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映えない私

残り362日!4日目!

 スマホの向こうは笑顔ばかりで、スマホを見る私の顔は憂鬱に顔を歪めている。

SNSで繋がった私とは関係のない世界をスマホの窓から眺めては苦しみが募る。しかし、アプリを消す事も見ない様に振る舞う事も出来ない。


 気になるように作られている。世界の一流の中の一流が作ったSNSの世界は私を離さない。憂鬱に心を削られてもその麻薬のような中毒性に充てられてしまった。


 憂鬱ですら快楽になる。誰が何をしているかなんて知った所で何の得にもならないのに、私は私以外が幸せそうに過ごしているのを見て気分が落ちていく。


 こうなれなかった自分。SNSで映えを気にするような自分にはなれなかった。先日、一人で行ったオシャレそうなカフェの写真。同じ歳くらいの女子大学生らしきグループが各々の頼んだケーキやパフェなど並べて写真を撮っていた。


 何度も撮り直す間に、頼まれたジェラートが溶けて細長の容器から垂れ落ちていた。


 流石に気付いたのか彼女らは「食べよ! 食べよ!」と、頼んだデザートを自分の所へ持っていく。溶けて柔らかくなったジェラートは頼んだ女性の下に辿り着く頃には映えの代償として形が崩壊してしまっていた。


 ただ、味は溶けても変わらないらしく、他の女性と同様に「美味しい!」と上機嫌で食べていた。


 きっと彼女らは今すぐにでも写真をアップするのだろう。己の何かを満足させる為に。腹も、心も、友情も満たせるとはなんと素晴らしいモノなのだろうか。


「お待たせいたしました」


 隣のテーブルを観察していると、男のウェイトレスが私の注文したパフェとコーヒーを持って来てくれた。私はスマホを手に取り一枚だけ写真を撮る。


 あのSNSからよく見る景色がそこにある。彼女らも写真のプロではない。私との技術はさほど変わらない。しかし、私の写真はきらめかない。映えている様には感じない。


 絶望的に足りない何かがあった。同じ写真のはずなのに、頂点に立つルビーの様なサクランボはこれ程ツヤツヤなのに。食べると口の中に甘さが広がり美味しいのに。彼女らと何も変わらないのに、私の撮った写真が生える事はない。


 彼女らとは違い一人で食べているからだろうか? 皆で食べた方が美味しいという理由と同じように、みんなで写真を撮った方が映えるのかもしれない。


 それはあり得そうな気がした。きっと私も彼女らのようにグループに混ざってカフェに来ていたなら、私の撮った写真も輝いて見えたかもしれない。


 でも、それとはまた違う気がする。私の写真が輝いて見えない理由は別にある気がした。一人でも撮った写真が映えて見える人はいる。私はそうではない。


 ある程度食べた隣の女の子達は肩を寄せ合って今度は自分達の写真を撮っていた。揃いも揃って軽い笑顔を浮かべている。満面の笑みではないのは自分達の映えも狙っているからだろう。


 暗くなった画面に反射した顔に作り笑いを浮かべる。ぎこちなく頬を引きつらせた可愛くない私がいた。


 これは明らかに彼女達とは違う。集合写真でもなければ出してはいけないものだ。引き立て役としてではなくては私の出番など来ないだろう。


 グループにも属さない私の出番はどちらにしろ来る事はないだろうが。


 隣にいた女子大生のグループは食べ終えた後にも長々と談笑をしており、私が食べ終えてもまだ店から出そうになかった。


 私は席を立ち会計へと向かう。1500円というカフェならでは金額が表示されお釣りなく支払いを終えて店を出ようとする。その時、女子大生達の方から笑い声が聞こえる。


 私は振り返らずに店を出た。

 


 思い出したようにスマホの写真フォルダを開けてその時とったカフェの写真を探す。ほとんど写真なんて撮る事なんてないので、スクロールする事なくその写真を見つけた。


 当たり前だが写真はあの時のままだった。特に変哲もないコーヒーとパフェの写真。やはり私はこの写真に魅力を感じる事は出来なかった。


 再びSNSを開いて投稿メニューを開き、あの時撮った写真を選択した。エフェクトをカチャカチャと色々変えてみるがやはり魅力的は写らない。


 投稿ボタンを押す事なく戻る矢印をタップした。誰かが投稿した笑顔の集合写真がトップに上がっていた。SNSのバナーを消し飛ばすように勢いよく上へとスワイプして電源を消した。


 暗くなった画面に憂鬱そうな可愛げのに私が映った。


今回の三つの単語は「スマホ」「憂鬱」「笑顔」でした!

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