才能がないという悪
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いつ頃からだっただろうか。自分には才能がないと思い始めたのは。
もしかしたら自分の才能のなさに最初から気付いていたのを気付かない振りをして目を逸らしていただけなのかもしれないが、それでも、まだ自分に自信を持って生きていた。
これからの将来の事を考えると心躍ったし、逆に自分の将来が想像通りにならなかった場合の事を考えればしっかりと絶望する事が出来た。
それが今では、これから来る夢のような人生なんて夢想出来ないし、あの頃想像していた絶望的な将来が来る事を想像しても「まぁそうか」で済んでしまう。
現在と若い頃にこれ程までに持っている希望がかけ離れてしまっている。それはひとえに自分への期待、自分の中にある才能に対する希望が失われたからなのだろう。
「才能なんて努力していない人間の言い訳の言葉」なんてよく聞くセリフがこれまでに何度自分の心に鞭を入れてきたか。今も昔もこのセリフは間違っていないと思っている。
それでも、今と昔では受け取り方は全く違う。
希望があったあの時であれば努力が足りてないと奮い立たせる愛の鞭になってくれたが、今となってはただ心が痛むだけの言葉である。
夢を叶えられないだけでなぜ自分は責められているのかと思うが、なぜもない、努力してないお前が悪いなんて正論を立てられては何も言い返す事は出来ない。いたずらに鞭を打たれるだけである。
しかし、このセリフに対して思う事は「才能」は言い訳の言葉に出来るが、「才能」は実際に存在するという事だ。だから言い訳の言葉に成りえているのだから。
才能の格差はある。出来る人間と出来ない人間はいる。
「自分には才能がないから夢を叶えられなかった」は言い訳になるだろうが、「アイツには才能があったから夢を叶える事が出来た」は言い訳になるのだろうか。
後者が言い訳になるとすれば、努力をしても届かない場所がある事を受け入れる事は悪だと言う話になる。
悪、悪、悪、悪。
何か悪い事しまたか?
人並み以上に努力した人間を「才能なんて努力していない人間の言い訳の言葉」と言って責めるのは間違っているのではないだろうか。
もう一度聞く。俺は何か悪い事しましたか?
そこまで書いていつの間にか自分の私怨が入り過ぎている事を感じ手崎はパソコンに打ち込むのを辞める。
もう一度、最初から読み返し、手崎は書いた文章を全選択しバックスペースを押して全て削除した。
「レポートになってないな……」
大学4年にもなってもまだ単位を取り終わっていない手崎は簡単に単位が取れるという授業を片っ端から受講し、その中で受講した授業のレポートを書いている途中であった。
その講義は小学生でも書けそうなテーマの簡単なレポートを書いて提出するだけであった為、特に文章を書く事に抵抗がない手崎は喜んでこの講義を受けていた。
毎週、講義でレポートのテーマが出されるのだが、今回のテーマは「才能と努力」であった。
このテーマを教室の一番前で話している教授から出された時から手崎の心の中には既に言い知れない黒いモヤモヤが溜まっていた。それは元々、手崎の中に溜まっていたものなのかもしれないが、いずれにせよ、浮かんだ靄は手崎の心臓を強烈に脈打たせた。
そして、気持ちのまま家に帰って書いた文章は、レポートなどではなく独白となっていた。最後は気持ちが入り過ぎ一人称が「俺」に変わっていた。
書き直しになった空白に手崎はまた文を打ち込み始める。
独白ではなくなった同じ内容の文章を手崎はパソコンに打つ。スルスルと打たれる文章は同じ内容であるにも関わらず、中身は「才能」を言い訳にする事が悪である世の中の風潮について書かれたレポートへと変貌した。
ノルマである1000字以上まで適当に言葉を足した手崎はさっさと教授に提出する為のファイルボックスにそのレポートのデータを突っ込んだ。
しかし、教授から出された「才能と努力」のテーマは手崎の黒い靄を体中目張りするように広める。
手崎はスマホで小説を自由に投稿出来るサイトを開くとマイページへと飛んだ。
自分の活動欄に様々なタイトルが並んでおり、そのタイトルのページに一つ一つ飛んで評価数と閲覧数を確認すると、評価数は多くて2、3でほとんどが0、一日の閲覧数は二桁を超える事は無くほとんどが0。
ページを変えて、他の作者のタイトル一覧をみると、オススメ作品や人気の作品が出てくる。興味があった訳ではないが、適当に一番上の人気タイトルをクリックすると手崎はその内容よりも先に、評価と閲覧数を見る。
自分と比べ物にならない数字に手崎は溜息を吐く。
(これは努力なのか才能なのか)
先程書いたレポートの内容を手崎は思い出す。
改めて考えると言い訳にさらに言い訳を塗り重ねているようで、もういっそ死んでしまおうか、という気持ちになる。
手癖のように動画サイトのアプリをクリックして適当な動画をタップすると広告が流れる。
人気アイドルが書いた小説が映画になる内容に手崎は、どうせ面白くないだろと心で悪態を吐く。
しかし、それが嫉妬である事に気付き酷く自分を嫌悪した。
面白くなくあって欲しいというのは手崎のただの願望であった。
自分に足りないのは努力であって才能ではないと、自分を悪にしないでくれと、そう――願うのだった。
今回は「広める」「目張り」「強烈」の三つの単語からお話を書きました!




