まっさらな完璧
残り321日!45日目!
図工の時間に出来上がらなかったその木製の板。まだ名称つける事が出来ないほど、図工作品として造形は整っておらず、これが何かと問われれば傷が付いた木の板としか言えなかった。
その板を見つめた少年は図工室に一人で居残りをさせられていた。
他にも残っていた生徒はいたが、少年以外は完成させてしまいこの乾いた空気が漂うこの図工室から脱出していた。図工を担当する教師も少年を置いて、別の仕事をするために職員室へと引っ込んでしまった。
この図工室から抜け出せないのは少年ただ一人であった。
右手に彫刻刀を握っているが、その刃先が板に向かう事はない。
板には一度だけ細い彫刻刀で彫った跡がついているが、それ以外には何も手を加えられていない。彫ったと言うよりも傷をつけただけのようで、その跡に何か意味があるようには思えなかった。
少年は何度も彫刻刀を板に近づけ続きを彫ろうとするが、その刃が板に触れる事はない。
結局、握った彫刻刀を置いた少年は、唯一彫ってある線を指でなぞる。端からまで端までなぞると再び端
に戻りまた端までなぞる。
付けてしまった傷を後悔するように惜しむように、後悔するかのように何度も、何度も線をなぞった。
次第に少年の体は気怠そうに机の方に傾き始め、線をなぞっていない方の手を伸ばし、その手に片頬をつける。図工室の中は暖房が効いているため暖かいが、それまでに冷やされた冬のテーブルからは冷気を感じる。
なぞっている線を見ていた目線を少年は外に向ける。山国の県にある冬の小学校の駐車場は雪で白く染められ、普段の学校とは違う景色が形成されていた。
学校にいた生徒も図工室にいる彼以外は帰宅しており、駐車場の雪の跡はまた新たに降った新雪に上書きされまっさらな状態になっていた。
何も手が加えられていないまっさらな状態の駐車場に少年の目は奪われる。均等に広がる白い世界、少年にとってそれが完璧な世界であった。
板の傷をなぞる手が一定のリズムで動き続ける。それを続ければいつか魔法のように彫った傷が消える事を祈るかのようであった。
しかし、何度傷をなぞろうとその傷は消える事はなかった。
新品のものと差し替えたい気持ちはあったが、差し替えた所で結局は何も作っていないのと同じである為、居残りをさせられているこの状況から抜け出すことは出来ない。
何かを完成させろと言われ、自分の気持ちを押し殺して一本の線を彫ったこの板は図工の先生の目にはただの手抜きにしか映らなかった。
しっかり完成させろと言われたが、少年はそれ以上、板を傷つける事が出来ずに居残りが彼以外にいなくなるまで何も出来ないでいた。
しばらく、窓の外を見ていると駐車場に一台の車が走ってきて、真っ白な世界に跡をつけようとする。
少年はしその光景から目を逸らした。
しかし、すぐに外に目を向けると車のタイヤ痕がくっきり残っており、少年の完璧ではなくなってい
た。さらに、車から降りた人物がその上を歩き足跡をつけていった。
少年の板をなぞる手が止まる。
少年の顔に諦めの表情が浮かんでいた。今見た景色が道理であることを理解したかのようであった。付けていた頬を上げて、圧迫によって少し痺れを感じる手で彫刻刀を掴む。そして、何も考えないように努めながら少年は板に彫刻刀を入れようろする。
その時、先ほど車から降りてきた人物が何か道具を引き摺りながら帰ってきた。そして、駐車場でその道具を引き摺りながら歩き回る。
すると、道具が通った道は、その人物の足跡を消しながら後からついてくる。彼が持っていたのは雪かきであった。
男が持るつ雪かきが通る道は少年の遠目から見れば、まっさらになっているように見え、少年の望む完璧に再び戻しているように見えた。
実際には少年の価値観から言えばかなり歪な状態であっただろうが、それでも少年にとっては青天の霹靂であった。
少年は立ち上がり、図工室のどこかにあるであろうそれを探し始めた。
前の授業で使ったその道具はすぐに見つかり、少年は一心不乱にその道具を板に擦り付ける。
ガシャガシャと、音を立てながら手に持った紙やすりで磨いていく。
少しずつ削れ、木屑が出て来るが、見た目よりも深く彫られた板の傷を消すまでには相当な時間が掛かりそうであった。
しかし、少年はそんな事を気にすることはなかった。ただ、その板を完璧に戻す為に、少年は手を動かし続けるのであった。
今回は「紙やすり」「山国」「差し替える」の三つの単語からお話を書きました!




