気候のような思い
残り340日!26日目!
「死ねよ」
そう言う彼女の声や表情は北極の冷気を纏っているかのように僕の心臓を凍てつかせる。言葉や顔は冷やかであると言うのに、きっと彼女の心中は北極とは真逆に位置しているはずの熱帯低気圧の如く激しい暴風雨で見舞われている事であろうと予測出来た。
「すみません」
そう謝る事しか出来ない。それ以上の言葉は意味をなさないだろう。いや、きっとこんな謝罪の言葉だって今の彼女には届きやしない。カラカラの砂漠地帯にどれだけ水を垂らした所で乾いた砂に吸い込まれ蒸発してしまう。小さな一滴二滴の言葉じゃ焼け石に水にもならない。
無理に彼女の心に触れようとすれば火傷する事必死である。しかし、それでも僕は突っ込まずにいられなかった。どんなに表面上は無駄に思える行為でも、砂に浸み込んだ水はほんの少しだとしても、彼女の心を潤したかった。
「謝んなくていい。早く死んで」
「ごめんなさい、それは出来ません」
「いいから死ねよ!!」
彼女の叫び声が落雷の如く轟いた。一度落とした雷雲は再び落とす準備はあるようで、まだまだ言い足りないと言わんばかりに彼女は息を荒くしている。その息遣いは雷雲の中で落ちる事なく放電されていく小さな雷のようでもあった。
「もうアンタが分からない」
と、もっと勢いが増すかと思われた雷は鳴りを潜め、大粒の雨のような一粒の涙が零れ落ちた。それが大雨の前触れであったかのように涙を流す。
「もう信じられないよ、誰も……アンタに裏切られたって知ったら」
濃霧が心の視界を覆っているようで、ハッキリと見えない世界いる彼女は手探りの中で何を信じればいいのか分からなくなっているようであった。
「僕は裏切った訳じゃない。今でも君の味方だよ」
本心を離した所で霧を通したフィルターを前に全て雲散していくようであった。今度こそ叫びはしなかったが、睨みつける彼女の瞳をみると自分の言葉が彼女には届かない事を悟ってしまう。
満点の星空に見える星々のように、触れられそうな程、近くに見えるのに絶対に届かない事を悟ってしまう。
「信じられない」
「じゃあ、どうしたら信じてくれる?」
「死んでって言ってる。今すぐ、それこそアンタが出来る私に対しての最大の誠意よ」
「……うん、なるほど。分かった……」
ガシャガシャと屋上に建てられた金網のフェンスに僕は登り始めた。これから僕は飛ぶ。大好きな空を自由に飛べる鳥の真似をして、イカロスのように地面に叩きつけられて死ぬ。
良い死に方かもしれない。
「ちょっと! 何してるのよ!?」
彼女が雨脚よりも早く僕に近付きしがみついていた金網から振り落とす。それなりに高い所から落ちたせいか「ぐえ」と情けない声が息と共に漏れ出る。
「馬鹿! 本当に死のうとする奴がいるか!」
本気で死ねと言っていたと感じていたが、どうやら彼女の気分は山の天気よりも移ろいやすいようだ。
「ねぇ、ホントに何をしてるのよ……」
「アナタが死ねと言うから。それが信じて貰える唯一の手段だったから」
この世に必要とされていない空気のような存在であった自分に対して興味を持ってくれた初めての相手が彼女だった。
「僕はアナタに嫌われる事が死ぬよりも怖い」
死ぬのは怖くなかった。きっと天国は今まで見た事のない絶景の空を眺める事が出来るだろうから。天国に住む事は一種の憧れでもあった。
「……わかった。疑って悪かった。きっと私の勘違いだったんだろうな……」
霧が晴れたような清々しい顔つきになっている。言葉には温かみが戻り、地中海気圧くらい落ち着いた心持ちになっているように感じられた。
「忘れてたよ。アンタがふざけた奴だって。そんな奴が他の連中と結託して私を騙すなんて事出来る訳ないよね」
これは褒められていない気がする。
「ねぇ、もし許してくれるならまたアンタと一緒にいてもいい?」
「空が晴れて虹が掛かるです」
「えっと……ゴメンどういう事?」
「雨降って地固まるです」
「つまり仲直りしたって事でいいの?」
「その通り」と言うと台風で学級閉鎖になった子供のような無邪気な笑顔を見せて
今回は「熱帯低気圧」「北極」「火傷」の三つの単語からお話を書きました!




