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エアホッケー部

残り351日!15日目!

 同じ学校に所属していた4人組のふとした言い合いが事の発端であったという。


 何が口論の原因となったのかは定かではないが、奇遇にもその口論の場がゲームセンターであり、4人が2対2という対立構造を取っていたとなればやる事は一つであった。


 二百円をマシンに投入すると明るいゲーム音が鳴るのと同時に「シュー」と言う空気が抜ける音がした。台を挟んで各々が利き手にスマッシャーを手にする。


 エアホッケーの開始であった。


 「カコン、カキン」と小気味いい音を響かせる。一点入れるごとに大きな歓声を上げ、入れられる度に本気に出顔を歪ませ悔しがった。何がそれ程彼らを熱くさせるのか、ゲームセンターにいる彼らは汗だくになりながらも全力でプレイする。


 一ゲーム終わっても物足りないのか二ゲーム目、三ゲーム目と次々にゲームを始めていった。

数えきれない程のゲーム数をこなし、全員の財布から小銭が無くなる事でようやく終戦となった。その時、争っていた事も忘れ互いのチームで熱い友情の握手を交わしたのだった。


 それからというもの、彼らは何度もそのゲームセンターに訪れてはエアホッケー台に噛り付くようにしてプレイした。次第に仲間を増やし、大会も催され、その伝統は後輩達へと引き継がれていった。



「これが我エアホッケー部の伝統的で文化的な歴史である!」


 と偉そうに腕組みをしながら語る先輩に訝しめな目を向ける。


「本当の話なんですかそれ?」


 どうにも胡散臭い話である。この先輩がエアホッケー部に貫録を持たせようと考えた作り話のようにしか聞こえなかった。


「嘘じゃないさ。近所のゲームセンターに行った事はないのか?」


「下校の寄り道は校則違反ですよ」


「そんなの守る奴がどこにいるんだ。それに君がしているバイトだって立派な校則違反だろ」


 言葉に詰まる。そもそも、ファミレスでバイトをしている所を先輩に見つかったのが事の発端だ。僕を見つけた途端に厭らしく頬を引き上げた先輩は「学校に黙っておいてやるから俺の話を聞け」と持ち掛けてきた。


 バイトを人質に取られてしまえば抵抗する事も出来ず、仕方なく話を聞きにくればこれである。


「まぁとりあえず一緒に来いよ、証拠見せてやるから」


「俺この後バイトなんですけど」


「いけしゃあしゃあと嘘をつくな、シフトだと今日は休みだっただろうが」


 何でシフトがバレている。鎌をかけている可能性もあったが先輩の言う通りホントの事を言えば今日は休みである。どうやっても僕を逃がす気はないらしかった。


「はぁ分かりましたよ、でも付いて行くだけですよ」


 嘆息しながら諦めて僕は先輩の後ろを付いて行く。



 ゲームセンターは本当に学校のすぐ近所にあった。歩いて五分程度、こんな近くにあれば溜まり場になるだろうと思ったが、意外にも中に学校の生徒らしき人は少ない。


「さぁこっちだ」


 と、連れられてゲームセンターの奥まで連れて行かれると、階段まで連れて来られた。


「この下だよ」


 ぼやけた蛍光灯にぼんやりとだけ照らされた階段を落ちない様に慎重に先輩の後に続き降りていく。


 階段の先には古ぼけた怪しげな扉が見える。不気味な雰囲気に身構えてしまう。もしかして、僕は騙されているのではないだろうかと、つい訝しんでしまう。


 この扉を開け入ったが最後、監禁され二度と出られないのではないかという不安が脳裏をよぎる。そんなフィクションだけの世界だと思ったが、エアホッケー部の存在だって相当フィクションだと思うが。


