャティ・リモエル、マゾーテ・リモエルによる内乱、その制圧、ってなってた」
「ああ、子孫を残せないなら、血が混ざることもない。ならいいだろって、ゴリ押したんだ」
二人を殺した功績。
それで得た結果だ。
もともとその証人欄は空白だった。
はなから受託されるはずのない書類だから、問題なかったのだろう。
「これがなんだよ」
「婚姻申請書は、もう1枚ある」
「は?」
「マゾーテ・リモエルの自室から見つかったものよ」
そうしてユトが差し出した書類には、
夫:ジャティ・リモエル
妻:モチャ・ファズ
証人:マゾーテ・ツィミス
とあった。
「なんだよ、、、これ、、、」
「憲兵団から借りてきた。これが見つかってあなたに再度疑いがかかったけど、二人を殺したのがあなただったから、、、」
「知らなかった、、、でもなんだよ、あいつ、二十歳でもなければ男でもないのに、、、証人になれる訳ないのに、、、本当に、馬鹿だ、、、」
「最初から、彼らはあなたに殺されるつもりだったのかもしれない。結局亡命できた人もいたんでしょう?二人は、両方、成し遂げたんだ」
「両方?」
「あなたが軍に信用されるように、仕向けたんじゃないかしら。自分たちという反逆者を殺させることで」
分かっていた。
彼らがどこからそう考えていのかは不明だ。
私がオペリンに負けていたら、、、いや、違うな。
彼らは、私がオペリンと闘うなんて思ってなかったのかもしれない。
裏切られて、その憎しみで自分たちを殺すと、そう考えていたのだろうか。
「本当に、馬鹿だ、、、」
私はその紙を握りながら、
「う、、、うわぁあああああああああああああああっ!!」
と、みっともなく泣いてしまった。
ユトが私の背をずっと撫でてくれていた。
そして、泣き止んだとき、彼女が淹れてくれた紅茶は、初めて美味しいと思った。
▲▽
「私、ぜったいエチカとは仲良くやれないぞ、似てるとか言われたらなおさらだ」
「私だってやれないからいいのよ、その辺はクランが間に入ってくれるでしょ。まぁ私はクランも苦手だけど」
結局、私はユトの誘いに乗ることになった。
5歳からいたこの第三騎兵師団を抜ける。
それは、今この時点で、この場所を保存しておきたいような、そんな気持ちがあったからだ。
空をみることは、当分やめにしようと思う。
そこには、三人の星が輝いている。
彼らは、今、1人なのだろうか。
私はもう少し、このしょうもない、愛も憎しみある硬い地面を見て歩みたい。
そこから、何か新しい物が見つかるかもしれないから。
戦いに意味はない。
結局、私たち三人の葛藤の結果、得したのは帝国だった。
私という、1人の信頼のおける覚醒者を得て、愛国心よりも情愛を優先する不穏分子二人を消せたのだから。
人生にも意味はない。
紅茶のように、香りだけで中身がない。
でも、当分はそれを楽しもうと思う。
きっと私はまだ子供なんだ。
5歳の時に心を閉ざしてしまったから。
だから、紅茶の良さに気づくのもこれから。
全部、これからだ____。




