科学部の後悔
残り292日!74日目!
僕には中学に入学してからずっと後悔している事があった。
それは入学してすぐの事、放課後何の部活に入るか迷っている僕の鼻に甘い香りが漂ってきたのが事の発端だった。
校内で嗅ぐその甘い匂いは僕の好奇心を刺激しカブトムシのようにつられて匂いを辿ると、そこは3階にある理科室であった。理科室のドアには部員募集の張り紙とベッコウ飴の試食や綿菓子の作成体験など小学校についこの間まで通っていた僕にはかなり魅力的な事が書いてあった。
何より学校内は小学校の時からそうだったが、お菓子の持ち込みが禁止されており、そんな校内で甘いお菓子が食べられるという事に強い魅力を感じてしまったのだった。
まぁそれが運の尽きだった訳なのだが。子供思考だった当時の自分を責めてやりたい。
ドアを開いた先にいたのは白衣を着た三十代の男の教師らしい人物と、これまた白衣を着た3人の男子生徒であった。
僕が入室したのを見るとついに来たと言わんばかり、迅速に迎え入れられた僕は一つ上だと言う先輩から自分が作ったというベッコウ飴を貰った。
艶やかな琥珀色の甘い匂いを漂わせた宝石のような飴を口に放り込むと、口の中に張り付きながら口内で甘味が溶け出し幸福感で満たされていく。
本当にガキだったんだと思う。まだあの時から3年も経っていないけど、それでも今ならお菓子につられてなんて最高の部活なんだなんて思わなかったはずだ。
美味しいものが食べられる部活だと、科学部を料理部と勘違いした僕はお土産に数個のベッコウ飴と綿菓子を食べて、ウキウキで家に帰り部活を決めた事を親に告げていた。
本当に浅はかで愚かな考えだった。
入部届けを提出した僕に待ち構えていた活動はほとんどただの勉強であった。入部してすぐに何か違う気がするとは感じていた。なぜならお菓子が出ないからだ。
週に月水金の3日ある活動日は理科室にある道具の使い方や注意点を勉強して、実際に触れて扱ってみると言う流れが1ヶ月くらい経った頃にようやく、ここは科学部なんだという当たり前に僕は気付いた。
料理部感覚で入った僕は特に科学が好きな訳ではなかった為、なぜ放課後まで勉強しないといけないんだと思いながら活動していた。
こんな事なら違う部に入るべきだったと後悔する。ただ料理部はないので別の部活となると、運動部はそもそも選択肢にはなく、文化部のどれかにはなるのだがと、もう一度入る部活を考え直そうとするが、そもそもどの部活もピンと来なかった為、入部する部を迷っていた事を思い出した。
それに既に出来上がっているだろうグループに飛び込める自信はなく、文字通りハニートラップに引っ掛かった自分を責め諦めるしかないと悟った。
それからもあまり興味のない化学反応を見てレポートを書いたり、苦手な虫の図を見て構造を学んだり、あまりにも無理矢理な星座を見たりした。
ただ、たまに料理は科学と言う名目で調理室を使う実験もあり、そこでホットケーキを焼いて食べたり、僕をこの科学部に引っ掛けたベッコウ飴を作るなど何かを食す日があった事が救いであった。
不満ながらもなんとか辿り着いた夏休みは自由研究として好きな研究をしていいと言われたものだから、食べ物の一点に絞って研究する事に決めた。
元々、食いしん坊ではなかったはずなのだが、騙されたという勝手な思いの反動で料理で実験しないといけないという思いに駆られたのだった。
顧問からのアドバイスを受けつつ、自分でも調べた様々な料理で科学実験をするレポートをする事になった。
母親に話して食材を買って貰い、朝昼晩と間食を含め全てをレポートしていった。部活で学校へ行く日はたまに顧問が費用を出してくれたが、その場合はなぜか部員と顧問の分を作らなければ行けなくなり、手間が増えるのが難点ではあった。
上手いと言いながら皆んなが食べてくれるのは中々気持ちが良いものだったが。
そして全く興味が無かったのに、それぞれ科学部員の活動の一環として、顧問が車を出して山奥の旅館で天体観測合宿があったり、炎色反応の勉強だと言って花火をしたり、生物観察だと言ってカブトムシ狩りに行ったり釣りをしたり、水を使った物理実験と言ってプールにも連れて行かれたりした。
運動が苦手な僕は連れ回される度にクタクタになって家に帰っていた。そして、そう言う場合なぜか昼食が必要となる場合は僕が弁当を作る事になった。
皆んなからは少し多いくらいの費用が貰えるのだが、なんで僕がと言う思いがあった。とは言え、結局、夏休みの研究の為にどうせ作らないといけないので仕方なく作ってやる事にしていた。
そして夏休みに完成させた研究レポートは科学のレポートと言うよりは料理レシピみたいになっていたが、顧問も周囲も中々の出来だと誉めてくれた事はよく覚えている。
そんな夏を過ごしてしまったが故に僕は一層科学部らしくなくなってしまった。もはや、部活も関係ない所でもお菓子を作るなどするようになった。
もう科学部を辞めようかと思う事は無かったが、やはり何故いるのだろうと言う思いは拭えなかった。
でも、何だかんだ一年経って二年生になった時に一つやりたい事を考えていた。
僕が騙されたように今年の新入生にもハニートラップを仕掛けて騙してやろうと画策していた。
去年は綿菓子やベッコウ飴であった所、僕の指揮のもと写真映えを狙ったキラキラとした食べられるアートのようなものを提案した。
宝石のようなゼリーや鉱石のような砂糖、愛らしい水饅頭などなど出来る限りの展示と試食を用意し、帰りには可愛い型で作った綺麗なベッコウ飴も持って帰って貰うという、もはや科学部だとは到底思えないような待遇で新入生を迎え入れた。
その結果、前の年は僕ともう一人の男子しか入らなかったにも関わらず、その年は15人もの後輩が入部を希望した。しかも、女子受けを狙ったおかげか、今まで一人もいなかった女子部員が5人も入部したのだった。
科学部創立以来の快挙らしく、科学部員として首を傾げていた僕もこの時は一緒になって喜んでいた。
ただ問題があったのはこの後で、あの待遇がハニートラップであった事に新入部員達は早々に気付き始め、女子は全員辞め、男子もいつの間にか5人だけとなっていた。
僕も同じように辞める勇気があの時あればと辞めていった元新入部員を羨ましく思っていたのを覚えている。3分の1にはなってしまったが5人でも例年に比べれば多い方だと顧問は喜んでいたが、女子が一人もいなくなった科学部員達は新入部員を含め全員で落胆していたのを覚えている。
結局、僕が三年の年になっても女子は入らなかったのでこれも科学部に入部した後悔の一つであった。
その後も先輩の引退に伴い、僕が部長となったり、夏休み恒例行事も、僕が主導したせいで料理コンテストのようになった文化祭の出し物も、3年の時に再び仕掛けたハニートラップも全部、全部――
「いい思い出でした」
僕は泣きそうな想いで部員達の前で語る。この科学部で過ごした後悔の日々を。
「でもやっぱり科学部に入ったのは後悔しています」
と、去年入った5人の部員と今年入った男女入り混じった13人の生徒とずっと二人だった同期と顧問の顔を見て、自分の腹を撫でる。
「こんなにも太るなんて思わないじゃないですか」
そういうと部員達は暖かく笑ってくれた。なぜかその時引退する事を実感して僕は涙を流すのだった。
今回はべっこう飴の事を考えていたので書きました!




