命を吹き込む
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「声優はキャラクターに命を吹き込む職業だ」
と、声優界の大御所が述べていたのを聞いた時、是非とも自分の書いた作品をアニメ化したいと思った。それが自分の中に創作意欲が生まれた瞬間だった。
アニメ化される媒体でまず思いついたのは漫画か小説の2択であったが俺は小説家になる事を選んだ。
絵が絶望的に下手である事を自覚していた事が1番の原因であったのだが、書いた小説のキャラクターを誰かに描いて貰いたい希望が大きかったからでもあった。それもまた命を吹き込む大切な仕事であった。
ただ小説家を選択したが、それは絵が絶望的に下手であったからである。だからと言え僕の文章力が高いかといえば全くそんな事はなかった。
むしろ国語の点数は平均を下回っているくらいで、僕は筆者の気持ちが分からない側の人間であった。
それでも絵は描けなくとも文章は書くことも読む事も出来たため、消去法的に小説を書くことに決めた。
初めて書く物語は3行書くだけで1時間を要していた。自分の頭の中にあるモノを文にして書き出そうとすると何を書く事が正しいのか判断ができなくなった。
書いては消してを繰り返し、時間をかけて数行ずつ進め1週間かけてようやく書き終わった2000文字の物語は達成感と同時に自分の文才について考えさせられた。
もちろん悪い方にだ。
書いている途中に感じる頭の中が凝り固まるような感覚。頭の中に吐き出したいアイディアが出口で詰まって出てこない感覚。
才能があるとは思ってはいなかったが、改めて天才の一片も見せない自分の執筆活動してにガッカリしてしまった。
2000文字の物語を読み返しても僕にはこれが一般的に面白いのかわからなかったが、親バカと言えばいいのか自分では面白いと感じた。
しかし他人の反応が結局全てな訳で、ネットの小説家投稿サイトに心臓を鳴らしながら、投稿するをクリックした。
とくに何のフィードバックもない。20程の閲覧数がついただけであった。書いた時に自分は天才じゃないと感じた癖にもし「これが多くの人の目について、天才現れるなんて評価されたらどうしよう」と半分本気で考えていた事が恥ずかしくなる。
自分で読んで面白いと思ったとはいえ、これが売り物になる程の文章だとは心の底では分かっていたはずなのに、夢見てしまう。
その夢はそれから何度書いた小説を投稿しても頭の中をよぎった。今度はもしかしたら、誰かに見つけて貰えるかも、なんて、結局毎回少しの閲覧数とたまに評価点や感想を書いてくれる事があるくらいだった。
それでも、評価や感想を貰ったら見てもらえてる実感が沸くので嬉しかった。
それから長編小説を書かなければと発起したのは小説を書き始めて半年が経った頃である。
元々自分の小説をアニメ化したいという思いで始めた執筆活動だ。
半年の間にいくつか短編を書いたが、アニメ化を目指すのであれば長編を書かなくてはと考えていた。
既に頭の中にはプロットが用意されており、個性豊かなキャラや、あっと驚く展開、感動のラストが詰まっていた。
半年間練り続けた構想。
それをようやく形にしようと取った筆は、プロローグでいとも簡単に折られる。
実際はパソコンで書いているため筆が折れることはないのだが、要は勢いよく走り出そうとした僕はスタートで躓いてしまったのである。
たくさん構想があるのに、それらは散らばり過ぎて最初の始まりがこれでいいのかを書き始めてすぐに迷い、遂には何も書けなくなってしまった。
その躓きはこれから先訪れる労力に対するリスクに怯えていたのだと思う。
半年短編を書いて自覚していた。自分は筆が遅く、一つ文を書くだけで相当な時間と労力をかけていた。
だから半年もの時間があっても短編が数作しか書く事ができなかった。
それを10万文字以上の長編を書くとなれば最初を失敗する訳にはいかない思いに囚われた。
2週間ほどプロローグに悩みようやく書き出した文章は結局何を悩んでいたのか分からないくらい初めに書いていた文と変わらなかった。
きっと迷っていたのは文章だけでなく、書き始める事自体だったのかもしれない。
短編を書くだけでかなりの時間と労力が必要であるのに、自分にその何倍もある長編を書きけれるのかどうか。
才能がない自分が書く物語にそれだけの価値があるか迷っていたのかもしれない。
2週間経ってようやく書き始めたのは覚悟を決めたからと言うわけではなく、ただ何も進まない現状に焦りにかられ、先の見えない暗闇に突っ込むように書き始めた。
