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一杯のラーメン

残り277日!89日目!

 ラーメン一杯が贅沢な食事であった。


 そこに唐揚げや餃子のセットを付ければ特別なお祝いのような豪華さがそこに生まれた。


 金欠の大学生とはそういうものなのだろう。一杯のラーメンで訪れる幸福感はその一杯に内包されているスープを含んだカロリー以上だろう。


 そもそも普段食べている物が5枚入り100円と賞味期限が近くなって安く売っていた食パン、家から送られてくる白米、それらにバター付ける、フリカケをかけるなどなど。


 料理が出来ない為に家の中ではそんな貧相な食生活を送る事になる。大学では食堂に通い、120円で食べられる謎の白身魚フライ定食。


 ご飯、味噌汁、千切りキャベツ、冷奴にメインの白身魚という120円とは思えない程のセット内容の食事を食べる事で胃を誤魔化して満足させていた。


 ただ食欲というのは何とも業であり、生きるには十分なはずの食事を摂っていてももっと美味しいモノを食べさせろと暴れ出す。好きなものを食べさせろと言うのだ。


 甘いモノを、辛いモノを、大量の肉を、味の濃い料理を、ラーメンを、食べさせろと胃と頭の中を支配し狂わせてくる。


 そんな時に、どうしても食欲に負ける場合、近所にあるラーメンやとファミレスの2択が頭に現れる。


 それ以外は移動距離と食べる値段が釣り合わない。それに、食欲に負けるという事は胃が限界を迎えている証拠であり、近所の飯屋でないと我慢が出来なかった。


 頭にラーメンかファミレスの二択であれば大抵はラーメンを選んでいた。どうしても肉が食べたい、その他揚げ物が食べたいという理由が無ければラーメンを選んでいた。


 下宿先から歩いて五分で着くそこは、豚骨系の細麺を提供するそのラーメン屋で、髭の生えた強面の店主が運営する個人店であった。


 個人的なやり取りは一切なかった。こちらは偶に食べる御馳走として印象強かっただろうが、向こうからすれば偶に来るお客さんくらいの認識だったはずである。


 ラーメンはあっさりとコッテリの二種類でいつもコッテリを選んでいた。出来るだけカロリーが欲しいという浅ましい考えがあった訳ではなく、この店はコッテリが美味しかった。


 もしかしたら、体がカロリーを欲っするあまりコッテリを美味しく感じたのかもしれないが。


 ラーメン屋に来たからと言っても、まだ食欲との葛藤は続く。


 セットにするか、大盛にするか、替え玉をするかどうか。頭の中で簡単な算盤を弾きながら、これからの出費を考え食欲と争い合う。


 ただ、もう既に食欲に負けている訳で、頭の中は腹いっぱい食べたいという考えで、いくら出費の計算をしても何とかなるだろうと、大盛で頼んだり替え玉を頼んでいた。


 そして頭が霞むほどの空腹の時や何か自分の中で特別な事があった時のご褒美として唐揚げをセットで注文していた。


 自分の幸福とはこのラーメン屋にあったのである。




 目の前に湯気が立つラーメンが提供され、隣には先に来ていた餃子とチャーハンが並んでいる。美味しそうな料理を目の前に、下腹をつまむ。


 最近かなり肉がついてきた気がする。こんなに食べてもいいのかと悩みながらも、それは頼む前に悩む事で頼んだ後に悩んでも後の祭りである。


 コッテリとした麺を啜り上げて餃子もチャーハンも遠慮なく食べ、腹を満たし、美味しい食事という幸福に浸っていく。


 たまに大学時代に通っていたラーメン屋の事を思い出す。卒業後は地元の実家に戻った為に、それから一度も行く事がなかった。


 大学時代とは違い就職して、しっかりとした給料を貰うようになり実家暮らしで掛かるお金が更に減った為に、自由に使う事が出来るお金があの頃よりも比べ物にならない程に増えた。


 好きなモノは好きな時に食べる事が出来るし、そもそも実家では母が料理してくれている為に学生の時のように飢えで苦しむ事も毎日、同じものを口にする事もなかった。


 こうしてラーメン屋に来ても大盛りにするかセットを頼むかどうか悩むことなく、食べたい物を頼んでいた。


 最近太って来たので、それで悩む事はあってもラーメン屋で払う出費で頭を悩ませることはもうなかった。それが何と幸せな事だろうかと思う事があった。


 大学時代に比べて何て贅沢な暮らしが出来ているのだろうかと。美味しい物を好きなだけ食べられるというのは幸福な事だとラーメンを啜る程に染みた。染みていた。


 染みすぎて、食べ過ぎてしまったと言うのはあるだろうが。自制をしないと行けないと思いつつも、大学時代の食欲を抑えていた反動か自分の食欲に全く抑制が効かないようになっていた。


 食事をする事に幸福を感じる毎日だが、あの下宿先の近所にあったラーメン屋のラーメン程美味く幸福を満たすラーメン、いや、それどころか食べた料理の中にもなかった。


 空腹こそが最大のスパイスという言葉があるが真実なのだと身に染みて思う。あの味、一口目から幸福に包まれる感覚を今でも思い出せる。最高の幸せを感じるあの瞬間を。


 だからと言って、大学時代の生活に戻りたいとは、全く思わないが。


 全て空になった食器を前にパンパンになった腹を撫でる。間違いなく毎日腹を満帆にする今の生活の方が幸せであると比較して確信できる。


 あのラーメン一杯に勝る幸福はなくとも、今は日々が満たされとても幸福なのだ。腹を空かせて苦しむ事もない。幸福な毎日。


 それでも、また幸福の一杯を求めると言うのは強欲過ぎる気がする。


 とは言えまた、機会があれば、あのラーメン屋に立ち寄ってラーメンを食べたいと思う時がある。学生の時程の幸福はないとしても、幸福な思い出に浸る事は出来るだろう。


 再び腹を撫でる。学生時代よりも明らかに出てきた腹を撫でまた後悔する。食べ過ぎたと。


 その幸福の後にやってくる後悔は、お金がないのに食べ過ぎてしまった学生時代と同じ感情であった。


今回はお腹が空いたので書いてみました!

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