 しかし、そんな心配を他所に先に扉を開けた先輩の先にはエアホッケー台が見えていた。しかも二台も。


「ここが僕らエアホッケー部の部室だよ、さぁ入って」


 あまりの珍しさに先輩の言われるがまま興味本位で僕はエアホッケー部の部室なる部屋に入っていく。


 中はゲームセンターらしからぬ雰囲気であった。部屋の隅にはトレーニング器具が置いてあり、小さな冷蔵庫や電子レンジまで置いてある。


「なんですか、ここ?」


「だからエアホッケー部の部室だって」


「いや、なんか想像していたよりもずっと豪華だったもので……」


 きっとウチの学校のサッカーや野球などのメジャーな部活よりも贅沢な部室だと言える。こんなよく分からないエアホッケー部なんて言う部活にこんな部室があっていいものなのだろうか。


「ゲームセンターとエアホッケー部は古くからの縁があるからね。中にあるものは全部OBや店長さん、それに僕達が持ち込んだものだよ」


 伝統的で文化的なんて大袈裟な物言いだと思っていたがあながち大袈裟でも無さそうである。よく見ればボードゲームや漫画雑誌とホッケーには関係のないものも多く見られる。


 部室というよりは秘密基地に近い雰囲気を感じる。


「それじゃあ、一勝負してみようか」


「え、僕とですか?」


「そりゃそうだよ。その為に連れてきたんだから。やってみない事には楽しさは伝わらないだろ?」


「いや、エアホッケーくらいやった事ありますよ」


 友達とゲームセンターで遊んでいる時にエアホッケーを見つければ対決する流れになるものだ。ただ、僕は運動神経が良くなく、そういった場では往々にしてジュース代を賭ける事が多く、負けて損する事がほとんどだった。


 楽しくないとは言わないが、あまりいい思い出がないのは確かだ。


 浮かない顔をしたつもりだったが、先輩は気付いてないのかエアホッケー台に電源を入れる。すると、シューという空気が漏れる音が聞こえ始める。


「え、これお金は?」


「いらないよ、ただ部屋の使用量は毎月払っているけど。店長さんの厚意もあってそれほど高くないけどね」


 ただエアホッケーする為だけに広い部屋に無料に使える台が存在している。普通ではない状況である。


「やろうか」


 と、先輩はスマッシャーとパックを手にして誘って来る。ここまで来てやらない選択肢もないので、台に嵌められているスマッシャーを手に取る。


「よし。じゃあ、いくよ」



 『7―0』のスコアが映し出されている。呆然とそのスコアを見つめるしか出来なかった。


 一点も取る事が出来なかった。それどころかパックに触れる事すらままならなかった。


 パットの動きに対して反応が追い付かなかったというのは勿論あるのだろうが、それ以外に別の秘密が隠してあるような気がした。


「どうだった?」


「何も……出来なかったです……」


 かつて遊びでやってきていたエアホッケーとは一線を画していた。エアホッケーにプロという世界があるのかは知らないが、突き詰めるよこれほど素人と差が出来るのかと驚愕していた。


「正直、ゲームセンターの遊びだって舐めてただろ?」


 ぐうの音もでない。


「パックに触る事も出来なかったです……あれって何をしたんですか?」


 自分の手をすり抜けるかのように面白い程空振りをしていた。


「何がした訳じゃない、単純に触れるか触れないかギリギリの場所に打っただけ。エアホッケーはついパックに手を出したくなるような位置が人にはある。その位置のギリギリをつけば無意識に手が出るし、当然届かない訳だからすり抜けていく」


 さも当然のように語っているが、エアホッケーはパックが壁に反射しながら動くゲームであり、しかも、ただでさえ丸く不安定な形をしているスマッシャーを使ってそれ程正確なコントロールが出来るものなのだろうか。


 いや、疑ってどうする。実際、自分は触れる事も出来ずに敗北している。それが先輩の言う事が事実であるという何よりの証拠ではないか


「フフッ、少しは興味沸いたんじゃないか?」


「まぁそれは多少なりとは」


 想像以上に奥が深そうなエアホッケーというゲームに確かに関心を寄せている自分がいた。


「そうだろう。それじゃあ、改めて歓迎しよう、ようこそエアホッケー部へ」


「あ、いえ入部する程じゃないので」


 置いたカバンを手にこれ以上面倒事にならないように出ていくのだった。

今回は「ホッケー」「文化的」「奇遇」の三つの単語からお話を書きました!

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