導体のように
残り300日!69日目!
列車が来るまであと何分だろうかと、何度も確認した駅のホームにある時間割をまた見上げてしまう。電車の到着時間は変わらず18時32分。
電車の到着時刻は変わらずとも当然のように時間は進み先程確認した時よりも3分進んで、現在18時29分となっていた。
携帯で時間を確認した時に丁度28から29に入れ替わったので電車が来る頃には丁度いいカップ麺が出来上がっている頃だと変な事を考える。
もうお別れだと言うのに変な事ばかり考えてしまう。
違う。もうお別れだから別の事を意識しようとしているのか。
今、現実を真正面から見てしまえばきっと涙が出てしまう。泣いたら何も言えなくなってしまう。泣いたら何も見えなくなってしまう。そんな最後は嫌だった。
かと言って私達は何かを会話する訳でもなく、ただ黄色の線の内側で二人並んで電車を待つだけであった。
手持ち無沙汰でもう一度携帯を確認してしまう。
まだ数字は変わっていない。これだけ頻繁に携帯を確認しているのを見られたら悪い印象を与えてしまうと、彼の方を見るが、彼も私の方を見ておらず視線を宙に彷徨わせていた。
と、私の視線に気づいた彼がコチラを向こうとほんの少し首を動かしたのが見え、私は急いで目を逸らして下を向いてしまう。
地面に目を落としているせいで見えないが、彼がジッとコチラを見ている気がする。視線を合わせたいのに、シャワー中の背後から嫌な感じがした時のように、そちらを見る事が出来なかった。
そこに怖い物なんてない事は分かっているのに臆病な私は彼の方を見る事が出来ない。
下を向きながらまたポケットの携帯に手が伸びそうになるが触れる前にとまる。そろそろ一分経って30分になった頃だろうと勝手に予測する。
本当は残りの時間なんてどうでもいい。たかが数分で何も変わりはしない。ここで見送ってサヨナラして、それでおしまいなんだ。
携帯に向かっていた手をギュッと握った。握った手の先には彼の手がある。
徐々に近付けてみるがその皮膚に触れる事はなかった。
少しでも触れれば導体が電気を通すように思いが全て彼に伝わってしまうだろうから。そして彼の思いも私に伝わってしまうだろうから。
見送る私に見送られる彼、私達の行く末にそれはあまりに残酷としか思えず触れたいとどれだけ願っても叶えようとは思わなかった。
「え……」
と、触れるはずない彼の手がその時、私の手に触れたのだった。
彼とほんの一部だけ触れた部分から全身に電流が奔るかのように衝撃が駆けていく。その衝撃に操作されるようにビクリと私は彼の方を向いた。
ようやくそこで彼と目が合う。私よりも10センチ背が高い彼を少し見上げる形で。
視線が触れ合うとそこからも伝わってくる。直接触れていなくとも全てが伝わってくる。だから目を合わせるのが怖かったのだと目が合って初めて理解した。
視線だけで伝わってしまう事が私はどこかで分かっていたのだ。
二人の間で交わされ流れ出した想いは止まらない。一部の手の甲だけ触れ合っていた手をしっかりと握り、見つめ合った目からは涙が零れ落ちる。
そして無言だった口からは
「好き、好きなの……」
告白の言葉が遂に口から零れ落ちてしまった。
「僕も好きだよ」
と、彼からも愛の言葉が零れ落ちた。
堪らず私達は抱きしめ合った。電車が駆けてくる音が聞こえても、私達はそのまま全身でお互いの事を伝え合った。
完全に電車が止まる音がしても、ギリギリまで体を寄せ合いそして彼が私の耳元で言う。
「絶対にまた迎えに来るから、信じて待っていて欲しい」
涙でボロボロになった顔で私は頷くしか出来なかった。
それを確認した彼は私から離れ、「またね」と言って電車に乗ってしまう。
電車のドアが閉まっても彼も私もお互いを見る。発車のベルが鳴って私は一歩電車から離れる。そして見ていられるだけ彼の姿を捉える。加速する電車に追いつくように早足になり、ついに追いつけなくなり彼の姿を見失ってしまった。
彼は遠くへと行ってしまった。
私に彼の想いの全てと温もりを残して。そして私の想いと温もり持って行って。
列車の背中を見送ると私は彼から受け取ったモノを大切に持ち帰るのだった。
今回は「導体」「時間割」「見送る」の三つの単語からお話を書きました!




