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親父と父

残り273日!93日目!

「あ」


 家に帰ると親父が居た。いや、実家暮らしのため家に自分の父親が居るのはそれほど不思議な事ではないのだが、平日は仕事の帰りが遅い親父が俺の高校から帰って来る時間帯に家の中にいる事はかなり珍しかった。


 家に親父がいた驚きで思わず声をあげてしまったせいで声に気付いた親父がコッチを向いた。


 慣れない状況にどうすればいいか少し戸惑うが、よくよく考えなくとも簡単な一言が口から出る。


「た、ただいま」


 家に帰って来たのだからコレが正しいセリフであるが少し気恥ずかしいのは何故だろうか。そして、親父はと言うと帰ってきた息子に対して「おかえり」なんて言わずに「おう」とだけ言って視線を外しテレビに向けた。


 そんな親父の態度にイラッとしてしまう。別に大した事はないし、親父が「おかえり」と気さくに言うタイプではないのは知っているがイラッとしてしまう。


 親父がテレビ前にあるソファーに座っているので、学校カバンを適当な所に置いて食卓に使っているテーブルがある椅子に腰掛ける。


 しかし、何か居心地が悪い。


 母親も共働きで出ているので帰ってくるのはもう少し後になるはずだったので、家に誰もいない時間をくつろごうと思っていたのに面食らってしまったのはあるだろう。いつもなら俺がくつろいでいるソファーを取られているのも一つの理由だろうか。


 何となくリビングの椅子に座ったが、自分の部屋に行けば良かったのだと今更ながら気付いた。帰って来たらしばらくはリビングでテレビを見たりお菓子を食べたりして、くつろいでいた為、習慣的にリビングに居座ってしまった。


 普段の平日に親父が帰る頃には基本的に自分は部屋にいる為、リビングで親父と一緒になる事はほとんどない。


 この居心地の悪さは住んでいる空間にあまり話さない知り合いぐらいの人間がここの住人であるようにいるからだと思い至る。


 親父もここの住人であるのは当然だが間違いないのだが、普段一緒におらず会話もない為の心の距離感なのだろうと悟る。


 さっさと気まずいこの場所から逃げ出そうと椅子から立ち上がろうとすると


「なぁ、最近学校はどうだ?」


 急に話し掛けられてまず驚いたが「学校はどうだ?」って何だよと再びイラッとしてしまう。具体性のない質問に何と答えればいいか分からず


「特に何もないかな。普通に授業受けてる」


 と適当に答えると親父は「そうか」と言って話は広がらない。何でそんな事聞いたんだよとイライラが更に募っていく。これ以上リビングにいたら親父がいるというだけで意味もなくイライラしそうだった為に、冷蔵庫にあった麦茶を飲んでから自分の部屋へと戻るのであった。





 仕事の都合というかアクシデントで夜の仕事が不可能になり今日は帰宅してもいいという事になり平日の昼から暇になった。


 暇であるからと言って特に用事も作る事は出来ない。昔であればパチンコに行ったり飲みに行ったりでどれだけでも時間を潰せただろうが、今ではそんな事に時間を使う元気はなかった。


 いや、久しぶり遊んでみたら楽しいかもと昔を思い出すが足は家路へと向いていた。


 帰ると当然だが誰もいなかった。妻は仕事で息子は学校だろう。


 誰もいない家に帰るのはいつぶりだろうか、もしかすると息子が生まれてから初めての事かもしれない。そもそも今回の職場で起こったアクシデントだって何十年と働いてきて初めての出来事だったのだから。


 急に職場の全マシンが動かなくなった時は驚き焦りはしたが、明日には無事仕事が出来るようになると聞いて胸を撫で下ろした。その瞬間に訪れた安心感が家に帰った今で尾を引きずっている。


 家に帰って来たが特にする事もないので、テレビを点けてソファーに座りくつろぐ。いつもは妻の作る夕飯後にお酒と一緒にゆっくりするのだが、こんな早い時間からアルコールを摂るというのは少し気が引けたのでテレビを点けるだけにとどめた。


 しばらくテレビを眺めていた。それほど面白い訳でもなかったが眺めているだけで時間を潰す事は出来た。もう夕方と呼べる時間になった頃に玄関の鍵が開く音がした。


 妻の帰りはまだ遅いので時間的に息子が帰って来たのだろうと思った。


 しかし、普段いない父が急にリビングにいたら息子は困惑するのではないだろうか。どういう言い訳をすればいいかと頭の中で考える。やましい事がないのになぜ説明ではなく言い訳として考えているのか不思議に思っているとリビングのドアが開いた。


「あ」


 と、息子が驚いたような声を上げた。そっちの方へ顔を向けきっと驚いているであろう息子に何故いるのかを言い訳もとい説明しようと頭の中で流れる今日あった出来事を話そうと思うが気恥ずかしくなり何も言えなくなった。


「た、ただいま」


 息子が言うがやはり何か気恥ずかしいので「おかえり」ではなく「おう」と短い返事を返して視線をテレビにまた移してしまう。


 息子はそのまま食卓のテーブルの方へ向かったようだった。たまにソファーにお菓子のゴミが落ちている事があるので普段はここに座っているのだろうが、流石に父に退いてと言うような息子ではなかった。


 しかし、急に居心地が悪くなった。


 悪さを感じているからか、テレビの内容が逆に頭の中によく入ってくるせいで時間の流れがゆっくりに感じられる。


 これは、自分の息子とはいえ普段は会話しないせいで、ちょっとした顔見知りが家の中にいるような気まずさがあるせいなのだろうか?


 親子だと言うのにそれでいいのだろうかと感じてしまう。こんなチャンスは滅多にないだろうから、少しは息子と会話するべきなのかもしれない。


「なぁ、最近学校はどうだ?」


 テレビから視線は外せない。息子の顔を見て話すのが何となく恥ずかしかったからだ。


「特に何もないかな。普通に授業を受けてる」


 と素っ気ない返事を貰う。しかも、声は低く少し苛立ちの様子が見えた気がした。あまり話し掛けられたくなかったのかと思い「そうか」と言って結局それ以上は話し掛けられなかった。


 背後で息子が立ち上がる音がした。冷蔵庫に向い麦茶を飲んでいるので喉が渇いたのかと思ったら、そのまま部屋を出て行ってしまった。


 自分の部屋に行ったのだろうと廊下から聞こえる音で察する。


 緊張から解放されたかのように大きな息を吐く。何故これほど家で緊張しているのだと自分でも馬鹿馬鹿しくなる。


 息子と言うのは何であんなに太々しいのだろうかと先程の態度を見て考える。


 まぁ思春期だからだろうとすぐに考えるのを辞める。息子がいなくなり緊張感がなくなった部屋で再びくつろぐのであった。



 その後の夕飯の食卓ではお互い似た顔のムスッとした表情で父と子が食事を摂り母親だけが常に上機嫌で話し続けるという光景がそこにはあった。


今回は父がいたので書いてみました!

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