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酢豚とパイナップル

残り337日!29日目!

「え、酢豚にパイナップル入れるの?」


 これが彼女と同棲して初めてした大喧嘩のきっかけだった。


 ちょっとした軽口だった。彼女が酢豚を作っている途中にパイナップル缶を開け始めたため、頭によぎった酢豚パイナップル論争が頭をよぎり、ちょっと揶揄うつもりで指摘した。


 しかし、彼女はその指摘に苛立ち


「何? 文句あるなら食べなければいいでしょ」


 と、不機嫌さを露わにした。


 酢豚にパイナップルを入れる事に本来、肯定派でも否定派でもない。普段は入っていない方を食べているが、別に入っていても美味しく食べられる自信はある。


「いや、文句というか珍しいなと思って」


「そんなの遠回しに文句を言ってるのと変わらないでしょ」


 本当にそんなつもりはなかったのだが、いや、でも確かに僕の言い方は酢豚にパイナップルを入れる事に対して少し嫌味を含んだ言い方をしていた。


 しかし、それは本気で嫌であったのではない。さっきも言ったが、僕にパイナップルが入っていても酢豚を美味しく食べられる。


 巷で行われている酢豚パイナップル論争を彼女と面白おかしくしてみたくて挑発的な言い方をしただけだったのだが、彼女の癇に障ってしまったようである。


 唐揚げにレモンをかけるか、キノコかタケノコか、二人で生活してきてこの手の話題はよくしていた。お互いの考えが一致でも不一致でも関係なく楽しく話題に花を咲かせられていた。


 それなのに酢豚にパイナップルを入れる事には何か一家言でもあるのだろうか。


「大体、自分で作らないで食べるだけなのに文句言うなんてありえないでしょ!」


「だから文句なんて言ってないって!」


 彼女に合わせて自分も語気が強くなってしまう。そもそも酢豚にパイナップルを入れている事に突っ込んだぐらいで何故、責められているのかも分からなくなってきた。


「だいたい、酢豚にパイナップルを入れるならまず入れていいか聞くべきじゃないか? 酢豚パイナップル論争くらい聞いた事あるだろ」


 と、特に文句があった訳でもないのに文句が口から零れてしまう。


「ほらやっぱり文句があったんじゃない! 聞くべきって、アンタいつも聞いても何でもいいか、どっちでもいいしか言わないじゃん!」


 彼女の言う通りだ。そもそもパイナップルだって本当はどっちでも良かった。


「食べるだけ食べて文句を言って偉そうに、何様よアナタ」


 そう言われてカチンと来てしまった。偉そうにって何だよ。


「同棲してるんだから、何かあったら言うのが普通だろ?」


 と、ここからは売り言葉に買い言葉であった。いつしか酢豚の話から離れてお互い不満に感じていた事をぶつけ合うような口論に発展してしまった。


 本気で気にしていない些細な事を掘り返して、さも今までずっと不満に思っていたかのように、自分にばかり非があると納得したくなかった為に彼女を責めた。


 そして、彼女はついに「もういい」と言って、取るものを取って泣きながら家から出て行った。


 正直、彼女が出て行って僕はようやく解放されたようにホッとしてしまった。


 しかし、すぐに後悔と罪悪感がやってくる。


 謝ろうと急いで出て行った彼女の背を追おうとするが、既に姿はなく。彼女の行先がどこにあるのか見当もつかない僕は探す事も出来なかった。


 諦めて家に戻ると冷めた酢豚とまだ缶詰の中に入っているパイナップルを見つけた。


 食材に罪は無い為、僕と彼女の二人分の量を全て食べ切り、デザートにパイナップルを食べた。


 彼女が作ったのでなければやっぱり、別々に食べた方が美味しいように思えた。




『ごめん、僕が悪かった』


『ちゃんと謝りたいから何処かで会えない?』


 酢豚を食べ終えると頭が冷え、すぐに謝罪の連絡を入れたが既読された様子がない。もしかすると、連絡表示さえ見たくないとブロックされている可能性もあった。


 喧嘩した次の日、職場で仲良くしている同僚にその事を相談してみた。


「そんな酢豚にパイナップルを入れる事にこだわりがあると思わなかった」


 と言うと、同僚は目を丸くしたかと思うと「ふっ」と噴き出したかと思うと声を出して笑い始めた。


 会社のオフィスである為、他にも社員がいる中で笑われ何だかさらし上げられているようで恥ずかしかった。


「違うだろお前、彼女が怒ったのはそこじゃないだろ」


 と、まだ緩んでいる口を動かしながら僕のおかしさを指摘する。


「確かに、喧嘩の発端は酢豚にパイナップルを入れるのかを聞いた事かもしれないけど、彼女がお前に伝えたかったのは今まで募らせてきた不満の方だろ」


「でも、こんな喧嘩になったのは今回が初めてで、彼女から不満なんて聞いた事なかったのに」


「だからだろ、同棲してお互いに不満がない奴らなんていないだろ、表に出さず溜めていただけ」


 そう言われれば確かにそうなのかもしれない。普段は特に気にしないような不満が彼女との口論の間にいくつも口からついでだ。


 同じように彼女も日々溜まっていたのだろう。しかも僕のように日々の生活で蒸発するような気化性の高い不満ではなく、一滴一滴が確実に器に溜まっていくように不満を募らせていたという事なのだろう。


 それが昨日、溜まり切り限界を迎えたというのだろう。


「お前の彼女、作る料理に対してのお前の態度に不満があったんじゃないか?」


 喧嘩のきっかけも料理に関して、そういえば、「何でもいい」とか「どっちでもいい」ばっかりと怒られた。同棲しているのに何かあったら言うのが普通と言ったのは僕なのに、お互いを擦り合わせようとしていないのは僕の方だった。


「どうしたらいいかな」


「どうもできないだろ。連絡が取れないなら。行く先も分からないんだろ?」


 お手上げ状態。


「まぁ、酢豚とパイナップルじゃないんだからいつまでも相容れない訳じゃないだろ。向こうも頭冷えたら帰ってくるだろ。その時、また話合えばいいだろ」


 何も出来ない現状そうするしかない。それまでに自分の反省すべき、そして彼女に伝えるべき事を考えておかなければならない。


 そして同僚は酢豚にパイナップルは絶対にありえない派閥のようであった。

今回は「さらし」「ブロック」「パイナップル」の三つの単語からお話を書きました!

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