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愛情

残り307日!61日目!

 亡くなった愛犬の事を今でも思い出す。


 短い足でトテトテと歩く姿はとても可愛いらしくご飯を目にするとハシャギ回り、ゴミ箱を漁っては悪さをするところは犬らしかった。しかし、可愛らしさの裏に真剣な表情で何かを見つめる姿は綺麗に思えた。


 本当に愛していたと思う。


 頭を撫でている時は自分の持てる最大限の優しさと愛情を込めていた気がする。それを愛犬が嫌がっていたのかどうかは分からなかったが、黙って撫でられている事が多かった。


 そんな愛情を注いでいた愛犬が亡くなったのだ。


 ずっと調子が悪く歩くのもヨタヨタで獣医からも長くはないと言われており、この日を覚悟する日々が続いていた。そしてついに動かなくなってしまった。


 祖父母が亡くなった時でも泣くことがなかったのに、愛犬が亡くなり動物専門の葬儀場で棺桶に入れ最後の見送りになると自然と涙が出てきた。


 あまり泣く事がなかった私にも涙を流すほど悲しいという感情がある事を知った。


 大学2年の夏の事、愛する相手を始めて失った年であった。


 しばらく、夢に出るほど愛犬の事を思い、他の犬を見れば思い出して会いたいと思ってしまう。もう不可能である事を理解しながらも、また触れたいと思ってしまう。


 家に帰ればまだトテトテという音を鳴らして玄関まで出迎えにくる事を期待するが、毎回もういない事実に心が苛まれた。


 犬を撫でたい、触りたいという思いが頭を支配する事があった。それは性欲の発散を禁止した時のような状態で、魅力的な異性を見た時のように撫でたい、触れたいという気持ちが悶々と心に湧き上がった。


 時々、親戚や友人の家に遊びにいった時に飼っている犬を触る事でその気持ちを抑えてきた。一度、抑えられなくなった時、近所の玄関先から顔を出して通行人を見ている大型犬にひっそり近寄って撫でようと手を伸ばした事もあった。その時は怪しい人間だと思ったのか吠えられてしまい逃げてしまった。


 時間が経つと共に欲求が収まっていき、その欲求がほとんど消えた頃に恋人ができた。


 初めての恋人であった。


 今まで一度も恋人がいた経験がなかった為、どうすればいいか戸惑いながらの付き合いだった。好きではあるがどう愛せば良いのか分からなかった。


 しかし、お互いに関係が慣れてき始めた時、二人っきりになって甘えてきた恋人の頭を撫でた瞬間、堪らなく愛しく思う感情が溢れ出した。


 最大限の優しさと愛情を込めてその頭を撫でた。


 これが自分の愛する形なんだと思った。この愛おしさこそが人を好きになるという事なんだと思った。


 その後、恋人には別に好きな人が出来てしまったようであった。


「別れたい」


 そう、言われた時は頭が真っ白になり、泣いてしまった。あの日、愛犬が亡くなった日のように涙を流してしまった。離れていってしまう事があまりに悲しくて切なくて、ポロポロと涙がこぼれ落ちていった。


 受け入れるしかなかった。


 もう撫でる事も触れる事も許されなくなる事を、ただ受け入れるしかなかった。


 再び愛する相手を失うと、今度も夢に出るほどに元恋人になった相手の事を思った。


 それは愛犬が死んだ時よりも、もっと重苦しい感情が襲ってきた。再び触れたい気持ちも、撫でたい思いも

相手が生きているせいで絶対に不可能ではない分、自分の心を苦しめた。


 会えない悲しみは確かにあるが、会えるが会ってはいけない苦しみは少しの希望を散らつかせるためにタチが悪かった。


 かと言って元恋人に死んで欲しいなんて思わなかった。死んでしまいたいと思ったことは何度もあったが。


 立ち直れない悲しみを前に誰かに注ぐはずであった、自分の指先から手のひらにまだ残る愛情を握りしめて抑え込む。


 再び誰かにその愛情を向ける事がないように、ギュッと握り込んだ。


 愛であって恋ではなかったその感情をグッと心の中に押し込むのだった。


家族愛の話を読んだので書いてみました!

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