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機械のように直して

残り315日!51日目!

 ガレージでバイクを直す彼を見るのが私は好きだった。


 だったと言うのは少し語弊があるかもしれない。私は今でも彼のバイクを直している姿は好きだと思う。しかし、その一方で見ていて辛い感情が生まれているというのが正しい。


 浮気をしている彼を直視する事が、浮気をしている彼をまだ好きでいる事が私の心に辛く刺さってくる。


 バイクを直す姿がカッコよくて好きなのではなく、元々全くバイクに興味がない私のその好きは、彼を愛している事に付随する好きである事を自分でも分かっている。

だから、浮気をしている事を知った後でも、まだ私が彼を愛していると言う正直な自分の心が憎く気持ちが悪かった。


 浮気に気付くきっかけは挙げればキリがないのに、彼が何度ボロを出してもそれを追求し糾弾する事が私には出来なかった。


 そんな私だから浮気をし続けるのだろうか。多少ボロを出しても何も言わない都合のいい女のように見ているのかもしれない。そう考えるとまた余計に心が痛んできた。


 何故私は彼に一言文句を言う事すら出来ないのだろう。最初に浮気をしている事に気付いた時は胸の内に確かな怒りがあった。


 苛立ちを露わにして別れを切り出そうとすら思っていたはずだった。結局、なぁなぁに終わってしまったが、2度目、3度目と彼の浮気に気付くと怒りよりも悲しみの感情が多くを占める様になった。


 そしてもう何度目か分からない彼の浮気に私の心はギイギイと軋む音を立てながら何か感情を沸き立てようと動くのだが、結局、無理やり動かした反動の痛みと辛さだけが心に残るようになった。


 あぁそうか、壊れているのだ。


 度重なるオーバーワークの結果、摩耗した私の心は動作不良を起こしている。


 本来なら湧くはずの強い怒りも悲しみも心の歯車がサビついたかのように出て来ず、歯切れ悪く飛び出す尿漏れのような感情はどこかに染み出しすぐに消えてしまうのだった。


 私は彼に直してもらった時計の事が頭に浮かぶ。


 幼い頃から大事にしていた目覚まし時計がついに電池を入れ替えても動かなくなってしまった事があった。それを彼に伝えると「任せて」と頼もしくその時計を預かってくれた。


 エンジニアである彼は手先が器用で、機械を直すのはお手の物であり、工具箱から道具を取り出し、すぐに時計を分解し始めた。


 その作業を私は横でジッと眺めていた。彼はブツブツ、ネジがどうとか、噛み合いがどうとか言っていたのを覚えている。その後、今ある手持ちのものじゃ直せないからと、バイクで近くのホームセンターま

で彼はむかった。


 散らばった時計の部品。毎日のように見ていた時計の知らない中身。それ程、複雑な構造ではないのだろうが、この小さな部品が一つでも足りなかったり、壊れていたら、正常に動かなくなる事に私は小さな感動を覚えていた。一体、この部品のどれが交換されるのか私には分からなかったが、初めから内蔵されていたこれら部品でなくとも直す事ができ、また動く事が少し不思議に思えた。


 しばらく、すると彼が帰ってくると、再び作業に戻ると10分くらいで治してしまった。時計の針は元気にカチカチと音を鳴らし、アラームをセットすると定刻通りにベルの音を響かせてくれた。


 あまりに嬉しくて「ありがとう」と軽く抱きしめて言うと、「これくらい全然いいよ」と言った彼は本当に格好の良い最高な彼氏であった。


 修理終わりに取り替えた部品を集め彼がそれを捨てようとするのを私は止めて、取って置きたいと彼にお願いすると不思議そうな顔をされたが、すぐに部品が私の手のひらの上に差し出された。


 私はその部品を小さい箱に入れ保管した。元々、お気に入りの時計の一部であった、壊れ別の部品に取り換えられ一部ではなくなったその部品たちを私は大事にしまった。


 自分の心もあの時計のように直す事は出来ないだろうか。どこかに変えのきく部品のようなものがあったりはしないだろうか。


 当然、彼には出来ない。機械は直せても彼に心が直せる訳がない。もし彼が浮気をスッパリやめ、再び誠実な愛情を私に送ったとして、それは私の壊れた心を直すという事にはならない。


 今の私がそれを受け取ったらどんな動作不良が起きるか分かったモノじゃない。


 ただ精神科に行くとか、メンタルカウンセリングを受けると言うのも、私の思うやり方ではない。もっと機械を直すように、彼が私の時計を直したように、私の心も直して欲しい。


 自分の心の内部を見せ、壊れた部分があればちょいちょいと取り除き新しい部品と交換して欲しかった。そうすれば、スッキリと淀みがなく湧き出る感情に任せて今度こそ私は彼に言いたい事を言うのだ。


 なんて妄想をしても、何の感情か分からないくらいの量が軋む心から染み出る程度だった。


 妄想で、そんな魔法のような事あるわけがなかった。でも、もし。


 もしそんな事が可能であるなら、再び流れ出るように感情を沸かせたいなんて贅沢は言わないから、未だに彼が好きであるこのぶっ壊れた心を直してもらいたいと思う。

今回の単語は特にありません!

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