背水の陣(逃げ道あり)
残り272日!94日目!
もう二度と逃げたくないと思って今日まで生きてきた。というか、もう後は断崖絶壁で背水の陣のつもりで前に進むしかない状態で、ここが自分の死場所だと思っていた。
しかし、いざ振り返ると平和そのもので背水の陣を敷いたと思っていたが、少し横を見れば橋が掛かっているのを見つけたり、急流だと思っていた川の流れが川遊びにぴったりなくらい緩やか流れであったり。
全てを差し出して目の前の敵と戦っていたつもりだったのに逃げ道が至る所に用意されている事に気づいてしまった。
初めは戦う事に夢中で周りが見えなかった為にもう逃げ場なんてものはないと燃えていたが、戦いに疲労して、休憩しながら落ち着いて見渡すと、至る所に戦わなくてもいい平和そうな道が用意されているのが見えた。
何より自分を攻めに来ていたと思っていた敵は休憩中はこちらを攻撃しようとはしない、自分が向かって行くから向こうも攻撃してくるのであった。
他に見える戦わないで済む道と目の前で剣や槍を握ってこちらを殺そうと睨んでいる兵士達がいる戦場。
冷静になった今では戦わないで済む道がどれだけ平和で楽そうかと妄想するが、その道を選んで進む事が出来なかった。
元々、目の前の戦場にいる敵を撃ち倒し切り開いた道を突き進み、その武功を世界に轟かせるのが目的だったのだ。それなのに戦場から背を向けて逃げの道へ行ったとしたら、ここから一生、自分は戦場から逃げ出した負け犬のレッテルを心の中に感じて生きていかなければならない。
熱に浮かされて心を燃やすようなあの戦場には二度と帰れないと思うと、逃げる道を選ぶ事は出来なかった。
だからと言ってすぐに戦場に戻る事も出来なかった。
あの場所の恐ろしさも身に染みて感じてしまったからだ。
常に神経を擦り減らし誰に斬りかかられてもおかしくない、下手したら二度と立てなくなる程の負傷をする可能性だってある。同じ戦場に立っていた人間が何人も切り伏せられ倒れて行く姿だって多く見た。
弱卒な自分は死なないように身を守りながらとにかく必死になって戦うしかないなか、ベテラン兵士や才能のある兵士達はドンドン道を切り開いて前へと進んでいく。
至る所で武功を上げる声が聞こえる中、何の結果も残せず焦りが募る毎日であった。
その毎日に溜まった疲労で一度下がったこの場所は自分の分岐点であった。
逃げるか再び死地に踏み込むか。
どちらを選んでもシンドイであろうなと思う。そもそもこの戦場から逃げ出した道の先が本当に平和かどうかは行ってみないと分からない。目の前の戦場よりももっと過酷な環境で生き抜かないといけないかもしれない。
そうなれば逃げた負い目を持ちながら過酷な世界を生きないといけなくなる。
ただ、だからと言ってもう一度この剣を握り戦場へと身を投げ出す事も恐ろしくて出来なかった。
結局、自分が選んだのは停滞する事だった。
逃げもせず、戦いもせず、この分岐点に留まる事だった。
戦場を目の前にして全く戦わない事はしたくなかった為、安全圏から投石などしてみてはいるものの、そんなもので武功を上げられるわけもない。
もしかしたら、偶然、当たりどころが悪く、もしくは良く、敵将に当たって致命的な一撃を与えられる事もあるかもしれないが、そんなの本当に運が良くないと起きえない事は理解していた。
だがこの場所は楽であった。
一切自分を傷つける事もなく逃げたと言う実感もない。一応自分は戦っているという姿勢だけは取れている。
かなりの運が必要とは言え石を投げ続ける限り、もしかすれば武功を上げられると言う夢だって見ることが出来る。最高の場所であった。
ただ使わなくなって日に日に錆びていく元々は相棒のような存在であった剣だけは悲しげにそんな自分の姿を見つめている気がした。
今回は背水の陣だと思っていたなと思ったので書いてみました!




