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何もない修学旅行

残り343日!23日目!

 修学旅行の自由時間はAと一緒に回りたいという願いがあったが、俺達が二人仲良くしている姿は同級生に見せたくなかった。


 別に付き合っているからではなく、ちょっとしたキッカケでお互いに持っている夢と秘密を共有した間柄なので目立って二人だけで共有したものが外部に漏れるのが嫌だった。


 でも、Aは目立つタイプの女子ではないが可愛らしく、そんな女子と秘密の共有なんてしてしまったら、好きになるのも仕方ない事だろう。


 修学旅行なんて特別なイベント、好きな女の子と一緒に回りたいと思って当然だった。


 何とか誰にもバレずに誘えないだろうかなんて考えても、いい方法は思い浮かばなかった。Aとの関係がバレたくないので友達に頼る事も出来ない。それじゃあ、二人なんて贅沢は言わないからどうにか同じグループでと思ったが、お互いを意識し始めている思春期の俺達には男子と女子がグループを誘って一緒に回るというのはハードルが高かった。


 結局、クラスでも交流のある男子グループに入った。正直、あまり乗り気ではなかった。きっとどのグループに入っても何かしらの不満はあっただろうが、特にこのグループの嫌な所は武がいる事だった。


 武は簡単に言えばクラスのムードメーカー的な立ち位置にいる生徒だが、他人を弄って笑いを取る事もしょっちゅうしていた。俺も何度も弄られていた。その度おどけて見せるが、正直不快だった。


 傍からみれば仲良くしている様にみえるだろうが、それは俺が不快さを感じさせないように立ち回っているだけで、勝手に下に見て弄ってくる武の事はよく思っていなかった。


 とはいえ、武はクラスの中心人物であるのは間違いなかった。という事は武のグループに入る事はクラスの中心メンバーである事を意味していた。


 武に弄られ笑われるのは不快だったが、中心メンバーである事に悪い気はしなかった。これも自身のコミュ力がある証明で、普段から不快でもつまらなくても、弄りに対して笑えるように返してきたからだった。


 一方Aがいるグループは派手さのないグループで、オタクっぽい女子達が集まっていた。地味目な女子達のグループにいるAは一層可愛く見えた。


 ただどうやってもAのいるグループと一緒に自分のグループが自由時間回る事はなさそうだった。俺のいるグループは中心だとすればAのグループは端のグループだったからだ。交わる事がない。


 正直、Aのグループに入った方が楽しそうだが、そんな禁忌を犯せば男の癖に気持ち悪いと爪弾きされるのが目に見えていた。


 以前に決められた班行動の班もAとは違う班だったため、修学旅行の思い出をAと作るのは絶望的であった。


 好きな女子と修学旅行を巡るなんてものは漫画やライトノベルの世界だけで現実はそう上手くいかないようであった。


 


 昨日は、USJで遊びまくった。武の先導し乗りたいアトラクションにとにかく乗った。ときどき並ぶ待ち時間で他のクラスのグループや同じクラスの女子グループと一緒になって喋る時間もあった。


 回る約束をするのがタブーとされているだけで、いざ列で一緒になると男子も女子も互いに浮かれた調子でお喋りを始め交わっていった。何だかんだ男女を意識しているので修学旅行のような特別なイベントで異性と話すのが楽しくてしょうがないようであった。


 しかも、武のいる中心グループであるおかげで、同じクラス以外の女子グループでも話し掛けてくるため、沢山の女子と会話したり、簡単なゲームで遊んだり出来た。


 女子と遊べるのは正直、俺も嬉しく、この時は武のグループに入れて貰えて良かったと思った。


 ただ、交流したグループの中にAはいなかった。園内を歩いている時に遠目ですれ違っただけで、それ以外見かける事もなかった。そんな事もないかもしれないが避けられているのかもしれない。正直、話し掛けたり話し掛けられたり、する女子グループは派手で目立つグループが多かった。


 Aのいるような地味目なグループは俺のいるグループを避けていたのかもしれなかった。正直、それならありがたかった。楽しく話してしまった手前、あまりAに他の女子と楽しそうに話している姿を見られたくなかった。


 それにみんなといる前だろAと何を話せばいいか分からなかっただろうから、やはりAと交流がないのは良かったと思う。


 明らかに非日常的なイベントに今までにした事ない程、多くの女子との交流で頭がフワフワと空を飛行しているような感覚になる。気持ちのいい感覚だった。


 これでAと話せれば満足なのになんて考えるが、その日の宿泊先でもニアミスする事なくAと話す事はなかった。


 そして、今日の行く先は京都であった。京都は昨日と違い決められた班で行動しなければならなかった。弄ってくる武達がいない分、今日は少し気が楽そうであった。


 京都の探索は修学旅行前に班で決めた観光地を巡り宿泊先に帰ってくるというものであった。俺達の班は移動を最低限に観光地をじっくり見て回れるように予定を組んだ。


 そして俺がどうしても行きたいというスポットに清水寺があった。特に寺に興味があった訳ではないが、それでも清水寺を推したのにはAが前に行きたがっていたのを聞いたからだった。