闇雲に書き進めながら約1万文字書いたくらいで既に僕の書く物語は面白くならない事を悟った。
そもそもの技術も足りない、キャラクターが弱い、会話が平坦で盛り上がりに欠ける、などなど。
自分の甘さを知る。半年の間で長編という未知の冒険に向かう為に十分に準備してきてたと思っていたのに何も役に立っていなかった。
登山を舐めてかかり、中腹も行かない場所でこの装備では登頂出来ないと気づいたような感じだろうか。
今ならまだ戻れると、書く手を止めて一からまたやり直した方がいいと、物語の文書よりも頭の中で浮かんでいた。
それはいかにも正しいことのように理路整然と頭の中で語っている
きっとそれは正しいのだと思う。このまま書いても面白い小説にはならない。しかし、その正論は悪魔の誘惑であるように思えた。
駄作が出来るなら辞めろは一見正しいように思えるが、じゃあこの作品を書くのをやめて次の作品を書いて、それが面白くなるかと言ったらそうは思えない。
そもそも長編を書き上げた事もない僕が何度やり直しても上手く書ける訳がない。
永遠に同じ事を繰り返し、一生長編小説なんで完成しない。そんな未来がハッキリと見えた。
甘美な誘惑はこれ以上続きを書かなくて良い都合の良い言い訳へと僕を誘っていた。
だから書いた。面白くない話をとにかく進めた。必要のないイベントを、下手な伏線を、盛り上がりのない結末を苦しみながら書いた。
ラストシーンを書くまで僕は1年を費やしていた。進まない筆に面白くない話。
途中見るのも嫌になり逃げ出した時期もありながら、1年かけて最後のシーンに取り掛かった。
僕は最後に向かい話すキャラ達を書きながら涙を流していた。
話に感動しているからではなく、ようやく終わるという安堵でもなかった。
この小説に出てきたキャラクター達に対する罪悪感で僕は涙を流していた。
もっと僕の文章力や構成力、アイディアがあれば輝かせる事が出来たはずだった。
僕が下手なばっかりにチグハグな感情表現や中身のないシナリオに振り回され、僕の書いたキャラクター達は死んでいるも同然となってしまった。
本当はもっと可愛いはずなのに、本当はもっとカッコいいはずなのに、本当はもっと美しいはずなのに、本当はもっと悲しいはずなのに、本当はもっと嬉しいはずなのに、本当は、本当は、本当は……
後悔の念とともに最後の一文を書き終えると、それでも途轍もない達成感と解放感が湧き出てきた。
約15万文字の長編がここに完結したのだった。
落ち着いてから読み返してみると、恥ずかしくなるほど面白くなかった。文章のテンポが悪く読みづらい。キャラに個性がない。内容が薄い。何が書きたいのか分からない。
なんて悪い点は上げればキリがなかった。結局、僕が初めて書いた長編小説で唯一褒められる所は書き切った事くらいであった。
一次落選の文字が目に入る。批評が欲しく僕は書いた小説を新人賞に応募してみたが、webページにはそれだけが書かれてあった。
批評が貰えるのは二次審査からのようで僕の小説は批評するまでもないと判断されたようであった。
予想はしていたが、それでもショックを受けた。もしかしたらを僕はいつまでも捨てきれないようだった。
何より、せっかく書いたキャラクター達が評価さらることなく消えていくのが何より苦しかった。
命を吹き込んで貰うために書いた小説のキャラ達が万に一つの可能性がないまま埋もれてしまった。
その敗北で僕はその続きも新しい物語も書けなくなった。完全に筆を僕は捨ててしまった。
それから半年経って新しいゲームを買った。自分でキャラを作って戦わせるというゲームであった。
色々なキャラを作る中で僕は彼らの事を思い出した。日の目を見ることなく完結した僕の小説のキャラ達を思い出した。
作った。白髪で無表情の謎の少女を、元気いっぱいな後輩を、主人公が好きなツンデレヒロインを、最高にカッコいい主人公を。
そのゲーム内の素材で出来るだけ僕の想像に近くなるように作った。
その結果、僕は感動していた。
偽物とはいえ、僕の書いたキャラ達が動いていた事に僕は感激していた。
彼らは設定通りではなく、剣や魔法で戦えば、無表情でなければ年下でもないしツンデレでもない、そして主人公でもなかった。
それでも僕が書いたキャラがそこで生きようとしていた。生まれ変わったように生きようとしていた。
僕はもう一度パソコンに向かった。今度こそ本当にキャラクターの魅力を引き出せるように、彼らに命を吹き込んでもらえるように。
今回はかなり脚色した自分語りでした!




