背中の見せ方
残り281日!85日!
「ねぇねぇ! 見てて!」
と、空のペットボトルを持ってきた息子は中身がないにも関わらず、そのペットボトルに口をつける。
そして一息吸って次の瞬間
――ボォーーー
重低音が鳴り響いた。そして息を限界まで吐き切り音を止ませると、息子は満足そうにコチラを見た。 成程、凄いだろうと言いたいのだ。
その気持ちを察して息子の頭を撫でる
「凄いな! 自分で思いついたの?」
「先生に教えて貰った!」
ゴミになる空きペットボトルを音の出るおもちゃに変えるとは恐れ入った。これならどんな家庭でも遊ぶ事は可能だ。遊びに対する創意工夫がされている保育園に感心する。
ただ、やはり父というのは子供より先に行かなければならない。大きい背中を見せる事で息子も大きくなると信じている。
「よし、それじゃあお父さんもやってみようかな」
そう言うと手に持っていたペットボトルを息子が渡してきたがそれを断る。息子の涎がべったり付いていて口を付ける事に少し抵抗があったのもあるが、威厳を見せる為には息子よりも凄い父でなくてはならない。
だから立ち上がって台所を見に行く。昨日、飲み干した2ℓのペットボトルがどこかにあるはずである。
「あった」
それ程、探さずとも見つかった為、一応、水道で口の部分と中身を洗い流して再び息子の所へ戻る。
自分の父親が手に持っている大きな2ℓペットボトルと自分の500㎖ペットボトルを比べて驚きの表情を作っている。
「うおぉぉ! でっかい!」
5歳とは大きいモノが全てで、力だと思う歳頃であろう。俺も確かそうであったはずだ。これを吹けるとなると父の威厳も示せるというものだ。
いざ、とペットボトルに口をつけて息を吐き出す。
――ヴォォォーーー
と息子の物よりももっと低く大きな音が鳴る。容器が大きくなれば低い音が出るし、音の大きさは単純に肺活量の問題だろう。そして何の練習もせずに音を出せたのは、自分も息子と同じその道を通って来たからであった。
ハマったのは小学生の頃だった気がするから息子の方が一歩早くペットボトルで音を出す事が出来る様になったという事だが、息子が自分で気付いたならまだしも、誰かに教えて貰ったというのであれば、そこに優劣はないだろうと思う。
それに大事なのは今だ。父である事に威厳を息子にみせればいいのだから、昔の事で比較する必要はない。その証拠に自分よりもずっと大きなペットボトルをならした父親に尊敬の視線を息子は向けている。
父として息子に小さくても良い所を見せる瞬間というのはなんとも気持ちの良い瞬間であり、息子が愛おしくなる瞬間であった。
父がそんな気持ちになっているとは思ってもいない息子は、俺が持っていた大きなペットボトルをせがんできた。もう一度は鳴らして息子に見せつけて満足したのでそのまま自分が持っていた2ℓペットボトルを息子に渡す。それに、これは息子が父に追いつかんとする挑戦でもあると受け取った。
息子は俺の口がついたペットボトルに気にせず口を付けて同じように鳴らそうとする。
――フスーー
空気が抜ける音がする。息子は何度も試してみるが俺と同じような音は出ない。単純に息子の肺活量では2ℓのペットボトルは大きすぎて鳴らないのである。
これで父の凄さも理解してくれただろうか。これが歳の差という奴だ。いずれ埋められるだけではなく、コッチは衰えていく差でもあるのだが、今は俺に分がある。
それを理解される前に大きな背中を出来るだけ見せていたい。
こんなしょうもないと思えるようなペットボトルを鳴らす行為一つ取ってもだ。
「もう一回鳴らして!」
結局何度も挑戦したが鳴らす事が出来なかった息子がペットボトルを差し出してくる。
口を付けた部分は相変わらず涎でネトネトになってテカっているが断るのもキラキラとした目を向けてくる息子に悪い気がするので受け取って近くにあったティッシュでふき取る。
もっと大きい音を出してやろうと沢山息を吸い込んで口を付けて力を入れる。
――ブゥーー
と、明らかにペットボトルではない場所から音が鳴る。音の発生源は息子の尻だった。
「「あははは!」」
あんまりにもタイミングが良すぎる息子の屁に二人で1分以上笑っていた気がする。もし狙っていたのならユーモアセンスは既に俺を超えているかもしれない。
しかし、今はいいがもう少し大きくなっても屁で笑いを取るのは父としては勘弁して欲しい所だが、そのユーモアで誰からも愛される人気者になったら嬉しいなと思う。
頭を撫でるとサラサラとした髪の感触が気持ちいい。
息子がどんな人間になるかは分からないが、少しでも良い方向に歩めるように、ちょっとのズルをしたって大きく見える背中を見せ続けたいと改めて思うのだった。
今回はペットボトルが落ちていたので書いてみました!




