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冬眠よりも深い植物の眠り

残り329日!37日目!

 今年初めての新雪が降った。


 窓の外は吹き上がった雪煙で白く覆われて、いつも眩しく部屋を照らす朝日は鳴りを潜めていた。


 もう一度、眠ろうと布団を被るが、覚醒しきった頭がこれ以上は眠る事が出来ないと伝えてくる。それでも、布団の温もりに抜け出す事が出来ずにそのまま時間を過ごす。


 毎年、雪が降り始めると年の終わりを意識させられる。これで何回目の冬だっただろうか。年の終わりを感じる度に自分の中に生じていた焦りも今は何も感じない。


 もう何も考えたくない。実家と言う土壌に根を張る植物であるように努めた。60を過ぎた両親からすれば面倒な雑草がいつまでも家の中の一部屋で巣くっているようなものだろう。


 その事に罪悪感も覚えなくなった。植物なのだから感情もない。何かを感じる心もない。そんなものがあればとっくに見え透く体裁を取り繕ってでも行動に出ているはずなのだから。


 自分と同じニートが集まるネット掲示板を読んでいると、よく親が死んだらどうするんだと言うような書き込みを見かけた。両親が死ねば土壌が枯れるのも同然なのだから俺はどうする事も出来ずに死んでいくのかもしれないと勝手に思っている。


 でもきっと、そうはならない。植物のように努めているだけで俺は植物ではない。だから、きっとそうはならない。だからと言ってどうなるかは分からない。


 未来の事も考えなくなった。ただその日を消費して土壌から養分を摂取し、何も考えないでただ日々を生きる事だけが俺の今の人生なのだから。


 スマホを取り出してニート掲示板を眺める。夢を目指さなくなり、虚無感と脱力感に苛まれ仲間を探しにやってきたこの掲示板。一度も書き込んだ事はなかったが、それでも最初は自分と同じような人間や自分よりもっと歳の言った人間、人間性が終わっている人間を見て心を保っていた。


 ただ、今は仲間探しでも下を確認する為に来ている訳でもなくなった。やる事がないから、習慣として開いているだけであった。


 それにこの掲示板に書き込む彼らの事を仲間だと思わなくなった。彼らは自分と同じではない事に気付いたからだ。いや、ひょっとしたら掲示板を初めて覗いたあの頃はまだ仲間であったのかもしれない。


 卑屈な文章も、攻撃的なやり取りも、傷の舐め合いも傷に塩を擦りこむ書き込みをする彼らは、きっとまだ心の中に鬱屈とした、やるせない物が溜まっているのだと思えた。


 願わくば何か変わってくれないか、そう願いながら書き込んでいるように思えた。


 初恋の女の子に悪ふざけでもいいから連絡を送るように、とにかく何かのフィードバッグを求めて書き込んでいる。それは慰めでも嘲りでも怒りでも何でもよくて、それが現状を変える神の一手となる事を願っている。


 俺にはそれがなかった。


 心は灯油を使い切ったストーブのようで全く火は付かず熱く燃える事無く、ただ絞り出すように悪臭を振りまくだけ、そしてついには悪臭すらまき散らす事ない無の状態になっていく。


 無意識でも変わろうとする気力が残っている彼らと俺は全然違う。もうウンともスンとも言わなくなった俺と違って彼らの心は正の感情でも負の感情でもまだ稼働している。


 稼働している内は変わるチャンスが生まれるはずである。


 俺と同じように心の中にある灯油を使い切って再起出来なくなった人間も沢山いるだろう。結局、ここまで来てしまえば、どんな経歴であろうと、もう一度頑張るか、無気力に根を張るかのどちらかになるのだろうと思う。


 それかいっそ死んでしまうというのもあるかもしれない。


 今では自殺も考えなくなった為、縁のない行為ではあるが。


 目を瞑った。


 眠くはなかったが目を瞑った。


 いつか枯れるか伐採されるその時まで目を瞑ろうと思った。


今回は「雪煙」「経歴」「見え透く」の三つの単語からお話を書きました!

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