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生まれ変わった人生

残り309日!59日目!

 生まれ変わりたいと思っていた。


 毎日のように自堕落な生活を送り、希望なんてありもしない将来に向かって無意味に日々を生きていた。


 こんなはずじゃなかった。子供の頃にもっと上手くやれていれば今の人生とは全然違う素晴らしい毎日を送れていたと何度も後悔していた。


 やり直したい。いや、出来る事なら生まれ変わりたい。


 ブサイクと言われるこの容姿を捨て新しい自分として、また一から人生を始めれば俺も小説の主人公達のように輝けるはずだ。


 と、生まれ変わった自分が成功していく姿を想像する寝る前の時間が俺の生活の中でいま一番の娯楽となっていた。ただ、妄想を終え現実に戻ると決まって虚脱感に襲われて死にたくなった。


 寝転がっている自分の胸の上に胸の上にいきなり包丁が落ちてきて死なないだろうかといつも思っていた。夜の何もない暗闇に手を伸ばす。


 自分の人生のような暗闇。何も見えないし、何も掴むことが出来ない。闇雲に手探りしても虚無からは何も手に入らない。


 闇をかき混ぜるようにグルグルと腕ごと手を回し、疲れ力尽きると額に落ち、ほどよい運動で熱を持った腕がジンジンと気持ちよくそのまま眠った。


 そんなルーティンを毎日繰り返していた。


 その日も同じように生まれ変わった妄想をした後に虚無感に駆られてブラブラと虚空に腕を付け込んでいた。死にたいと思いながら、プラプラ、プラプラしていると。


 パシっと何もないはずの空間に指先が触れた。ビクリと肩を揺らして気のせいか確かめるためにもう一度、闇に手を突っ込むと今度はハッキリとした触感と共に俺の腕は掴まれ、物凄い力で闇の中へ引っ張られた。




 ここまでが『前世』の俺が覚えている記憶だった。闇に引っ張られたその後は何も覚えていない。ただ、きっとあれがきっかけで俺が生まれ変わったと言うことなのだろうと思った。


 とはいえ、生まれ変わった事に気付くまでにもう生まれてから9年も経っていた。


 この歳になるまで生まれ変わった事に気付けなかったのは、幼過ぎた故に知能が前世の記憶に追い付いていなかった為であった。


 確かに周りの子に違和感を覚えていたが、それが何か分からなかった。前世という概念があり、自分には大人であった頃の記憶がある事をしっかり認識出来たのが9歳になった後であった。


 しかし、認識した後は自由に記憶を掘り起こせるようになり、前世の自分の最後を思い出した次の時、確かにその記憶の自分は前世の自分ではあるのだが、イメージとして前に生きていた自分の命が地続きに繋がって今の自分になっていると思えるようになった。


 そうしてようやく前世の悲願であった生まれ変わりができた事の実感が湧いたのだった。


 後悔を思い出していた。あの時していればよかったという思いが、大人になった後の絶望が、9歳という若さを手に入れた自分に訪れたのだった。


 切に願っていた生まれ変わりの世界。何の力が働いたのかは分からないが、俺は生まれ変わったのだった。


 であればどうすればいい。前世の俺はどんな後悔をし、何をすればいいと思っていたか。


 俺は心の底からの希望を抱き前世の俺が抱いていた妄想を現実に実行するのだった。




 そして、20年後の現在。


 俺は再び暗闇の中に手を突っ込んでいた。死にたいと思っても、もう前世のように生まれ変わりたいとは願ってはいなかった。


 生まれ変わった俺は何も変わらなかった。初めこそ生まれ変わった事実に興奮し、妄想を実現しようと息まいて過ごしていたが、その化けの皮はすぐに剥がれてしまった。


 今から猛勉強をして良い大学に入ろうと思い勉学にのめり込もうとするが、小学生の問題は簡単過ぎで中学生の問題から始めた。しかし、最初は周りから凄いと褒められ調子に乗っていたが、応用編ですぐにつまづいてしまった。


 元々、あまり頭が良くもなかった上に、前世も中学時代からかなり歳を取っていた為に内容もほとんど覚えていなかった。次第に自分はこの道に向いていないと思い始めた。


 勉強は普通よりも出来るのだから、もっと自分の好きな事を伸ばそうと思った。


 昔からゲームが好きだったので、ゲームプロの道がある今なら俺も成れるのではないかと思った。しかし、負けるとイラつき、地元の友人に勝ててもネットで世界のゲーマーを相手にすると途端に平凡以下であることを思い知らされた。


 なら小説を書いてみるのはどうだろうか。


 自分の経験をそのまま書いたって面白いのではないか。こんな経験を自分以外にしている人間なんていないだろう。そう思い、筆を取ってみるが拙い文章が数行埋まる程度だった。



 それなら、それなら、それならーー



 そうこうウダウダとしている内に学力は周りにいつの間にか追いつかれ、高校に入学する頃には生まれ変わったアドバンテージはほとんど無いに等しくなっていた。


 俺は気づいた。生まれ変わって人生やり直せるなんて嘘っぱちだと知った。


 やり直して上手くやれる人間、努力をする事が出来る人間なら前世の俺のように虚無な人生を送る事などないのだと。


 一緒であった。環境の違いはあれど、虚しさを抱えながら生きるのは、前世の自分をなぞっているかのように全く一緒な生き方を結局、生まれ変わった自分もしていた。


 変わりたいなら今しかない。生まれ変わるなんて奇跡を体験しても何も変えられなかったのだから、変わるなら今ここで覚悟するしかないのだ。


 しかし、俺にはそんな気力はもうなかった。そもそもここで覚悟が出来るならやはり生まれ変わったら成功しているような気がする、なんて思考回路にハマれば一生やる気が湧いてくる事がなかった。


 もう生まれ変われたらなんて妄想はしなくなった。妄想が本当になり現実を知ってしまったからであった。


 今では俺はずっとこんな妄想をしていた。


 もし前世の記憶がない人生を送れていたら、と。


今回は生まれ変わったらと良く妄想しているんですがよく考えたらこうなりそうって思った話を書きました!

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