 ただ回る時間が被るかは完全な運になっていた。もし会えたら運命的でいいなと思った。




 なんて妄想をしていたが、結局、Aと観光地を回る時間が被る事はなく会えずじまいに終わってしまった。


 本当に現実はアニメのようにいかなかった。


 もう、修学旅行の計画的に、ある程度自由が確保されている時間でAと会うのは難しそうに思えた。そもそも、Aと偶然修学旅行中に会えたからと言って周りの視線がある中で話せるとは思えなかった。


 だから既に第2プランを完遂させてあった。


 母親に頼まれた京漬と一緒に買ったお土産を誰にも見られないように大事にしまった。




 その後も修学旅行中にAと話す事はなかった。学生時代の大事なイベントを好きな子と過ごせなかった事はアニメやラノベ好きとしてはかなり残念に思えた。


 クラス内や他クラスでは浮いた話の一つや二つくらい聞こえてくると言うのに。


 でもそれでいいとも思えた。俺とAの話す場は修学旅行でなくとも特別な場である。放課後に二人で残る美術教室が俺達の居場所だった。


 修学旅行も終わり通常授業に戻った日の放課後、美術室に行くとAがいた。


「なんか久しぶりだね」


 と、入ってきた俺にAが話しかける。


「修学旅行じゃ話さなかったもんね」


 なんて平静を装っているが、心拍数は上がっていた。


 これから大事なモノを渡す緊張も相まって、ドンドン心拍数が上がっていく。


「修学旅行、いい刺激になったわ。今まで見た事ないものばっかりだったから」


 そう言ってAは俺に描いた絵を見せてくれる。


「帰ってから撮った写真を見て描いたんだ。風景の絵も結構楽しかった」


「めっちゃうまい」


 語彙の足りない褒め方だった。ただ素直な感想ではあった。


「君は何か書かなかったの?」


「あ、えっと……」


 そう言われてたじろぐ。修学旅行から帰ってきてから俺は一文字も書いていなかった。疲れと、余韻で頭がいっぱいだった。


「今から書く、修学旅行って言えばラノベの定番だし」


 言いながらノートを取り出そうとすると、京都でかったお土産の袋が見えた。「ドキ」と強く脈打ったのが分かった。一瞬、唾をのみ込んで意を決したようにそれを取り出した。


「ねぇ、A、これ京都で買ってきたんだけど貰って欲しいんだ」


「え、京都で? 一緒に修学旅行に行ってたのに変なの。私何も買ってないや」


「いやいいよ俺のは。俺も変だと思ったけど、これ見た時、Aに渡したいなって思って」


 スッと差し出す。鼓動が速くなる。この中身を見たAはどんな反応をするのだろうか。


「せっかく買ってくれたもんね。ありがと貰うね」


 俺から渡された袋を貰うと「開けていい?」と確認してきた。「いいよ」と言うとAは中を覗く。


「わぁー綺麗」


 と、感想を言いながら中身を取り出した。手には京都で買った簪が入っていた。


「でも、学校に付けていけないかなこれは」


「飾っても綺麗かなって思って」


「確かに、小物としても可愛いね」


 しげしげと眺めるAを俺は見つめてしまう。


「ありがと大切にするね、私から何もないのは悪いから今度お返しするね」


「いや、いいよ全然!」


 断りながらも、Aから期待している一言が出ない事に落胆もしつつ安堵する。


 元々、何かをプレゼントしたく内容を考えていたが、その中に簪があった。男が女に簪をプレゼントするのは特別な意味があるそうで、「アナタを守りたい」というプロポーズ的な意味があるらしかった。


 どうやらAはその意味を知らないようだった。。知っていて知らない振りをしている可能性もあるが、そうだとしたら名演過ぎる。


 透かしてしまった事に安堵もしながら、今更ながらプレゼントで思いを伝えようなんて遠まわしでキザなやり方が恥ずかしく感じてきた。


 Aを見ると机の上に簪を載せて、それを見ながら模写していた。


 俺も何か書こうとノートを広げるがその日は何一つ文字が思い浮びはしない。


 結局、俺の修学旅行には資料となるようなイベントは何もなかったのだから。


今回は「禁忌」「飛行」「簪」の三つの単語からお話を書きました!

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