思考の旅人
残り325日!41日目!
掛けた眼鏡を外して目を瞑った。
もうかれこれ半日はこうしてパソコンと向かい合っている男。
ぐったりと椅子の背にもたれ掛かりながら瞼で眼球を覆うと、じわじわと目の疲労が癒される。
この時こそが男にとって最高に至福の時である。このまま寝てしまえたら極上を味わえるというのに。
とはいえ締め切りは待ってくれない。寝ている時間なんて男にはなかった。
しかし、半日もパソコンに噛り付いていれば書くこともなくなり完全に行き詰っていた。
ごちゃごちゃした思考を放棄して男は意識を無にする。ともすれば寝かねない暴挙のように思えるが、徐々に男の右足が震え始める。
ゆっさゆっさと最初はゆっくりと動いていた右足だったが、ゆさゆさと早く小刻みに震え始める。
思考を放棄した男は貧乏揺すりをする右足にだけ意識を集中させるのだった。
これが男にとって最もリラックスできる状態なのであった。
そして、放棄した思考は意識的にしていた貧乏揺すりが無意識でも動くようになってくると、いつの間にか完全に男の元から離れて放浪し始め旅に出る。
男の元を出た思考が最初に見た光景は先程まで手を付けていた仕事内容だった。何かの数字やアイディア、今後の予定であったり、時には嫌いな上司の顔まで見えてくる。嫌いな上司は酷く怒った様子であった。それはこのまま現在の仕事を放棄した場合の未来であるようであった。
しかし、思考はそれを見ないフリをして思考は旅を続ける。
するとこの前、同僚達と行った焼肉屋が現れた。
美味しそうな肉にジョッキに入った冷えた生ビール、笑顔の同僚達。
そんな光景を見ながらも、参加する事は出来ないため羨ましそうにそこを通り過ぎる事しか出来ない。
だが次に流れてきたのは、綺麗な女性とお酒を飲んでいる様子だった。その女性は先程通った焼肉屋の中にいた同僚達の中にいた一人だった。
その女性と楽しく話していた。さっきは羨ましそうに見ていただけだったが今回は女性と楽しそうに会話出来ており、満足そうであった。
少し場面が飛び夜景の見える高台で男は告白をした。
女性の返事は「はい」と嬉しそうに答えた。
その時、急に大声で怒鳴る上司が現れ、幸せだった空間は渦にのまれて消えてしまった。
ムカついた男はその上司を会社の屋上に連れ出して落とした。
少しスッキリしたが、また出て直ぐの場所に戻されてしまったようで、仕方なくそこで探索を始める事にする。
しかし、何度も同じ所をグルグルとたり、違う道を通ったつもりで結局同じところに帰ってきていたり、抜け道を見つけたと思えば行き止まりになっていたり、どこにもいけないでいた。
少し前まではもっと目新しいものでいっぱいだったこの場所も気付けば自由に身動きが取れない迷宮にかわっていた。
すると迷宮の端っこで仕事をしている先程の女性を見つけてしまう。
見つかった女性は笑顔でこちらに向かって来ると再び同じ場所で二人お酒を飲むのだった。
そしてまた夜景の見える高台に場所が変わると告白をし、女性から「はい」と返事を貰うのだった。
また場面が変わり、そこはホテルの一室だった。女性は下着姿になっており、溜まらず飛びついた。
一通り堪能した男は現実に戻されるように仕事の迷宮の場所まで帰ってきていた。
さっき程、女性から「頑張ってる姿がカッコいい」と言われたからであった。
迷宮探索により一層力が入る。
しかし、また同じ所をグルグルと回るだけだった。
他の所も探したが、やはり同じ道に戻ってきてしまう。
もしかして、この道に戻ってくることに意味があるんじゃないかと直感した男はその道をただ歩くのではなく隈なく見て回った。
すると何度も通っていたのに全く気付かなかった扉を見つける事が出来たのだ。
その扉を開けるとまた見た事ない広大な世界が広がっていた。
ここで男は揺らしていた右足をピタリ止めると、パチリと目を開き置いた眼鏡を掛け、再びパソコンに噛り付いた。
旅人となっていた思考を自分の元に戻した男は、その旅の間に得られた収穫を存分に利用するのであった。
今回は「旅人」「貧乏揺すり」「眼鏡」の三つの単語からお話を書きました!




