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厨二疾走

残り306日!63日目!

「汝、必中の射手、己を矢とし神速となりて、光陰矢の如く駆け抜けろ」


 詠唱と共にジリっと地面を踏ん張る音が聞こえ。


「天つ風! 光風一閃!」


 と言って厨二はグラウンドを駆けていく。力強い詠唱に比べ厨二の足は遅く、アイツが矢であれば撃った瞬間ヘロヘロと落ちていくだろう。


 ただ遅くとも腕を大きく振り一生懸命に走っている事だけは伝わってくる。多分、厨二の中では本当に神速で走っているのだろうと思う。


 神速のキャラがあんな苦悶の表情を浮かべて走っているよとすればあまりに格好悪いが、彼は神速キャラでも何でもないので、そのひたむきな全力疾走は好感を持てた。


 程なくしてグラウンドを一周して帰ってきた厨二は膝に手をつきゼェゼェと息を荒くしている。


「はぁはぁ、どう? 速くなってる?」


 息を切らしながら厨二は一周のタイムを気にしている。


「36秒」


 詠唱のせいでスタートのタイミングが少し合わなかったが、練習なのでまぁ良いだろう。


「はぁ、はぁ、詠唱したのに……伸びてない……何で……」


 大体、一周200メートルである小さなグラウンドがあるウチの中学校、この前調べたが200走メートルの中学2年の平均が31秒くらい。


 競技場ではないため距離も正確なものではなく、競技場よりもカーブが多い事を差し引いても厨二の走りは遅かった。


「詠唱を間違えたんじゃないか? 「光陰矢の如し」って月日が経つのはとても早いって意味だし、足の速さとは関係ないだろ」


「え、いや、でも時間の概念を関しているなら、時の流れを操っているみたいでカッコいいか」


 光陰矢の如くの文字列に厨二臭さを感じる気持ちはわかるが、無理矢理な感じが否めない。本人が満足しているのであればそれでいいのだが。


「『天つ風 光風一閃』でもダメならどうしたら早くなれるんだ僕は」


「もっと走る姿勢を意識したらいいだろ。どんな技も基本が疎かだと弱くなるだろ? 土台が整っていないうちから大技を使おうとするから速く走れないんだよ」


「それっぽい、いいね」


 と言いながらも厨二はグラウンドに座り込む。


「何だよ、練習しないのか?」


「マナを使い果たした……それに基本の練習みたいな修行パートはつまらないって相場が決まっているから」


 厨二の物語にどんなパート分けがされているのか知らないが、面白いと思う前例があるならぜひ聞いてみたい所である。が、厨二の言う事なんて妄言か何かのパクリしか語らないだろうから真面目に聞いても仕方ない気がした。


「というか、そんな考えで足を速くする気あるのか? クラスの奴見返してヒーローになるんだろ?」


「うん……」


 と、唇を軽く噛んだ厨二は俯く。


 厨二は目立ちたがり屋のくせに全てにおいて鈍臭かった。これで、運動か勉強でも出来ていれば変な奴ではあるが、もう少し人気を集められていたのではないかと思う。


 ただ、どの分野でも注目を集められないからこそ、このキャラを演じているとも言えるのかもしれないが。


 そんな現状を厨二は変えたと思ったらしく、運動会で誰も立候補したがらない事を良い事にリレーのメンバーに立候補したのだった。


 とはいえ、「じゃあメンバーは厨二で」と簡単に話が流れていく訳もなく、クラスで1、2を争う運動音痴が立候補するものだから、そんなクラスの恥を晒す訳にいかないと、運動神経の良いクラスメイトがお前が出るなら自分がと次々に名乗り上げたのだった。


 意図せず難航するはずであったリレーのメンバー決めの問題を解決した厨二は、リレーの第一メンバーには選ばれなかった。


 しかし、多くの生徒を出場させたいという学校側の配慮として、1クラスに2チーム参加する決まりとなっているため、それほど勝ちに拘らない第二チームに厨二は入れられた。


 せっかく手を上げたのに第一メンバーから外された厨二が何だか可哀想になり、今度こそ白熱しそうなメンバーの譲り合いが始める前に第二チームに俺は立候補した。


 チームは男子二人、女子二人の4人チームで、第二チームは俺と厨二で決定し、女子の方は立候補者が意外とおり、すぐに決まったようだった。


 そんな訳で放課後に練習しようと集まったのだが、相変わらずの厨二ぶりを発揮しながら、鈍臭い走りを見せていた。


「もう少し顎を引くのを意識して、手の振り方はこんな感じ、かな?」


 と、座った厨二の前で少し調べた速く走るための姿勢を実際に見せてみる。


「姿勢一つで結構変わるらしいから意識したら良いかも」


「確かに師匠も振り方の意識一つで斬撃の強さは変わるって言ってたな」


 厨二には剣術の師匠がいるらしい。もし本当に師匠から何かを教わっているとして、この鈍臭い弟子が生まれるのであれば、かなり教えるのが下手と言わざるを得ない。


 師匠と名乗るのを辞めて頂きたい。


「50、いや30メートルで良いから意識して走ってみれば?」


 と、練習するように促すと厨二はノッソリと立ち上がる。


「よし、やるか」


 と、息が整った厨二は再びやる気のある目を光らせながら、服についた砂を払う。そして、再びレーンにつくとヨーイの姿勢を取った。


「疾風迅雷!」


 と言う厨二なりのスタートの合図を叫びながら走り出した。


 詠唱なしのシンプルな技名を叫んで走る厨二の顎は相変わらず上がっていた。 

今回は「光陰」「立ち上がる」「前例」の三つの単語で書きました!

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