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長寿とは、心とは、強さとは

残り336日!30日目!

 『38.4℃』と脇に挟んでいた体温計には人間の平均体温よるも高い数値が表示されていた。要するに風邪であった。


 昨日、土砂降りの雨の中で駆け回っていたせいなのは明白なのだが、だからと言って体を壊すのは中々に情けなくなってくる。


 怠い体を起こしてベッドの近くにある窓に掛かったカーテンを捲ると眩しい明かりが部屋に入ってくる。あれだけ滝のように降っていた雨は止み、今日はカラカラの晴天となっていた。


 昨日あれだけ太陽の光を欲していたのに、今は目を瞑って眠るのに邪魔にしかならないので、捲ったカーテンから手を離して光を遮る。


 少し体を起き上がらせただけでドッと体にシンドさが押し寄せてくる。押されるがままに体を倒しベッドに再び寝転んだ。


「あーしんど……」


 口にした所で良くなる訳でもなく、寧ろ、自覚したせいで余計に気持ち悪くなった気がした。


 ウツラウツラと夢と現実の狭間を行き来していると、ガチャリと玄関のドアの鍵が開く音がした。


 それが夢かどうか曖昧なまま様子を見ていると一人の見知った綺麗な女性が部屋の中に入ってきた。つまり、夢であるようだった。


「おい、大丈夫か」


 幻が話しかけてくる。夢の世界であるなら彼女を好きに出来ると思ったが、夢の中でも勝てる気がしなかったので俺は何もしなかった。


「こっち見てるよな? おい、大丈夫か?」


 と、ペチペチ顔を叩いてくるのでようやく現実である事を自覚する。現実であるならば、なぜ彼女がここにいるのかが不思議であった。


「なんで魔族長のアナタがここに?」


 世界を滅ぼす力を持つ魔族の長が何故、自分のような一般市民の事を看に来るとは何事なのだろうか?


「暇なんだよ私が一番」


「暇な時間を過ごすのは慣れっこじゃないんですか?」


 何百万、何千万と生きてきた魔族長は暇ではない時間の方が長いはずであった。


「そうとも。いや、どうだろうな。今はそうでもないかも。まぁどっちにしろ暇でつまらない時間はない方がいい」


「俺の看病をしてもつまらないでしょ」


「いいや、お前が苦しむ姿はいつ見ても飽きないものだよ」


 冷やかしなら帰ってくれないだろうか。と俺が彼女を睨むと


「冗談だよ、ほら薬貰って来たからこれで飲め」


「え、まさか本当に看病しに来たんですか?」


 本気で意外そうな顔してしまったのだろう、彼女は俺を睨みつける。


「私がそんな心のない奴に見えるか?」


 自分より圧倒的に上位な存在に睨みつけられてはNOとは言えない。


「滅相もないです」


「だろ? しかし、私に心があるとはこれはまた皮肉な話だ。一体いつから心なんて意識し始めただろうかね」


「昔は何も感じなかったんですか?」


「感じないとは言わない。でも、どうなのだろう、本能に身を任せていた事をきっと心と呼びはしないだろ? 感情と心は別と言った所か」


「なるほど?」


 分かるような分からないような。そもそも、存在からして違う彼女の悩みと同じ次元で話せるとは到底思えなかった。言葉以上の深みがきっとそこにはある。


「そんな話はいい。お前は薬を飲め」


「処方箋とか貰ったんですか?」


「いらんいらん、私を誰だと思っている?」


 なぜ処方箋なしに薬を用意出来たかを聞いている訳ではなく、医者に診て貰った訳でもないのに処方箋なしの薬を飲んでいいのかを聞きたかった。


 とはいえ、彼女の下には優秀な医者や研究員がいた。きっと大丈夫なのだろうと思う。錠剤を指定分取り出し、水と一緒に流す。水はとても温かった


「しかし、人間は不憫よな。すぐに病気をして体を壊す。脆すぎだ」


「そりゃ、寿命もない、鋼鉄よりも硬い、熱しても凍らせても、壊れないアナタ達に比べたら脆いですよ」


「まぁな。でも立派だとも思うよ。脆い体を理解して直すための手段をお前らは作り上げるのだから。本当に一度瞬きをしたら、お前達はあっという間に成長をしてしまう」


 パチっと乾いた目を閉じて開く。こんな一瞬で人は成長しないだろうと思うが、彼女からしたら本当に瞬き一つと同じくらいの速度で人間というのは進化していっているように思うのかもしれない。


「魔族長は成長しないんですか?」


 という俺の問いに彼女はふむと顎に手をやって考える。そしてしばらくしてそのポーズを解いた。


「さっきも言ったが今の私には心がある。それが成長したのかどうかは正直よく分からん。それに魔族は元々戦う生物だ。それが現在隠居暮らしのようにしているんだ。魔族としては成長どころか退化しているのかもしれん」


 退化していると言っても彼女が本気を出せば日本どころか世界中が滅びの道を辿る事になる。そうはならないのは何もしないと彼女達魔族が「心」に決めたからであった。


 本能的でもない、感情的でもない、理性的に決めた事であった。


「そういえば、ここに来る際に自転車を使ったぞ。必要を感じていなかったが乗らなかったが、暇だったから練習してみたんだ。あれは良いモノだな」


 やろうと思えば高速ジェットと同じ速度で動ける彼女がワザワザ自転車なんて使う必要はないはずだ。


「歩くよりは速いし車よりも小回りがきく。私の研究所からここまで来るのに丁度いい塩梅だ」


「研究所から自転車でここまでですか? 結構距離ありますよね?」


「1時間くらいだ」


 超超長寿の彼女には一時間なんて一瞬にも満たないのだろう。魔族の体力を考えれば疲れもしないだろう。


 しかし、どおりで水がぬるい訳だ。


 「ぬるい」どころか「ぬくい」くらいだった。研究所から持ってきたのであろう水は一時間の時間をかけて太陽の日で暖められたという事だった。


 とは言え俺なんかを看病する為に来てくれたのだから文句をいう訳にはいかない。


「お前は死なないよな?」


「こんな風邪くらいじゃ死にませんよ。持って来てくれた薬もありますしね」


「そうか、そうだよな。最近の人間は昔に比べてずっと長生きだからな」


「そうですよ、まだ俺も若いですからね」


 と、少し薬も効いて楽になった体で彼女に笑い掛ける。


 魔族にとって人間の寿命が延びた所でそれ程変わりないと思うが、彼女は寂しそうに長生きすると言った。


 心を持って成長したどうかは分からないが、今の彼女の表情は強い者とはとても思えなかった。

今回は「薬」「自転車」「病気」の三つの単語からお話を書きました!

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