よもや運命とは結べない
残り318日!48日目!
国内有数の進学校、名門と呼ばれるその高校の入学式、育ちの良さそうな生徒達が堂々と華々しい面持ちで校舎内を闊歩している中、異様な雰囲気を醸し周囲の視線を集めていた彼女がいた。
彼女はなんと学校の中に家庭用ゲーム機を持ち込みプレイしていたのだった。
こう説明すれば、ただ学校にゲームを持ち込んで遊んでいるただの不真面目な生徒であったが、彼女の異常さの原因は校内でゲームをする事になんの悪びれを感じさせない堂々としたものである所にあった。
つい見かけた時はぎょっとして他の生徒と同様に目で追ってしまったくらいである。
初めて見かけたのが入学式の玄関であり、目で追った後は向かう同学年であるため向かう教室の方向が一緒であったため、歩きスマホをするくらいの感覚で彼女は歩きゲームをする彼女の後を追うようになってしまった。
案の定、廊下で話す生徒の視線の的になっていたが、彼女は気にする素振りを見せずにどんどん歩いて行く。途中で人にぶつかりそうになった時も画面から目を離さずにスルリと躱して何事もない様に歩いて行った。
ここまで行くともはや曲芸のようである。
ようやく「1ー4」教室の前で足を止めた彼女は、一瞬だけゲーム機から手を放しドアを開け教室の中に侵入していった。
どうやらここが彼女の教室のようだと思ったのも束の間、ここが自分の教室である事に気付く。
まさかの同じクラスによもや運命なんてものを結びつく事など想像もつかなかったが、ほんの少しくらいの縁をその時は感じた。
彼女の後を追うように教室に入るとまばらに交流している生徒達の姿がそこにあり、今から始めるグループ作りの前準備が各地で行われていた。
黒板には大きなコピー用紙に席順が示されているようで、教室の後ろのドアから入った為、近くまで行かなければ確認する事が出来なかった、
前まで行き確認しようと机の間を抜けて行こうとすると前からゲーマー女子が歩いて来ていた。
邪魔にならないように通路を開けると彼女はその空いた道を通っていく。その時、彼女は俺に会釈をしていたようにみえた。
(本当に視野が広いんだな)なんて自分でもずれていると思う感想を抱きながら本来の目的であった座席表を確認しにいく。
途中、前の席の方で話していた二人組の男子が彼女について話している声が聞こえた。あまりいい印象の話ではないため、かなり悪目立ちしているようで、彼女の第一印象はマイナスであるようだった。
あそこまで堂々としているのであれば、それも覚悟の上だろうと思いながら、座席表を確認すると、教室で一番後ろの窓際、俗に言う主人公席と呼ばれる席であった。
学園ラブコメは好みであり、そもそも教室の一番後ろと言うのは学生にとってはやはり嬉しいものである。さて、と主人公席であるならば隣が誰かと言うのは重要で名前を確認すると、女子の名前が書いてあった。
どうやら、相棒枠ではなくヒロイン枠が自分の隣の席になるようだと、浮かれた事を考えているととある予感がよぎった。嫌な予感と言う程ではないが、何か確信めいた予知とも言えるような事が頭の中で閃く。
隣はあの子だ。
と、ゲーマー女子の姿を想像しながら教室後方の窓際に目をやると、相変わらず机の上でゲーム機を動かす彼女の姿が当たり前のようにそこにあった。
主人公席のヒロイン席に偶然座った彼女によもや運命なんて事はやっぱり結びつく事はなかったが、これは間違いなく何かの縁のだろうと俺はその時に諦めた。
彼女がゲームをする理由は好き以外にはないらしい。
プロゲーマーになりたいのかと聞くとそうではないらしく、ゲームが好きなだけできれば何でもいいと言う。
それならプロゲーマーは夢のような仕事のように思えたが、好きなゲームを好きなだけしたい彼女に取ってプロになる事はしがらみでしかないようで、何もしないでもお金が入ってくる仕組みをすでに考えていると言っていた。
