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蟲毒なラブレター

残り335日!31日目!一か月達成!

「ごめん、友達としてしかみれない」


 考えに考え抜き手紙までしたため推敲に推敲を重ね音読練習をしてきた僕の告白は、決まり文句のようにテンプレ化された簡素な定型文で返されたのだった。


「あぁ……うん、わかったよ……」


 告白し振られるまで燃え上がっていた情熱的な思いは一瞬の内に鎮火され、燃えカスとなった炭化した心はボロボロに崩れ去ってしまった。


 ショックで立ち尽くしていると、気まずそうに彼女は「じゃあ、ゴメンまたね」と言って僕に背を向けて去って行った。


 呆然と空を見上げると目から涙が零れ落ちて行った。

 



 次の日、傷心癒える事もなく学校へ向かうと友人が飛びついてきた。


「お前ラブロマンス映画顔負けの告白したらしいじゃん」


 気安く肩を組むそいつの手を払いのける


「なんで知ってる?」


 この質問は些かするだけ無駄であったと思う。なんでも何も告白のあの場に居たのは僕と彼女しかいなかった。必然的彼女が周囲に僕の告白を吹聴したという事だ。告白された事を言いまわるなんて、そんな事をする子だと思っていなかった。最低だ。見損なった。


「お前の告白が面白過ぎて誰かに言うのを我慢出来なかったらしいぞ」


 面白過ぎてとはこれ如何に。人の真剣を笑うなんて、またもや僕の中で彼女の株が下がる。これは振られて正解だったのではないだろうか。


「しかも告白の熱量があり過ぎて彼女、逆に冷めたらしいぜ。あ、コイツ駄目だって」


 真剣さが裏目に出てしまった。初めての告白で程度が分からなかった。そのため、アニメや映画、小説を題材にして自分なりに詰め込めるだけ要素を詰め込んで見たのだが、どうやらそれが良くなかったらしい。


 ラブロマンスもかくやと言われても仕方がないのかもしれない。


 僕はかなり出来の良いラブレターを書けたと思っていたが、彼女からすれば色んな恋愛要素で蟲毒をしたツボの中身のような手紙を読み聞かせられていたという事なのかもしれない。


 書いた手紙は読み上げてすぐに振られてしまった為、彼女の手元に渡る事はなかったが、伝聞だけで盛り上がりを見せている教室の雰囲気を見るに、本書が渡っていた場合の想像が恐ろしかった。


 きっと一人で持ち帰る事が困難になり、僕のラブレターを呪物のように扱い、教室の黒板に張り出されていたに違いなかった。


 今でも相当な辱めを受けていると言うのに、そこまでされてしまえば僕はきっと生きていけない。今度はこの4階の教室からアクション俳優さながらの人生一度きり窓割りダイブを決めていた事だろう。


「なぁどんな手紙を書いたんだよ。聞くだけじゃ物足りないから見せてくれよ」


「もう捨てて燃やしたわ、あんなもの」


 本当は次の機会がある場合の反省ように取って置いてあるのだが、呪物認定されそうな僕のラブレターは今すぐお焚き上げをして供養するべきかもしれなかった。


「なんだよ、残念」


 と、友人はあっさり身を引いた。引き際を弁えているいい友人であった。


「それでお前は諦めるの?」


 引いても話題がそれ程変わる事もなく、今度は彼女について僕に聞いて来る。


「振られたのにこれ以上あるかよ。諦めるしかなくないだろ」


 それに心を酷く傷つけられた。僕はもう立ち直れないかもしれない。


「彼女がお前に告られた事を他人に言ってしまった事を彼女の責任にするのは酷だぜ。あれはお前が悪い」


 なぜ僕の手紙を見ても聞いてすらもいないお前にそこまで言われなければいけないのだと憤慨する。もしかしたら、彼女が誇張して言い触らしているのではなかろうか。告白してきた僕を陥れる為に。


