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遠足の自由時間

残り283日!83日目!

 遠足の自由行動で本を読んでいる女子がいる。


 6年になって初めてクラスが一緒になったその眼鏡を掛けた地味な女子は学校でもいつも静かに本を読んでおり、一人であった。


 特にこれまで気にしていた訳ではなく、ただあまり話さない女子で本をいつも読んでいるというだけの認識だけ彼女に持っていた。


 しかし、6年になって初めての遠足。県内の広い公園まで歩き、皆で弁当を広げて食べた後、おやつの交換も済ませるという遠足の醍醐味を堪能した後の事だった。


 普段遊ぶ事のない広い公園に目を輝かせ、さぁ遊びに行くぞと駆けだそうとした時だった。相変わらず一人でいる彼女の姿が目に入ったのだった。


 彼女はレジャーシートの上にお菓子と水筒を広げながら本を読んでいたのだった。


 こんな所に来てまで本を読むのかと驚いて、今まで彼女を意識していた訳ではなかったが、これがキッカケで彼女は相当変な奴だと改めて思い直した。


 あまり本は読まない為、本というのはそれ程面白いものなのかと彼女と彼女が読んでいる本に興味が出てしまった。でも、一番興味が本当にあったのは彼女が食べているお菓子である。


 どれもスーパーの駄菓子コーナーで売っていないお菓子で、自分の手持ちのお菓子と交換できるかは分からなかったが、一つでいいから食べてみたいと思ったのだった。


 近付いて彼女の正面に立ち話し掛けてみる


「なぁ、なんで遠足に来てまで本を読んでるんだ?」


「自由時間だからよ」


 と少し素っ気ない返事がくる。だが返事がある事が既に少し驚きであったので会話が出来るんだと感じてしまった。宇宙人を相手にしているような気持ちであった事に気が付いたのはその時であった。


「せっかくの遠足なのに勿体なくない? 本ならいつも学校で読んでるんだから今日くらい本を読む以外の事をしたらいいのに」


「自由時間に自分の好きな事をするのは当然だと思うんだけど? それに私は遠足ならではの特別な事をしているわ」


「特別な事って?」


「外で読書しているじゃない。いつもは教室でしょ?」


 おー確かにと納得させられそうになったが、いやいやと考えを改める。外でも中でも読んでいる物が同じならどっちだって何も変わらないじゃないか。


「外でも中でも一緒じゃないの?」


「気分が全然違うわよ」


 と言って彼女は小袋で分けられたお菓子の包装を破ると一口で食べてしまう。


「それ一個貰っていい? 俺のミニドーナッツ上げるから、それとも飴の方がいい?」


 彼女がお菓子に手を伸ばしたのを見てつい本の話題からお菓子の話題に変えてしまった。意地汚く思われてそうで彼女の表情を見てしまう。


「好きに食べていいわよ。どうせこんなに食べ切れなかったし、アナタのお菓子は別にいいわ」


 表情は何も変わらない。淡々とした様子で本に視線を向けて集中している。そんな事よりも好きに食べていいと彼女は言ったのだ。好きに食べさせて貰おうと彼女のレジャーシートに靴を脱いでお邪魔した。


 靴を脱いでレジャーシートに入ろうとした時に一瞬だけ本から視線を外してコチラを見たが、特に気にした様子もなくまた本に視線を戻した。


「じゃあ、これ貰おうかな」


 どれも家では見た事がない高級そうなお菓子から一つを選ぶのは難しかったが、真ん中に赤い宝石のようなものが付いている花形のクッキーが綺麗だったのでそれにする事にした。


「本当に貰って良いの?」


「好きにしたらいいわ」


 お言葉に甘えて袋から取り出して口の中に入れると、さっき友達と交換して食べていたどのお菓子よりも、まだ言葉に出来ないような深い味がした。とても美味しいのだが、これなら砂糖がまぶしてあるミニドーナッツの方がもしかしたら好きかもしれないと、未知のお菓子に勝手ながら少々ガッカリしてしまった。


 とは言えお菓子はまだ沢山種類がある。好きにしていいと言うのであれば、どれだけでも食べていいと言うことなのだろう。と、チラチラと顔色を窺うようにして、再びお菓子に手を伸ばすが彼女はジッと本を読むだけで何も言わない。


 それを良い事に次は貝殻が膨らんだみたいなお菓子を食べる。美味しいがお菓子というよりパンに近い気がする。高級菓子というのは、駄菓子とは全然違うものなんだなと改めて思い知らされる。


 なにかもっと甘そうなのはないかと探してみるとチョコクッキーらしきものが目に入った。


 あれにしようと手を伸ばそうとすると先に彼女の手が伸びてきてそれを取っていき慣れた手つきで包装を外し口に入れようとする。


「あっ!」


 思わず大きな声を出してしまう。彼女もビックリして本から目を離してコッチを見ている。惜しそうに手を伸ばす僕を見てなにか勘付いたのか口元まで持って行っていたチョコクッキーを彼女は僕に差し出す。


「欲しいの?」


「いいの?」


「いいよ」


 なんて優しい子なんだろうと僕はそのチョコクッキーを喜んで受け取り口の中に入れる。想像していた味よりも硬い味がしたが、チョコレートの甘味は感じる事ができ、口の中を幸せで満たしてくれる。