流石、校則が緩いと言う理由だけでこの超のつく進学校を選んだ天才の考える事は違う。ここまで頭のいい人間が集まるのであればある程度好きにさせた方がいいという方針らしく、他人に明らかな迷惑を掛けない限りは大抵の事は許されるのがウチの学校であった。
つまり学校でゲームをしていても特に何も言われる事が無い為、平均偏差値68を超えるこの学校に入学してきたと彼女は言った。
ゲームばっかりしている彼女がどうやってこの難関受験を突破したのかを聞くと、ゲームをしていればどうにでもなると答えが返ってきた。
彼女曰く、ゲームを隅から隅までやりつくせば勉強なんてしなくてもいい、との事である。
一芸に秀でるものは多芸に秀でると言うが、つまり彼女のような事を言うのだろうと思った。
だからと言って誰でも出来る芸当ではないだろうが。自分が彼女と同じようにゲームから全てを学ぼうなんて出来ないのは分かる。
初めて見た時から普通ではない彼女。ゲームが人生そのものの彼女。
屋外でもゲームを続ける彼女からゲームを取り上げるとどうなるか見てみたいと入学してすぐに思っていたが、意外とその瞬間が見られるのは早かった。
授業中でも構わずにゲームをしている彼女だったが、他の生徒の内職と同様に見逃される事が多かったのだが、一人の数学教師だけは彼女がゲームをしている事に怒り、取り上げたのだった。
周囲の生徒は激怒する教師の事を白けた目で見ていたが、この数学教師の反応こそ普通であると思えたので、個人としては普通の先生がいたのだと安心出来たくらいであった。
それに生徒達も怒る内容より、声を荒げていること自体に白い目を向けていたのが正しいのかもしれなかった。四六時中ゲームをしている変な女子の心配をする人もどこにもいなかった。
かくゆう自分も、ゲームを取り上げられたらどうするのか奇異の目を向けていたので、本当にあの教室で彼女を心配する人物はおらず、彼女自身もそれは同じだっただろうと勝手に思っている。
とかく、ゲームを取り上げられることに一切反抗しなかった彼女は、言われるがまま機体を先生に預けたかと思うと、ノートとペンを取り出した。
意外と素直だ、なんて思った自分こそ本当に素直な人間だったと思う。
彼女の書き出す文字の量は中身を見なくとも黒板に書かれてある事よりも多かった。ゲームをしている時のように、彼女の手は動き続けている。
隣の席からそっと盗み見ると、そこには何かの名称やよく分からない計算式が書かれてあり、後から聞けばダメージ計算らしかった。そう言われても自分にはよく分からなかったが。
それから、その数学教師が授業をする時はノートとペンを出しては一生懸命書き込んでおり、毎回、書くものも変わり、フレーム表? であったり、ストーリー考察であったり、バグのプログラムであったり、RTA? の最短ルートであったり、どれもこれもゲームに関わる事をメモしているようであった。
とにかくゲームと関わっていないと彼女は落ち着かないみたいである。
一度、飽きないのかと聞いた事があるが、飽きた事ないと返ってきた。馬鹿のする質問だった。誰かに強要されてゲームをしている訳ではないのだから、彼女がゲームに飽きる事なんてないのは分かりきった事だった。
だから「飽きたらどうするの」と聞き直してみた。
「飽きる、飽きるかぁ……」と珍しく悩みながら考えを巡らす彼女、その手は勿論ゲームを離さず止まらなかった。
「分からん」と彼女は答えた。
「じゃあゲーム以上に好きなモノが出来たら?」
「ゲーム以上にのめり込む」
「そう思わせる相手に俺はなれる?」
「無理かな」
と、にべもなく断られる。
「でも、一緒にゲームして欲しい相手ではある」
片方のコントローラーが彼女から差し出される。それを俺は受け取った。
よもや運命とは結びつく事はなかったが、この縁が赤く結ばれる事を願うばかりだった。
今回は「結びつく」「屋外」「有数」の三つの単語からお話を書きました!




