捨てたゴミ
残り290日!76日目!
この子、自分の学生時代に似ているなと高校教師になって生徒達を受け持つようになってから、幾度も思う事があった。
自尊心が大きい癖に口ばかりで、自分にセンスがない事から必死に目を逸らして天才だと信じようよする子供。
哀れに思う。自分の大きさを知らない彼はいつかは俺のように自分の大きさを測れるようになり、持っている物の小ささを認めてしまうのだろう。
多くの生徒を見てきたが、自分と似ていると認めた生徒が大成した報告を聞いた事はない。どいつもこいつも、永遠と語っているような、なりたい自分に成れた奴なんて一人もいない。
見れば分かる。明らかに、致命的な程に何の覚悟も持っていないのだから。
一目見て分かるようなセンスを持ち合わせてはいなくとも、それなりの実力があるからタチが悪いのが俺達の特徴なんだと思う。
彼も俺も勉強が出来た。運動も出来た。友達も出来た。恋人も出来た。部活も活躍した。お金もあった。全部あった。しかしーーそこそこに、だ。
何でも持っているからこそ自意識が拡大し、何でも持っているから何者にもなれない。成ろうとする覚悟が決まらないのだ。
それは常に保険がついて回るからで、成りたい自分に成れなくとも何とかなると心のどこかで思っているから本気になる事が出来ない。
それなのになまじ器用に生きていけてしまう為に何にでも成れると自意識がどんどん膨れ上がり、その巨大になった想像上の自分に実際の小さな自分は押し潰されていくのだ。
膨れ上がった自分に追い付こうと自分も大きくなろうと少しの努力を見せても、自意識と本来の自分との大きさはピンポン玉とバランスボールくらいに差が出来てしまっている為、もう一つピンポン玉を増やすような少量の努力を見せても追いつける訳がない。
それに気付いてようやく肥大化した自意識と向き合う事ができる。
バランスボールから空気を抜くようにして小さくしていき自分の大きさに合わせようとする。
正直、大人になり就職し教師になった今だから言うが、小さくするくらいならいっそ捨てた方が楽だったと俺は思う。所詮は空気しか入っていないような、空っぽな自意識なのだから、さっさと捨ててしまえば生きてく上でかさ張る事もなかったと後悔する程だった。
それを捨てなかったせいで無駄に重い足取りになって、その大きさのせいで通れない道だって沢山あった。
ただ同じ通ってきた道だから捨てられない気持ちも分かる。
本当はただのゴミ、それも粗大ゴミにも元々活き活きとしていた生ゴミにもならない、小さな紙屑みたいなゴミであるはずのそれを、最高級の宝石のように大切に持っていた。
それこそが自分の価値を示しているかのように、自意識を見せびらかして周りにアピールする。思い出せば恥ずかしくて顔から火が出そうである。
これこそ自分の価値だとゴミを見せびらかしているのだから、周りの人間からすれば滑稽にしか見えなかっただろう。
中には見せた物が自分の言う通り宝物であると信じてくれる人間もいたが、世の中はそれほど良い人間ばかりじゃない。しかも、これは遅まきながら教師になってから気付いた事であった。
さっきまで夢を応援するような事を言っていた生徒が次の時には半笑いで「無理だろ」と否定する姿を何度も見てしまった。
でもそれは、半笑いで馬鹿にする人間が悪いのではなく、それを信じさせるだけの実力がない人間が悪いのだと思う。持っている自意識をゴミじゃないと相手に信じされるだけの人間じゃないせいだと、昔の自分と重ねて反省するように結論づけた。
自分に似ていると彼も友達であろう生徒達に成りたい自分を語っている。
彼はゲームを作りたいと言う。超大人気ゲームと肩を並べられるくらいの人気作を自分の力で作り上げたいと声高らかに夢を語る。
その為に今はこんな事をしていると友達の生徒に語る姿は夢を追う若者として、これ程に理想的な姿はないと言わんばかりである。
しかし、彼から聞く話は1ヶ月前からほとんど進展しておらず、生徒の友達も彼がいなくなった所で、「何も変わってないよな」と溢している事も俺は知っていた。
実際に何もしていない訳じゃないのだろうが、語る夢に対して何もしていないのと同じなのだろう。
さっきも言ったように、バランスボールの隣でピンポン玉を数個積んだところで夢に辿り着く現実味なんて誰も感じてはくれないのだ。
彼もいずれ気付く時が来るはずだ。今持っている物がゴミであった事に。
そして結局は俺が教師に成ったように持っていた自意識を捨て去って成れるものに成るのだろう。
叶わないだろうと思っても俺から諦めろなんて口が裂けても言えない。夢を追う事は尊い事だし、大きな夢を持つ事は素晴らしい事だと俺は教える立場の人間なのだから。
それに、俺に見る目がなく判断を間違っていて、本当は彼が物凄い才能のある生徒の可能性だってある。俺に彼の夢をとやかく言う権利はない。というか、それは誰にだってない。
彼が宝石だと言い続ける限りは彼の中では立派な輝きを持った大切な宝物なのだから。
もう自分は捨ててしまった輝きを彼の中に見て目を細め、その輝きを失う事なく夢を叶える彼の姿を思い浮かべるのであった。
今回は夢をゴミだと歌う歌詞を思い出して書きました!




