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歌姫にアンコール

残り291日!75日目!

「もう一回聞かせてよ」


 僕はマイクを独占した歌姫にアンコールをする。


「いいでしょう!」


 とマイク越しに歌姫は気前よくマイクを通して答えてくれた。


 デンモクから選ばれた音楽はロックンロール。キーボードのイントロが流れそれに呼応しドラム、ベース、ギターが音を鳴らしていく。


 カラオケで笑いながら、楽しく、激しく、叫び歌う彼女は僕にとって最高の歌姫だった。




 土砂降りの雨の音が屋根を叩きつける。雷が鳴ってくれたらもっといいのにと僕は思う。


 自分の部屋に篭り僕は出来る限り大きな音で彼女が歌ってくれていた歌を鳴らす。

飛び跳ね、叫び散らかし、心を震わせる大好きな歌姫はそこにいない。歌っている彼女を愛していた。熱心に毎日を生きる彼女が好きだった。でも、もういない。


「別れよう」


 のたった一言で歌姫は僕の元からいなくなった。あれだけ感情を乗せて歌う彼女の別れの言葉には何も気持ちが乗っておらず、悲しみの思いすら入っていない空っぽな言葉を彼女は僕に送った。


 悲しみの一欠片でも彼女の言葉から感じたのなら僕はもっと食い下がっただろうが、何度も彼女の気持ちが乗った歌声を聞いてきた僕には、彼女がその言葉にこめる感情は皆無な事に気付けないわけがなかった。


 だから受け入れるしかなかった。


 むしろ彼女に別れを言わせてしまった事に後めたさすら感じる。もう彼女の興味は僕にない事くらいずっと前から気付いていたのに、別れたくないからと鈍感なフリをして何とか彼女との関係を長引かせようとした僕は意地汚ない人間であった。


 そんな本性を彼女は見抜いていたのかもしれない。


 歌姫が歌ってくれる曲を纏めたプレイリストから音楽が永遠に流れ続ける。どれだけ聞いても再生され続ける彼女との思い出が大雨の音すら掻き消す。


 大雨如きじゃ僕と彼女の思い出を散らす事は叶わない。雷が鳴れば一瞬でも消してくれるというのに、どれだけ待っても光もしない。


 しかし、無限に思えた曲もついに終わりを迎える。最後の曲が流れ終わると静寂が訪れる。降っていた大雨も止み、流す涙は枯れていた。


 涙で目が腫れて、鼻水はまだ流れ出そうと鼻をむず痒くさせる。


「アンコール」


 もう一回、聞かせて。


 忘れる事が出来ない歌姫の歌声を埋めるように彼女がカバーしていた曲を流す。


 アンコール、アンコール、アンコール。


 何度でも聞いていたかった歌姫にアンコールを贈る。


 届くことのないアンコールを何度でも君に。


 乾き切った部屋の中が彼女ではない声で充満していく。


 僕は目をギュッと力強く瞑り、絞り出すように最後の一滴の涙を流した。

今回は失恋ソングを聞いたので書いてみました!

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