ビンと湯たんぽ
残り309日!57日目!
「ええか? ここにビンと湯たんぽがあるやん?」
と、テーブルの上で空になった数本のビールビンの中から一本と、冷え症の為、タオルに巻いて使っていた、もうかなり温くなった湯たんぽを姉は持ち出して俺の前に見せてくる。
「ビンはな、見るからに湯たんぽよりも細いやん? 密閉性に優れてるから中身を保存するにも最適や。でもな、ビンは硬いし脆いんよ。それに冷やす事が出来ても温めることは出来へん、分かるか?」
そりゃビンだからそうだろと思うが、もう一方の手に姉が持っている湯たんぽを見て、何を言おうとしているのか、もう半分程理解してしまった。というか、過程は分からないが、どんな結論に持っていこうとしているのかな予測出来てしまった。
「ほんで湯たんぽや。さっきまで私の足先を優しーく温めてくれてた、めっちゃええやつ。この前、通販で買ったんやけど、冷え症に効くからゆうてな。最初は全っ然っ信じてなかったけど、これが使ってみたら気持ちええんよ。今度アンタも使ってみ?」
と、湯たんぽの良さを元の話から脱線させながらも語る姉。酒で酔っ払っているせいで思考が回っていないようである。
「今度アンタの分も買ったろか? これな夏はお湯やなくて氷水にしたら氷枕になんねんで……て、あっそうや! ビンは氷枕にはなれへんやろ!?」
と、話が脱線した事に気付いた姉は何故か怒ったように話を戻す。
「ビンは硬いし枕になんかしたら首が痛くなるやん。せいぜい、冷えたビンを急に頬に当てて誰かを驚かせるくらいしか出来へんのよ」
なんだその限られた使い方は、と思うが酔っ払いに反論しても仕方ないので、黙って聞いておく。
「でも、ラムネのビンは綺麗で好きやったな。中にビー玉が入ってるし。昔は好きな子と一緒に行った祭りでな、買って来て貰ったりしたわ。後ろから急にラムネのビンを頬に当ててくんねん。私なんか「キャっ」て可愛い声出てたわ。えらい青春謳歌してたんやなぁ、学生時代の私……」
姉は悲しい顔をしたかと思うとテーブルに突っ伏し始めたので、もう頼むからそのまま寝てくれと願う。
「でもな!」
と、ガバっと起き上がる姉。残念な気持ちで一杯になる俺。
「結局、アイツにも浮気されて振られたからしなぁ……やっぱええ事ないわ。ビンなんて」
湯たんぽとビンを比べている姉だが、明らかに湯たんぽ側に肩入れしている。まぁ理由は分かるのだが。
「はぁ、温かいわ、湯たんぽ……なんやろな、このフォルムがええんかもな。形からして温かみがあるって言うかなんていうか。ビンの冷たい感じと違って優しさ感じるわ」
必死に湯たんぽを上げようとする痛い姉をなんだかみて入られなくなり、と言うか、これ以上は話を聞くのも面倒になったので、俺は素直に謝る事にした。
「ごめんって姉ちゃん。そんな飲んで寝てしたら太るとか言うて」
姉が面倒くさくビンと湯たんぽを比べて語り始めたのは、自分の体型を湯たんぽと重ねて、少しでも自分の体型に正当性を持たせようとしているのだった。
「別に気にしとるとかちゃうから! 私は湯たんぽがどれだけビンと比べてええヤツなんか教えてあげてるだけや!」
「ビンよりええやつって湯たんぽと友達にでもなったんかいな」
「マブやマブ! もう年中離されへんのやから」
「ほな、もう湯たんぽと結婚せえよ」
「結婚の話はするな!」
地雷が多い姉であった。
「分かったから。ほな、今度おすすめの湯たんぽ俺にもちょうだいや。そんなにええんやったら」
「そうや、アンタも試したらええねん。ほんで知るべきや、ふくよかな方が優しさと温かみがあってええっちゅう事を。あんな綺麗なだけの冷たい美人よりも私みたいな方がええんやから」
と、先ほどまで湯たんぽと自分を重ねていたことを誤魔化していたはずなのに、もう口から滑り落ちていた。
「分かった、分かった。ほなもうテーブル片付けるから自分の部屋で行って寝てや、ちゃんと湯たんぽ持って行って、水はいる?」
「いらん、ありがとう」
言って酔った足取りでフラフラと立ち上がる姉を倒れないか最後まで確認しつつ部屋から出て行くのを見送る。
「そうや、姉ちゃん」
「何よ」
「姉ちゃんだってビンみたいな感じやと俺は思うけどな」
コニャックのビンだが、味のあるフォルム。本人には言わないが。
「え、ホンマに? まぁビンにはビンの良さがあるからな。わざわざ白黒つける必要はないわな」
と、気分良く「おやすみ」と言って姉はリビングから出て行った。
それに、と思う。
姉は湯たんぽではない。
温かみのある人間であれば、こんなグチャグチャに荒らしながら飲み食いはしないはずであった。
今回は「ゆたんぽ」「ビン」「白黒」の三つの単語から書きました!