 そうだとしても僕を陥れて彼女に何の得があると言うのだろうか。


 何も思いつかない。それより、告白を吹聴するような人間だと人間性を疑われるデメリットの方が大きそうだ。


 やはり僕が悪いのか? 僕の手紙が悪いと言うのだろうか。人間性が疑われるデメリットを押してまで吹聴せざるを得なくする僕のラブレターが悪いと言うのだろうか。


「で、いいのか本当に諦めて?」


 しつこく聞いて来る友人にいい加減腹が立ってきた。


「いいよホントに、あれだけ情熱的に告白して駄目だったのに、これ以上どうしろっていうんだよ」


「いいか? 彼女はこう言ってるんだ。お前の告白が情熱過ぎて冷めたって、わざわざ周囲に言ってるんだ。つまりこれはどういう事か分かるか?」


「僕を笑いものにしてるって事だろ?」


「違う。いや、違う訳じゃないが。まず前提が情熱的過ぎて冷めたって彼女はハッキリ言っている。これがどういう事だか分かるか?」


 分からない。僕が振られたというだけの話ではないのか。


「冷めるって事はお前に熱があったって事だよ。熱に浮かされていたのはお前だけじゃない彼女もだ」


「それは良く解釈し過ぎだ」


 例えそうだとしても冷めたモノは冷めてしまったのだから振られた事には違わない。


「かもな。でも、彼女は真剣な告白を吹聴して回るような子じゃない事はお前も知っているだろ?」


「いや、まぁ……」


 口ごもってしまう。実際、そんな子だと思わなかったと僕は思っていたのだから。


「でも、実際言い触らしてるだろ」


「だから、彼女は今回の告白を笑い話にしてやるってお前に伝えているんだよ」


「なんだよそれ?」


「その告白じゃ受けれないから今回は笑って流してやるからまた告白をしろって意味だよ。絶対に! そうに決まっている!」


 「はぁ?」としか思えなかった。何だその遠回りは。くど過ぎて推理小説のネタにもならない。


「意味わからんみたいな顔しやがって。だったらお前、ちゃんと自分の言葉で告白したのかよ」


 人の努力も知らないで何様だ。考えに考え抜き以下略の手紙が自分の言葉じゃない訳がない。何処にでもありふれた言葉で振ってきたのは彼女の方だ。


「お前がしたのは参考資料を書き写したような、全部が借り物の言葉を合わせた告白だろ。どこにお前の言葉があるんだよ」


「それは……そうかも」


 否定は出来なかった。彼女に対する気持ちの伝え方も、言い回しも、誉め言葉も、見たり聞いた参考資料からすべからず引用したものだった。僕はただ自己満足な情熱を彼女にぶつけただけだという事だろうか。


「笑い飛ばしてやるから、もっかいチャンスやるって言ってくれてんだよ。一度考え直してもう一度彼女に告白してこいよ」


「いや、でも」


「お前はいいのか、好きな子への気持ちが全部借り物で出来た薄ぺらいまま伝わっていても。好きって気持ちは本当だっただろ。伝えた言葉は結局借り物だったかもしれなくても、お前の彼女に対する情熱は本物だっただろ」


 そうだ。振られて消えるまで情熱の炎は確かに僕の心の中で燃えていた。それは間違いなかった。


「また振られてもいいだろ。しっかりお前の気持ちを伝えてこいよ」


 友人が必死に心の奥で燻りかけていた火種に薪をくべていた事に今更気付く。友人の努力が実を結び再び僕の心に情熱の炎が熱く燃える。


「うん、きっちり伝えてくる」

 




「愛しています!」


 前回、あれだけ長々と語った告白はたったの一言に凝縮された。簡単で簡潔なシンプルな僕の答えだった。


 自分の手紙を蟲毒のツボの中身のように例えたが、結局僕の伝えたい事はなんなのかと、一度家に帰ってその恋愛蟲毒を解き明かすと残っていたのは「愛している」というたったそれだけだった。


 定型文にもテンプレにもならない程、誰もが使うその言葉が心から伝えたい僕の言葉だった。


「愛してるって言うのが君らしいね、でも、うん、ありがとう」


 告白の返事が前回の定型文のようなものではなない。


「私も愛してる」


 それは彼女の言葉であると思えた。




 後に友人から聞いた話だが、僕の告白に笑ってしまいそうになり、仕切り直したくて彼女は僕の事をつい振ってしまったらしい。


 振ってしまった手前、自分から告白するのも難しく、もう一度、僕に「普通の」告白をして欲しかったらしいが、同じような告白をされても二の舞になる気がした彼女は友人に相談したらしい。


 すると、友人が僕の告白の悪い所を笑い話にしてしまえというアドバイスをしたのだった。周りからの雰囲気で僕のした告白がいかにおかしなものかを理解させる為に。


 僕が告白した事を吹聴していたのはそういった理由があったからであった。友人は推理めいた事を言っていたが全てを知ったうえで僕を強引にもう一度告白させようとしただけであった。


 多少ムカつくが、指摘された事は確かにそうだったので寛大な気持ちで許してやった。


 あの蟲毒ラブレターは今でも厳重に保管されている。


 次にその蟲毒を開いた時はもしかすると僕が伝えたい気持ちはまた変化しているかもしれないと思った。

今回は「友達」「涙」「映画」の三つの単語からお話を書きました!

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