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ブラックサンタと届いた石炭

残り360日!6日目!

 雰囲気のある煉瓦造りの暖炉に温まりながら眠たそうに小さな男の子は目を擦る。


「もう遅いんだから早く寝なさい?」


 母親らしき女性が子供の頭を撫でながらやさしく言う・


「サンタに会うんだ! 起きて待ってる!」


 と、駄々をこねる息子に母親は諭すように言う。


「知ってるでしょ? 夜遅くまで起きている悪い子には黒いサンタがやってきて袋に詰められて連れて行かれるのよ?」


 いい子には赤いサンタがやってきてプレゼントをくれるが、悪い子には黒いサンタがやってきて連れ去られ、ひどい事をされる。子供達にとって黒いサンタというのは、この時期、何よりも恐ろしい存在だった。


「お母さんが何とかしてよ」


「無理よ。黒いサンタが来たら、お母さんだってどうする事も出来ないの。だから早く寝なさい?」


 息子は悔しそうに顔を歪めたが、黒いサンタの怖い話をいくつも言い聞かせられてきたため、しぶしぶと言った感じで寝室に向かった。


「いい子ね。きっと明日起きたら欲しいプレゼントをサンタさんが持って来てくれるはずよ」


 そう言って息子の額にそっとキスをして優しく布団を被せる。


 少年が元々、眠気が限界だった事もあり、温かな布団に包まれるとすぐに眠ってしまった。



 翌朝、少年が目を覚ますとすぐさま飛び起きた。


 自分の部屋から飛び出し「おはよう」と言う父親の声を聞こえなかったのかそれどころではないのか無視をして一目散に暖炉の傍に向かった。


 そこには丁寧にリボンと綺麗な包装紙でラッピングされた箱があり、一目でクリスマスプレゼントだと分かった。


「あら、良かったわね」


 と、プレゼントを見つけた母親が息子に言う。


「何を欲しいって言ってたっけ?」


「スイッチ!」


 新品の家庭用ゲーム機を少年はサンタにお願いしていた。ラップされた箱のサイズは友達の家で見たゲーム機の箱と同じくらいのサイズに見える。


 大喜びで開けようとプレゼントを持ち上げる少年。


――ゴツっ


 と、箱を傾けた拍子で中身が滑り箱の壁にぶつかる音がした。


 子供でも流石にこれには違和感を覚える。箱の中身がこんなにスカスカな訳がない、というより、願ったものがこれ程軽い訳がなかった。


 信じたくないといった表情で、確かめるために少年は包装を破くとそこにはゲーム機の箱ではなく無機質な真っ白なただの箱。


 恐る恐る箱を開けるとそこにはゲーム機ではなく、ゴツゴツとした黒い塊が入っていた。


「ねぇお母さん。これ……!」


 といって中に入っていた黒い塊を見せる。


「それ石炭じゃない! 何か悪い事したんでしょ!」


「し、してないよ!」


 悪い子の元には黒いサンタが来る以外にもプレゼントに石炭が届くとも言われていた。


「本当に何もしてないの?」


「してないって!」


 自分のプレゼントが石炭であった事に苛立ち母親の問いに声を荒げる少年。


「おかしいわね、サンタさんが間違ったのかしら……? どう思う? お父さん」


 と、お母さんはソファーでコーヒーを飲んでいた父親に話を振る。


「そうだな、サンタも間違える事もあるだろう。他の子の家にお前のスイッチが送られているかもしれないな」


「きっとそうだよ! きっと近所のジョンと間違えられたんだ! あいつは悪い奴なんだ! この前だってスミスの事を虐めていたんだから! あんな奴、石炭を送られて当然だよ! いや、黒いサンタにもう連れ去られたっておかしくない!」


 とプレゼントが間違えられたと熱をこめて訴える口を言い終えた後に両手で塞いだ。


「どうして塞ぐんだい?」


 と、父親は優しく問いかける。


「それは……」


 言い淀んでいる様子の少年。しかし、全てを話してしまったため手遅れである事を少年は悟る。


「ジョンに誰にも言うなって言われてたんだ。アイツには誰も喧嘩で勝てないから。黙っていないと僕がアイツに殴られる……」


「なるほどね。つまり、お前はジョンが怖くて友達が虐められているのを見過ごしたわけだ。そんな子には石炭が届いても仕方ないと思わないか?」


「…………」


 少年は黙る。しかし、反抗的な態度ではなく俯き反省をしているようにも見える。


「でも、そうやって真実を言ったんだ。そのままいい子にしていたらお父さんがスイッチを買ってあげるよ」


 そう言うと息子は目を輝かせる。


「ホント!」


「あぁ、本当だよ。でも今回の事はちゃんと反省するんだよ」


 と言うと少年は大きく頷いた。


 それを見た父親は立ち上がると、出かける準備を始めた。


「どこか行くの?」


「少し用事を思い出したんだ」


 そう言って真っ黒なコートを羽織った父親は家の外へと出て行った。





 冬休みが終わり、友達と父親が買ってくれた新品のスイッチで遊ぶ少年の姿があった。


「そういえば、お前も石炭が届いたって言ってたよな?」


「うん、他の子も石炭が届いたらしいよ」


 話ながらもその指はピコピコと器用に操作をしている。


「そういえばジョン、大人しくなったよな」


「冬休みが明けた後のジョンは別人みたいになってたね」


 威張り散らしていたジョンが冬休みが明けて再び学校で会うとそれは静かなものだった。


「あーあれ、噂があるんだけど」


「噂?」


 少年はその噂を聞いた事がなかった。


「突然ジョンの家に黒いサンタが現れてジョンを連れて行ったんだって」


 しかも、と少年の友達は続けて言う。


「一人じゃなくて、沢山の黒いサンタが鬼の形相でジョンを連れ去っていったんだって」


今回は「リボン」「新品」「煉瓦」の三つの単語からお話を書きました!

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