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第0章 地下牢獄騒擾事件 挿話0-1 ミラリロ・バッケニアの日常

82,0709,23:43


第二騎兵師団

エチカ・ミーニア少尉


いつも大変お世話になっております。

第二騎兵師団所属、フランネ・アーミン二等兵でございます。


日差しがひときわ、厳しくなって参りましたね。

いつもの訓練も、こうなるとより苦しいものに感じられるようになりましたが、立派な兵となれるよう、日々訓練に邁進しております。


さて、本日から随時、ミラリロ・バッケニア上等兵のご様子をお伝えさせていただければと存じます。


本日は対ウーシア適合者会敵訓練の日でございました。

バッケニア上等兵は、敵兵役として参加されました。


室内訓練場(A-2)の入口の前で、バッケニア上等兵はなぜか中に入らず、立ち尽くしているのを遠くから見ておりました。


すると、2人の男性の新兵がバッケニア上等兵に気づいたのでしょう。


「おはようございます!ミラリロ・バッケニア上等兵。お会いできて光栄です!!」


「本日は何卒、よろしくお願い申し上げます!、、、、、、あの、中に入られないのですか?」


新兵は元気よく挨拶をしましたが、上官を置いて先に中に入ることもできずに混乱しておりました。

私は知っております。以前、バッケニア上等兵は、


「ミラリロは、建物とか部屋に入るのがひどく、苦手なんですの」


「それはどうして、とお聞きしても?」


「こちらから話しているのだから、当然ですわ。見えない糸が見えるのよ。ほら、中で人が動いていたり、話をしていたりすると、そこに糸が、複雑に絡まっては切れてを繰り返していて、そこにどう身体を潜り込ませればいいか、分からなくなってしまって、立ち尽くしてしまうの」


「それは、、、、、、どんな場所でも、バッケニア上等兵であれば歓迎いただけると思いますが」


「そうなんだけれど、入った瞬間に一気に向けられる意識が、恐ろしいのよ。何か、自分はおかしいところがあるのか、それともそこに居場所はないのか、って。意外かしら?でもね、騎士というのは、日常と戦場で人が変わるものですわ」


「そうであるなら、私はまだまだということですね」


そんな会話をしていただいたことがあります。

ですから、その時も対応に困ったのでしょう、新兵二人の視線をまじまじと受けて、それから逃げるように逸らした顔、その目から薄っすら涙が零れ落ちるのを見て、私は我慢ならず、


「ミラリロ・バッケニア上等兵、本日もよろしくお願いします」


と、声をかけました。

すると、


「、、、うっ、、、フランネっ!上官よりも集合が遅いなんて、まったく、良くありませんわよ。しっかりしなさい」


と、怒られてしまいましたが、その顔はほっとしたように見えました。

もちろん訓練になりましたら、


「己がウーシアに適合していないからといって、何もかもをあきらめたような顔をした愚か者ばかり。あなたたちが所属する、第二騎兵師団の師団長は誰?あの人は適合者ではないけれども、恐ろしく強く、自信に満ち満ちていますわ。若さだけが取り柄なのですから、無知でも蒙昧でも、やれることをやりなさい」


と、教育監督部隊も顔負けの説教をされておりました。

結局、本日はそのことが尾を引いてしまったのか、


『フランネ、昼食はまだ?食堂に行きましょう』


『フランネ、夕食に外に出ましょう』


『フランネ、私の部屋の扉を開けて頂戴』


と、指令が都度、入るようになりました。

先ほど入眠されて、こっそりとバッケニア上等兵の部屋から出、現在でございます。


以上でございます。

何かご不明点・不足等ございましたら、お手数をおかけいたしますが、ご連絡いただければ幸甚に存じます。


引き続き何卒よろしくお願い申し上げます。



82,0709,23:45


アーミン二等兵


遅くまでお疲れ様。

まず、そこまで畏まる必要はない。報告が頻繁になるため、楽な形で送ってくれれば構わない。お願いしたのはこちらだからな。

 

バッケニア上等兵のフォロー、大変助かる。

君のような存在がいて、彼女も救われているだろう。

私からも感謝する。

また、微に入り細を穿つ報告もありがとう。


最後に、自分のプライベートも大事にしなさい。

遅くまでありがとう。

 

次の報告もよろしく頼む。


(返信不要)




82,0712,01:24


エチカ少尉


お疲れ様でーす。

報告しまーす。


今日はミラリロ、任務だったらしいんですけど、なんか司令官が気に食わなかったらしいのと、爪切りに失敗して深爪になったらしく、相当荒れたみたいです。エチカ少尉に言うぞ、って脅されてキレちゃったみたいで、なんか建物の天辺の羊のモニュメントにそいつ突き刺して置いてきたって。面白すぎでしょ。


今、二人で飲んでまーす。肉のマリネが美味しい店なんですよ。

ミラリロ、10月が誕生日で21になるんですけど、今からだったら三か月分の給料だよねって言ってます。覚悟した方がいいですよ。

少尉は大人になったら一緒に行こ―ね。


写真添付します。

(悪用厳禁)




82,0712,05:12



アーミン二等兵


おはよう。


報告ありがとう。承知しました。

深酒には気を付けてください。

あと、全く面白くありません。追って当該指揮官より報告がありました。

 

引き続きお願いします。

 