 彼女も膨らんだ貝殻のようなお菓子を手に取って食べると、何で人が食べている物はこんなにも美味しそうに見えるのだろうかと不思議に思えた。


 喉が渇いたので水筒に秘密でいれてきたスポーツドリンクを飲む。本当はお茶しか駄目なのだが、水稲の中身など自分で白状しない限りバレる訳ないのでこっそり今朝、粉を溶かして作ってきたのである。


 しかも濃いめに。これ程幸せな事はないと言える。


 ぷはっと息を吐く。美味しいお菓子に秘密のジュース。まさにここが天国であった。


 しかし、彼女のお菓子ばかり食べるのもなんだか悪い気がしてきたので、自分が持って来ていた飴を口の中に放り込んで寂しさを紛らわせようとする。


 カラコロカラコロ音を鳴らしながら飴を舐めていると、彼女のお菓子にばかり集中していた視線が周囲の風景にむけられ良く見えるようになった。


 皆、思い思いに体を使って遊んでいる。向こうでは鬼ごっこ、向こうではサッカー、向こうでは野球、向こうではバレボール、多様な遊具もあって非常に楽しそうだ。


 それをみてふと疑問に思ったことがあった。


「なんで遠足に来てまで本を読んでいるんだ?」


「自由時間に好きな事をするのは当然だってさっき答えたでしょ」


 そうだった。外と中では気分が変わるとも言っていたような気がする。


「でも本の内容は変わらないんだからどこで読んでも同じなんじゃないか?」


 彼女が一瞬だけ本を読むのが止まった気配がした。しかし、またすぐに目が文字を追うようになる。


「じゃあ、アナタは自由時間中に何をするつもりだったの?」


「え、んー鬼ごっことか、サッカーボールもあるからサッカーかも、いや、でも仲いい子はみんな野球しているから野球かも」


「それってどれも学校とか放課後でやっている遊びじゃないの?」


「そうだよ」


「じゃあなんで遠足に来てまで同じ遊びをやっているの?」


「そりゃ場所が変われば、いつもと違う気持ちで楽しめるじゃん、あっ」


「つまりそう言うことよ」


 今度こそ納得させられてしまった。ただそれでも遠足に来てまで何で本を読んでいるのかとは思うが。彼女に取っての本を読むことが自分に取ってのサッカーをしたり、鬼ごっこをしたりして、遊んだりする事と同じであると言われれば気持ちは分かるような気がした。


「それに家や学校じゃ行儀悪いって叱られるけど、遠足ならお菓子を食べながら本を読めるしね」


 と、クッキーの封を開けながら彼女は言う。


 遠足で食べるお菓子が特別だと言うのは同意見だ。


 彼女も同じようにお菓子が好きというのはなんだか親しみが持てた。本ばっかり読んでいる変な奴かと思ったが、お菓子をくれて優しいし、意外と親しみやすいし、変だけどいい奴なのはよく分かった。


「というかアナタこそせっかくの遠足なのに遊びに行かなくていいの?」


「お菓子交換は立派な遠足の楽しみ方だと思うけど」


「交換じゃなくて一方的に私のお菓子が食べられているだけだけどね」


 それが気まずくてこれ以上手が出しずらいのだ。


「なら交換してよ。これだけあるから」


 駄菓子コーナーで選りすぐったお菓子と交換によって手に入れたお菓子をレジャーシートの上に並べると彼女はほんの少しだけ視線を並べたお菓子に向けると、紫色からの色の変化で占いが出来る飴を選んだ。さっき自分も舐めていた奴だ。占い結果は色が変わるのを確認する前に噛んで飲み込んでしまったので分からない。


「お、これ当たりじゃない?」


 と、彼女が小袋の先で持つ飴の色は紫ではなく金色だった。『凄い! 超大吉! 最強の運です!』と占い結果が大袋の裏に書かれている。


 まさかこんな激レアなモノが自分の持っているお菓子に紛れているなんてと少し悔しい思いをするが


「こんなに良いもの貰ったなら、お返し上げないとね」


 と言うと彼女はリュックから再び高そうなお菓子が大量に出てきてレジャーシートの上に広がる。あまりの衝撃的な光景に目を見開く。


「え、これ、全部食べていいの?」


「好きにしたらいいよ。私も食べるけどね」


 彼女はまた小袋を開けてお菓子を食べる。こちらも負けじと食べないといけない気がして急いで自分も封を開けて食べていると、お菓子を取り出すために開いたリュックの中にまだ本が入っているのが見えた。


 それも1冊2冊じゃきかない、5冊は最低でも入っていそうであった。


「まだそんなに本を持って来てるの?」


 と、リュックの中を刺して彼女に問い掛けてみると


「うん、自由時間に全部読もうと思って」


「一冊借り手もいい?」


「え、いいけど、汚さないでね」


 あっさり彼女はリュックに入っていた一冊を貸してくれた。どうやらシリーズ物らしく、そこには一巻を示す数字が入っていた。彼女が読んでいるのが二巻であるため既にこの巻は読み終わっているようであった。


「でもアナタは遊びに行かなくていいの?」


「遠足で本を読むのもいいかと思って」


 結局、本を読み慣れてない自分には内容もよく分からず難しかった。やっぱり遊びに行けばよかったかもと思いもしたが、大量の珍しいお菓子を食べた事と新たに友達が出来た事で今回の遠足は大変満足だと言えた。

今回は自由時間と聞いて遠足が思い浮かんだので書いてみました!

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