第1話 王様と勇者
かつて、まだ魔王が世界で争いを生んでいたころ、ランリツ王国という国があった。
ここは、その王都にあるコクオウノ城だ。
決して、国王の城だからコクオウノ城と名づけたわけではないからね!
その日は都中が嵐だった。外では雨が吹き乱れ、風は荒れ狂っていた。民達は嵐に体を持っていかれないように建物の中に身を潜めてしまっていたため、王都には人っ子一人いなかった。
そんな中、王城に一人の少年がやってきた。
彼は騎士たちに招待状を見せると、急いだ様子で謁見の間へと向かっていった。
謁見の間の王座には国王、ナメラレ・チャウ三世が座っていた。
さすがは王というべきか、その威厳(脂肪も)たっぷりな顔からはちっとも覇気が感じられなかった。
少年は早足で広い謁見の間を進み、王座の前に跪いた。
「よく来た。顔を上げよ」
謁見の間を一人歩いていた少年。彼は勇者だった。
金髪の髪に黒色の目。
そして、――服装、身だしなみ、全てとてもだらしない格好をしており、少しも強そうには見えない。
「勇者よ。貴殿に頼み事が――」
「こんにちは! 結構遠くから来たんだから、ギャラ高いっすよね?」
王と勇者の間にしばしの沈黙が流れる。
外では風の勢いがさらに増していく。
そうだ。王よ、一旦落ち着こう。
まだ君はなにも喋ってない。なにも起こってない。
よし。仕切り直しだ。
王は大きく咳払いをした後、つづきを話し始めた。
「勇者よ。貴殿に頼み事がある。重大な任務じゃから、心して聞け。魔王を倒し――」
ピカッ
ガッシャーン
目も眩むような光に遅れて王都中に大きな雷鳴が轟く。
「えーい! いい加減にしろ! なぜさっきまで見渡す限りの晴天だったのに、今はこんなに天気が悪いのじゃ!? まさかとは思うが、貴様、派手に登場したかったからじゃあ――!」
「それは…! 派手に登場したかったからに決まっているでしょう!」
王と勇者の間に二度目の沈黙が流れる。
「なんでわしのセリフ、こんなうまくキマらないのじゃろう? もしかして、わし舐められとる?」
王は話を遮られたのがショックだったのかすっかり意気消沈していた。
「まあまあ、魔王を倒せと言うことでしょう? 分かってますって。あの展開でそうじゃなかったら逆におかしいですよ」
その勇者の名はフラグ・タテールといった。
彼は幼い頃から両親を知らずに育ったが、魔物との戦い方や自然の中で生きる術を学ぶことができたのは、彼の義父の存在が大きいだろう。
フラグは修行をしながら仲間を集め、遂にその名を国中に轟かせた。
そして、彼の噂を聞きつけた国王は因縁の魔王を倒す為に、彼をこの城へ呼び寄せたという訳だ。
「そうじゃ! あの憎らしき魔王ヒキを倒して、世界中にこの国の強さを世に知らしめ…じゃなくて、世界の平和を取り戻すのじゃ! そして――」
「じゃ、行ってきまーす!」
しかし、彼はすごくカスだった。
うん。すごくね。
彼は王の言葉を最後まで聞かずに、城から飛び出して仲間達が待つ宿屋へ向かった。
宿に帰ってくると、部屋から騒ぎ声が聞こえてきた。
「フフフ、こいつら俺の帰りを楽しみに待ってやがるな。ここで、俺がカッコよく登場すれば皆んなにキャーキャー言われるに違いない!」
そう一人呟き転移魔法で派手に部屋の中に飛び込んだ。
「よーっす! 帰ってきたぜ、雑魚ども―グヘェ!!」
「うるさい! 今重要な会議中! あ、ごめん」
彼女の名前はツヨ・イー。
赤髪のフラグと同じくらいの歳に見える少女だ。その名の通り彼女はとても強く、ただの平手打ちで2階の壁を突き破って勇者は吹き飛ばされていった。
「おいツヨ。力の制御ができてないぞ。フラグじゃなかったら今の一撃で死んでいた」
黒縁メガネをクイッとやって、冷静に話すのは騎士である、アクチュアリー・フールだ。
彼はこのパーティーの自称頭脳枠。分からないことがあれば彼に聞くといい。
きっと間違えた答えが返ってくるはずさ!
「ごめんなさい。ちょっと力加減を間違えちゃったの」
そういうツヨの目にはだんだん涙が浮かんできていた。
「まあまあ、アクもそこら辺にしときなさい。ツヨちゃんが泣いちゃうじゃないの」
そうなだめるのはツヨの姉である、魔法使いヤバ・イーだ。彼女もその名の通りヤバいほど強く、通常魔法でさえ地形を変える火力を持つ。
ツヨ、ヤバ、アクチュアリー。これにフラグを合わせて計4人のパーティーで勇者たちは旅をしていた。
「おい。誰も俺の心配をしないようだが、リーダーを敬う気持ちはないのか? これから魔王を倒しにいくんだぞ?」
フラグが瓦礫の中から飛び出してきた。見事なジャンプ力で部屋に着地する。
魔王討伐に何の緊張感もない勇者に一同は口を揃えてこう言った。
「「ないね」」
今日は素敵な日だ。
空は雲一つなく、暖かい太陽の光が大地を照らす。少し不安も感じるが、こうして勇者達の冒険が始まったのである。
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