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認められない楽しい努力

残り324日!42日目!

 とあるゲームセンターの一角、透明なプラスチック板によって赤と青の半面ずつに分けられた台。その台を挟んで二人の若者が対峙する。お互い片手に白色のマフィンに取っ手がついた道具を握り、腰を屈めて対戦が始まるその時を待つ。


 右のレールから勢いよく赤の面に飛び出した白い円盤を待ち構えていたかのように、赤側にいた少年が手に持った白い道具で打ち放つ。


 カツン、カツンと立てられた壁に反射しつつ青の面へと侵入していく。

反射し動き回りながら侵入してきた円盤を今度は青側にいた少女が正確に捉え、こちらも勢いよく手に持った白い道具で打ち返した。


 円盤を壁に反射させながら打った少年とは違い少女の方は真っ直ぐ少年の方へ向けて打ち抜いた。


 素早く近づく円盤を急いで打ち返そうとする少年だったが、振りが間に合わずインパクトがほんの少しだけ弱い打ち返しになる。


 その瞬間を少女は見逃さない。


 正しい助走に、正しいフォーム、正確な視野を確保した少女は円盤を力一杯にぶち抜いた。


「うらぁっ!」


「くっ」


 少年も反応を見せ手に持った道具の端に円盤を霞ませ少し軌道を変えたが、中央に空いた穴に円盤が吸い込まれていく。


 『0ー1』の表示が電光掲示板に写る。少女に一点入ったようである。


「しゃあっ」


 と、少女は道具を持っていない逆の手でガッツポーズを握る、がすぐに姿勢を正し次の動きを待つ。


 すると今度も青の面に円盤が飛び出してくる。少年は再びその円盤を打ち出した。




『3ー7』の表示が点滅する。白い円盤はもう打ち出されなかった。


「クソ……」


 と悪態を吐く少年の額は汗だくで肩で息をしている。対して少女の余裕の笑顔を見せて少年に近付いて行く。


「また私の勝ちー、ゲーム代とジュース奢りね」


 揶揄うように息を切らせる少年に対戦前に決めていた罰ゲームを求める少女。


「いや……もっかい、もう一回しよう」


「勝てないのによくやるわねアンタ、別にいいんだけど喉が乾いたから先にジュース買ってくれる?」


 「まぁ、わかった」と自分こそ水分が必要だと感じたのか、財布をカバンから取り出して了承して、自動販売機に向かう。


 ゲームセンターの外にある3つ並んだ自動販売機の中から紙パック系の飲み物が陳列された機械を選び、百円玉を一枚入れる。すると購入可能を示す赤いランプが点き、少女はその中からイチゴミルクを選びボタンを押すとガコンという音を立てた後に、百円玉が自販機に吸い込まれていく音が聞こえる。


 少女はすぐに取り出すとすぐにイチゴミルクの紙パックにストローを刺し、口を付けて美味しそうに飲み始める。少年はその横で同じ自動販売機に百円を入れようとするが、財布の中に残っている百円玉が一枚しかないのを見て、両替ついでに千円札をいれ、アロエの絵が描かれた紙パックを選んでボタンを押す。


 商品が出てくるのに続き、ジャラジャラとお釣りが出てくる。明らかに長い排出音からお釣りが全て百円である事を少年は察する。元々、全て百円に両替したいと考えていた少年にとっては好都合であり、お釣りを残さず取り切った事を確認すると財布に流し込んだ。


「まだまだ罰ゲーム代を払う気満々じゃん」


 と、財布の小銭入れがパンパンになっているのを盗み見て少女は言う。


「次はお前が払う番なんだからな」


 と、鬱陶しそうに少女を引きはがし自分もアロエの紙パックにストローを突き刺して飲み始める。かなり喉が渇いていたようで一瞬で紙パックはベコベコに凹んでしまった。


 チューと音を鳴らして最後の一滴まで飲み干したと感じた少年は近くのゴミ箱にしっかりと捨てる。


「ご馳走さんー」


 と、先に飲んでいた少女が少年の後にイチゴミルクのゴミを捨てる。


「毎日、ジュースもゲームもタダで出来てホントに幸せだわ」


「次は勝つって言ってるだろ」


「もう何回目の次なのよ」


 と少女は楽しそうに少年を揶揄う。


「次は次だ」


「負けず嫌いー」


 言いながら「はは」と声を出して少女は笑う。


「でも、そんな本気で相手にしてくれるのは私としても嬉しい。こんなもの、どれだけ上手くなったって内輪でしか褒めて貰えないのに、ずっと辞める事が出来なかったから、勝負相手になってくれるのは感謝してるわ」


「感謝してる相手から散々巻き上げるか普通?」


「それとこれとは話が別、それにアンタだって罰ゲーム無しじゃ納得いかないでしょ」


「お前に勝って奢られるジュースはきっとどんな高級ワインよりも美味で酔えるだろうから」


「良かったわね。一生味を知らないでいられるから安い現実を知らなくて済むわよ」


 そう挑発すると少年と少女の間で火花が散る。


 互いにメンチを切りながら再び元の場所へ戻ってくると少年が財布から百円玉を二枚取り出した。


「じゃあ、もう一戦」


 と、少年が言うと空気が一変しひりつき始める。ひりつきの発生源は少女であり、ヘラヘラとしていた顔つきは消え真剣な表情へと一瞬で変貌していた。


 少年はひりつく空気を感じながら百円を二枚機械に入れると、機械が起動し周囲の音が大きくなる。


 少年は先程の対戦でも持っていたマレットと呼ばれる道具を手に持ち、パックと呼ばれる円盤が機械から出てくるのを集中して待つ。


 打ち出されたパックは赤側、つまり少女の方へと滑っていく。それが試合開始の合図であった。


 そこからパックを打ち出す高速のやり取り繰り広げられるのだった。


 彼らが真剣にプレイしているのはゲームセンターによくあるエアホッケーと言うゲームであった。


 グループでゲームセンターに集まれば一度はやった事があるであろうそのポピュラーなゲーム。誰とでも楽しく簡単に勝負が出来る楽しいゲームである。


 だが、二人のやり取りにそんな優しそうな様子はない。


 命のやり取りをしているかのようにお互いが相手の陣地へとパックを打ち出している。時には壁を使って反射をさせたり、堂々と真っ直ぐ打ったり、打つ振りをしてフェイントを入れるなど、どう相手を崩すか考えられたプレイが台上で行われていた。


 明らかに遊びの範疇を超えた二人の動き。一朝一夕ではないと分かる彼らのプレイ。


 こんなものを極めた所で将来に何の役にも立たない。世間に認められる事もないし、就活で有利になる事だってないはずである。


 それでも、辞める事が出来なかった。


 どんだけ上手くなったって仕方ないと分かっていても、少女は続ける事しか出来ず、少年は負けを受け入れる事が出来なかった。


 数分後、『7ー5』の表示が点滅し、少年の方が項垂れている姿がそこにはあった。


今回は「対戦」「半面」「内輪」の三つの単語からお話を書きました!

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