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時間の流れを遅くする方法

残り353日!13日目!

 年を取れば取る程、時間の流れは速くなっていくと言うのはよく聞く話だった。子供の頃の私は、一か月は一か月で一年は一年だろなんて呑気に思っていた。


 ただ二十歳を超え大学生活を送る様になって実感し始める。一年の間隔が短く感じる様になっている事に。緩やかな斜面を下っていた時間が気付けば日を増して急になっていくように、時間が転げ落ちていく。


 社会人になれば更に早送りボタンでも押されたのかと言うくらいの早さで時間は駆けていく。


 今でも子供の頃に感じていた時間に対する感覚を私は思い出せる。私はたったの1、2分が待てなかった。まだ幼少の頃の話だ。毎週楽しみにしていたテレビアニメ、その間に挟まるCMの時間が苦痛で仕方なかった。


 それだけ幼い頃は時間の流れが遅く感じていたという事だった。一分を長く感じる事が出来る程、時間の流れを感じながら生きていたという事だ。


 あの頃と比べれば一体、今の斜面はどれだけ急になって、何倍速で早送りされてしまっているのだろうか。


 昔、感じていた一か月が今は昔の感覚で十日程に感じるようになった事に気付くといよいよ吐き気がした。このまま年老いる事が堪らなく嫌だった。


 しかし、人間である以上、歳を取るのは当然であるため止める事は出来ない。ならば、幼少の頃と同じくらいの時間感覚に戻れないだろうかと思案する。


 たったの1,2分が堪らなく苦痛になるにはどうすればいいか。


 答えは簡単であった。要は飛びっきりの楽しみを作れば良い。放送されていたアニメを待ち遠しく思うように、何か楽しみ用意しそれを待つという事をすれば良いのだと思った。


 それに気付いた私は本当に好きで好きで仕方がなかった恋人と離れた。いわゆる遠距離恋愛という奴だった。


 思惑はなんと成功だった。


 あの頃のように一分感覚で待ち遠しく思う事はなくなったが、私は恋人と会えるまでの一日という単位で長く感じる様になった。


 私と恋人との予定を合わせようとすると大体、月に一度くらいでしか会う事が出来なかった。愛していた恋人と離れ離れになるのは本当に辛かった。でも、だからこそ効果があった。


 恋人に会えない寂しさは一日の長さを意識させた。その意識は日数を数え始めるのだった。


 会えない時間は待ち遠しく感じ私の思惑通り時間の流れは緩やかになった。


 しかし、落とし穴があった。恋人に振られたのだ。遠距離恋愛が上手くいかず、別れを切り出されてしまった。


 振られたショックで抜け殻のように日々を過ごすと余計に時間が経つのが早く感じる様になった。再び恋人を見つけた所で今回のように上手くいかないのは目に見えていた。


 失恋のショックから抜け出せないまま私は次に取るべき行動を考えた。


 愛していた恋人を失ってまで得た教訓は時間を意識する事が時間の感覚を長くするコツだという事だった。


 そして私は小説家となった。


 締め切りに追われる生活を始めた。迫りくる締め切りに対し、一日一日を意識して過ごすには打ってつけだと思った。しかし、結論から言えばこれは間違いだった。


 一日を意識する事は出来ても、一日の時間が忙殺されるだけで、一日を長く感じる事もないまま終わっている事に気が付いた。その事に気が付くまでに私はベストセラー作家となっていた。


 解決にならない作家業を諦め、私はまた振り返る。


 忙しくては意味がなかった。時間を長く感じる必要があるはずが時間を忘れて集中してしまっては元も子もない。時間を意識する点は間違っていなかったのに、恋人との遠距離恋愛をから得た教訓は『一日』を意識する事だった。


 単位を間違えていた。幼い頃にアニメを楽しみを待っている時のように、恋人と会うのを心待ちにしていたように、楽しみを待っている訳でなければ、一日という単位はあまりに大きすぎた。


 子供の頃のアニメのように、心の底から純粋に待ち遠しく感じられるものがない今の私にとって、かなりの死活問題であった。


 ここである事を思いつく、それなら心待ちにしたいレベルを下げればいいと。


 私は作家を辞めた後、単純作業だけをやり続ける工場に勤務した。


 何時間も同じ作業を繰り返すだけの時間は私に取って苦痛であり終業までが待ち遠しく感じさせた。そうする音によって時間の感覚を遅くさせる事ができた。


 苦痛こそ時間経過を遅くする最高の香辛料なんだと分かった。アニメを待っている時間も恋人と会えない時間も苦痛で仕方なかった。


 待ち遠しいモノのレベルを下げる事で子供の頃と同じ体験をする事を実現させたのだった。


 これで満足いくかと思いきや、再び問題に直面する。


 工場で働いてから私は数分の単位で意識するようになったのに、一日という大きな単位を今度は無視している事に気が付いた。


 一日が終わるまでは長いのに、月が経つのが早くなったのだ。理由は分かりやすかった。働いている間も働き終わった後も私は無気力なのだ。単純な作業を続けると、一日が単純化されていった。それを繰り返した日々を振り返るとそこには何か特別な記憶がない。


 結局、時間が経つのが早いか遅いかを決めるのは過去を振り返る自分なのだから、何もない日々を思い出した所で、空っぽに過ごした人生を振り返るだけで空白の部分を埋める事が出来ず、結果的に時間の流れを早く感じてしまった。


 これでは意味が無かった。子供の頃を振り返っても空虚さなんて微塵もない。一日、一日が新しい事で埋め尽くされていたのだから。


 ならばと私は新しい事を常に経験するために小説の印税で世界を旅する事にした。しかし、楽し過ぎて逆に1年が経つのが早く感じた。


 子供の成長を感じたいと復縁して子供を産んだ。しかし、子供はどんどん成長していく子供を見て余計に時間の流れを感じさせた。


 子供が大きくなり手が空くようになれば、暇で感じる時間が長くなると思ったが、変化のない日常が再び私の事を苦しめ始めた。


 また、空虚な時間を埋めようと今度は夫と二人で旅行に出ると、やっぱり幸せ過ぎて時間が経つのが早くなった。


 夫が寿命で亡くなると私は孤独になった。


 子供達が帰ってくる連休や盆や正月が待ち遠しくなった。しかし、また何もない空虚な日々が続くようになった。でも、もう外へ出かける元気は私にはなかった。


 私は一日を長く感じるようになった。きっと人生で一番、長く、感じるようになった。


 でも、私はもうそんな必要がないくらい人生を堪能してしまった。思い返せば、思い返してみれば結局とてつもなく長い人生だった気がする。


 あれだけ時間が経つ事を恐れてのに、いざ歳を取ってみたらこんなものだ。なんだかんだ短いようで長い人生だったと思えてしまう。


 もう時間を遅くする方法を考える必要はない。それよりも今の私は早く時間を感じたかった。だがその方法は分かっていた。遅くするよりも単純で明快、誰もがやっている事だった。早送りボタン所じゃないスキップボタンを私は持っていた。


「それじゃあ、おやすみ」


 私は目を瞑った。そしてスキップボタンを押した。

今回は「香辛料」「早送り」「斜面」の三つの単語からお話を書きました!

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