小人がいる町
残り344日!22日目!
小さな県の小さな半島の小さな町、北を向けば広大な海が広がり、南を向けば緑生い茂る山があり、少し歩けば畑に囲まれ、家に帰れば当たり前のように虫がお出迎えしてくれる私の田舎には小人達が住んでいた。
『○○町ライブラリー』そこが私の働く職場であった。私がこの図書館を使用していた小中学生時代は『○○町図書館』が正式な名称であったはずなのだが、大学からこの図書館に勤務する事が決まった時にはライブラリーなんて、こんな田舎町には似合わない横文字が使われていた。
現在、私がこの小さな図書館の一番上の立場である為、再び図書館に変える事を検討している。
しかし、今は勤務中である為、私怨が混ざった事は横に置いて、新刊の状況や予約貸し出し情報をいつの年代かも分からないパソコンをカチカチしながら目で追っていく。
新刊状況については毎度毎度、目新しい本がいくつも登録されているので見ていてワクワクとするものがある。仮にも図書館司書の立場についている身ではあるので本は好きで新刊の情報には他の同類であろう人達との例に漏れず気分は高揚する。
ただ、もう一つの方である予約貸し出し情報は中身がほとんどなく、書き出されている内容も返却期限が2年も過ぎている物であった。
その本を借りている方はそれなりの高齢であり、一人暮らしの男性であった為、不幸な想像が脳裏をよぎったので去年電話を欠けてみると、その男性は私の心配を他所に元気な声で受話器越しに返事をした。
良かったと嘆息をついたが、返却期限の催促をよく理解出来ないようで、面倒くさいので彼の返却本は放っておくことにした。
その本がなくて困る事はないだろう。むしろ、定期的にかけるこの催促の電話が彼の生存確認にも繋がっていると思いこの方がいいと判断した。
と、パソコンの画面をぼんやりと眺めていると小さな図書館の奥でドサっと音がした。
「またか……」
いい加減鬱陶しくはあるが、これもこの町に務めてしまったからには仕方のない責務なのだろうと諦めて立ち上がる。
奥の本棚から落ちていたのは小さな文庫本。夏目漱石の『こころ』だった。
高校の教科書に載っていたものを授業中に聞いたふりをしながら何度も読んでいたのを思い出す。実際に買って読んだ事もあったが、授業中に読む方が特別な感じがして好きだった。
なんて思いに耽っているとまた別の本棚から本が一冊落ちてきた。
「はぁ……」
と、溜息をつきながらその本を取りに行こうとするとまた本が落ちる音がする、一冊、二冊とその音がドンドン連鎖していく。私は頭を掻いて息を吸う。
「図書館ではしゃがない!!」
私しか人がいない小さな図書館に私の大きな声が響く。きっと外まで聞こえているだろう。
ただ、連鎖的に本が落ちていく状況はその大声を境にピタッと止んだ。かと思うと、本棚からいそいそと降りてどこかへ逃げようとする小さな影が見えた。
「逃げろ、逃げろ悪ガキどもめ」
と言いながらも彼らがいくつなのか、どういう存在なのかも私はよく分かっていない。二足歩行をする小さな生物である事くらいしか分かっていなかった。
ここに住む住人はその存在を当たり前のように小人と呼んでいるため、私達も小人と呼んでおり、それは昔からずっとそう呼ばれているらしかった。
あまりにも幼い頃から小人の存在を認知していた為、今更小人が出ても何も驚かないが、大学生の頃に小人なんて想像上の生物である事が常識である事を知ってしまった。
だからと言って別に小人がいる事を隠したこともなかったが、周囲の友達は田舎には虫が多いと同じくらいの感覚で聞いてくれていた。
実際は不思議ちゃんとして見られていたのかもしれないが。こうして田舎の実家に戻っている辺り、心許せる相手がいなかったとも言える。
ともかく、小人が散らかしていった本を片付ける。しかし、今日は一段と荒らされている。いつもは不用意に落としてしまった雰囲気があるのだが、これは明らかに図書館内を複数人で走り回っている。
偶にこうして彼らの中で何が盛り上がったのかは分からないが、はしゃぎ荒らされる事があり、私が大声で怒ると蜘蛛の子散らすように逃げていくのだった。
それが大声にビックリして逃げるたのか、言葉を理解して退散しているのかは分からないが、とにかく叫べば図書館を荒らし回るのを辞めてくれるのだった。
彼らの姿をハッキリ見た事はなかったが、逃げる後ろ姿や本に隠れている半身のみなら何度も見た事がある。色もまちまちでピンクがいれば青もいて、赤もいた。
過去も私が一番接近したのは海辺の砂浜で空き瓶を見ている一匹の小人だった。何かに隠れたり逃げたりする姿ばかり見ていたので、珍しくて私は駆け寄ったのだが、急に空から飛んできたカモメに咥えられて空へと飛び立ってしまった。
あれが食物連鎖の結果なのか小人がカモメを使役しているのかは謎ではあるが、結局それいらい行方知らずとなり、あの小人がどうなったかは私にも分からなかった。
そしてこれは私の経験ではないだ幼い頃の友人が小人を捕まえたらしかった。カブトムシを捕まえようと山の中で探していると、木に張り付く茶色の光沢を放つ生物を見つけた。それを捕まえるとなんと小人だったらしい。勇敢な彼は驚き手を離す事なく虫籠に放り込んで捕まえたらしい。
家に持ち帰り皆に報告する為に家の中に虫籠を置いて報告しに行くが、帰ったころには籠の蓋が開けられており、逃げ出していたそうである。
流石小人と言うべきか、周囲の助けを借りたのかはたまた自分で逃げ出す方法を探したのか、ただの虫には到底できない知能を感じる芸当であった。
常に目の届く場所に持ち運ぶべきだったと彼はこの話をする度に後悔していた。
ただ私はそれで良かった気がする。小人を間近に見てしまうと何か壊れてしまうような気がした。
何が壊れるのかはよく分からないが、小人の神秘性なのか幻想なのか、まぁそう言ったものだと思う。
「あれ?」
少し目を離している内に落ちていた本が数冊消えている事に気付く。
不思議に思って落ちていた付近の本棚を見てみると、一冊だけ上下が逆さになっている本を見つけた。
几帳面というか、司書の仕事として上下反対に本を戻す事がない為、別の誰かがこの本を戻したと言う事だろうか。しかし、今日は誰もまだこの図書館を利用していない。それなら
キョロキョロと図書館内を見ていると逃げたはずである小人の後ろ姿が見えた。
「ふふ」とつい笑みが零れてしまう。そして
「ありがとね!」
と、図書館全体に響くように声を出す。感謝を述べるのも変な話な気もしたし、彼らが理解しているかも分からなかったが伝えたくなった。
これだから小人達との生活は辞められない私であった。
今回は「小人」「半島」「ライブラリー」の三つの単語からお話を書きました!