82,0715,12:05


少尉、ヘルプ。


ミラリロと一緒に食堂に来てて、この子食堂苦手でしょ?それでなるべく早い時間に来たんだけど、なんか嫌いな配膳係の人がいたらしく、あなた痩せすぎだから大盛にしなさいって言われてて、また泣きそうで可哀そうだったから、この子は大盛で、私は少なめでって言って、後で交換したんだけど、そしたらミラリロ、いつもありがとうございますわってすごい丁寧に頭下げてて、めっちゃ面白かったんだけど、あ、それでさ、なんか食堂に私たちだけだったんだけど、テーブルを拭いて回っている清掃員の人がいて、それがアイリス・ライゼンバッハで、たまに居るから普通に流してたんだけど、なんか私たちのテーブルにも来て、ミラリロお姉様ここ拭くからどけてって言ってきて、ミラリロも、なんでわざわざ私たちがどける必要があるのかしら、ってなってバチバチなんだけど、他の人も入ってきちゃって、なんかすっごい注目されて、でっかい輪できちゃってんの、だからヘルプ。




82,0715,12:05


任務で外に出ているから難しい。

なんとかしてくれ。

最悪、ジャルジャ中将に頼むように。


あと、時系列ではなく、要点をまとめて報告するように。


よろしく頼む。




82,0715,19:24


アーミン二等兵


お疲れ様。

 

今日は日中、サポートできずに申し訳なかった。

その後どうなっただろうか。


可能であれば報告を。




82,0716,03:29


報告忘れてました!

 

あの後、結局ジャルジャ中将をお呼びしてその場は治めまして、今、ミラリロとジャルジャ中将と一緒に飲んでます!

全部奢ってくれるって。

 

ジャルジャ中将、めちゃめちゃ面白いです。

エチカ少尉も見習った方がいいですよ。


今、ジャルジャ中将の乳首当てゲームをしています。

筋肉があって、思ったより下側で外側でした。


現場からは以上。


写真添付します。

(私とミラリロは化粧が崩れてるので、ジャルジャ中将だけ使っていいですよ)




 82,0716,05:12


 アーミン二等兵


 お疲れ様。


 昨日はありがとう。

 あまりジャルジャ中将を困らせない様に。

 見習うべきではないですが、偉大な上官です。


 引き続きよろしく。


▲▽

 

エチカはそこまでメッセージを振り返って、それ以上読み進めることができなかった。ただ、最後に届いたフランネ・アーミン二等兵からのメールを、再度目に焼きつける。



82,0829,02:11


第二騎兵師団

エチカ・ミーニア少尉


夜分遅くに大変失礼いたします。

第二騎兵師団所属、フランネ・アーミン二等兵でございます。


あの日から、ミラリロが姿を見せなくなってから、どうにも良く眠ることができません。

軍からは長期療養による離脱と報告がありましたが、本当でしょうか。

この質問に意味がないことは知っていますが、どうかご容赦ください。


ミラリロと初めて会ったのは、入隊後、教育監督部隊による初期カリキュラムを終え、初めての任務のときでした。3年前になるでしょうか。


この人が第二次クランツェル反乱で活躍し、嬰児の覇者と呼ばれる人かと、最初は震える声で挨拶をしたのを覚えています。案の定、軽く会釈だけで返されました。


任務は、帝国とフォラリス神聖国を流れるエクーニャ川で、神聖国が毒物を流しているという噂の偵察でした。

結果はご存じでしょうが、神聖国の兵士と会敵し、戦闘となりました。


ミラリロの活躍で、私はまったくすることがなく終わった、苦い経験ではありましたが、今でもあの時の会話だけは幸せなものとして覚えています。


「ミラリロ・バッケニア上等兵」


「、、、、、、なにかしら?」


「何もお役に立てず、申し訳ございませんでした」


「それはミラリロにではなく、指揮官に言って頂戴。それから、兵士の反省は人に述べるものではないわ。それは指揮官のすること。自分の反省は自分に言うことですわ」


「心に刻みます。ありがとう、、、、、、、、」


「まだなにか?」


「バッケニア上等兵、大変失礼ですが、、、」


「前置きはいいわ」


「あの、ネイルが剥がれております」


「、、、、、、、、、、、、騎士にとって、そんなことは些末よ。どういうつもり?」


「いえ、とても綺麗な装飾ですので、大事なものかと」


そう言うと、ミラリロはとても驚くと同時に、静かになってしまって、今にも泣き出しそうでした。私はどこからそんな勇気が出たのか、指揮官に、


「ミラリロ・バッケニア上等兵が負傷しております。先に転移して営舎に戻ることを、どうか許可していただけないでしょうか?」


と言っていました。

残っていたのは後処理だけでしたので、私たちは先に戻りました。そして、ミラリロの部屋に招待され、


「あなたの爪もやってあげますわ」


と、私の手を取って、ネイルを施してくれました。あの時、まだ少し震えた手が、今もこの手を握ったままのように感じます。

ほとんど同い年の私たちは、やはり、同僚としてはあまりにも力量が離れていますが、友人としてはいつも一緒におりました。


どうか、ミラリロをよろしくお願いいたします。

彼女はいつも、「ミラリロがいなくなったら、エチカ少尉を頼りなさい」と言っていました。

ですから、お願いいたします。


元気なミラリロに会いたい。

 

会いたい。

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