四季のイメージカラー
365日後に小説家を名乗る短編集一日目!
「春のイメージカラーって何だろう?」
「え、ピンクですかね?」
「ふむ……」
さっきまでスマホを弄って黙っていた先輩が急な質問にパッと思いつく事を答えた。
「じゃあ夏は?」
「青ですね」
「秋は?」
「んーオレンジですかね?」
「冬は?」
「白ですね」
春夏秋冬全てのイメージカラーを答えさせられた訳だが、先輩の質問の意図はまだ分からない。
「うん、どの色もイメージ通りの色だな」
そんなつもりはないだろうが平凡でつまらないと言われているようで少しへこむ。
「何でそんな事を聞いたんですか?」
「いや、新入生ようのポスターを作ろうと思ったんだが、春らしい色の方がいいかなと思って何色かなって」
つい数日前に入学式が終わり、ついに自分にも中学を卒業してから一年ぶりの後輩が出来た。その後輩達を部活に勧誘するためのポスターを作ろうとしているようであった。
春のイメージカラーなんて、わざわざ自分に聞かずとも、弄っていたスマホで春の特集とでも調べればもっと正確な答えが見られただろうが、まぁそれは置いて
「なんで他の季節も聞いたんですか?」
「ん? 何となく」
「そうですか」
何となく。まぁ、そうだろう。こんな質問に深い意味はないだろう。ただの世間話といった所。
「なんで春はピンクなんだろうか」
そんな事をボソリと先輩は呟く。
呟いただけで質問している訳ではないのかもしれないが、春はピンクだと答えた身として答える必要があるような気がした。特にやる事もないので先輩との世間話に興じようがと思っただけだが
「んーやっぱり桜のイメージが強いからじゃないですか? 春といえばじゃないですか」
「桜か、確かに春といえば桜だ」
納得するように頷く先輩。私達の学校も通学路の坂にも綺麗な桜が並んでいる。去年入学した時は丁度満開の時期であり、アニメの世界にありそうな非現実的な学校に入学した気でいた。
だが、入学というイベントと桜が散り始めるにつれ、新生活で高まった気持ちも収まり徐々に現実が顔を表す。
大雨が降って桜の花を全て散らせた日に坂道を上った日は、花びらと一緒に非現実感も流れて行ってしまった。
今年の新入生達も同じ思いをしているのだろうかなんて考え方は早くも先輩風を吹かしてしまっていると思う。
「しかし、お前にピンクと言われたら、もうピンク以外に春の色が思いつかなくなってしまったな」
「知らないですけど」
イメージカラーなのだからそう何色も思いつくのもどうかと思う。
「しかし、青春と言う言葉があるのになぜか春には青のイメージがない」
「青春の青って青りんごとか一緒の意味じゃないですか? だからどっちかと言うと緑色……なんですかね」
「なるほど、青よりは緑の方が春っぽさはあるか」
先輩は納得しているが、それでも青よりはってだけで個人的には緑でも違和感は拭えない。
「でも緑は夏の方が当てはまりそう。雑草も生えてくるし」
イメージカラーの話で緑色の例えが雑草だと夏が不憫だ。家の庭の雑草も夏はウザい程伸び放題なので気持ちは分からなくもない。
「お前は青だったな」
「海とか青空とか夏のイメージ強いじゃないですか」
新入生向けのポスターを作る為に春のイメージカラーの話をしていたはずなのだが、先輩は春から季節を跨いで夏の話を始める。
「青、水の色か。いや空の色と言うべきなのか? 透明な水に空の色が反射しているわけだし」
細かい事を言う人だった。そんな話をしたら、自分が良くいく海と言えば、父方の実家近所にある海なのだが、曇りの日が多いせいで灰色のイメージが強い。
そういえば、中学時代に修学旅行で行った沖縄でスキューバーをした時も曇りで灰色だった。
自分の中にある海の思いでのほとんどが灰色なのにそれで海=青なのはテレビや写真に写る色が青だからなのだろうか。
昔からクレヨンで書く透明な水は全て青色だった。海がとかではなく、そもそも水=青という事なのかもしれない。
「でも、空も青で海も青だったら海の景色を描こうとしたら画用紙一面が青になってしまわないだろうか」
「美術の先生に提出して来たらどうです? 海の景色ですって真っ青な絵を」
青と言っても一色じゃないだろうに、水色だって群青だって青だ。それに海といっても空には雲もあるだろうし、砂浜だってあるだろ。
もし一色で海を表現するなら黒だ。夜の海、曇りの夜の海。一度だけ散歩で行った夜の海は黒一色だった。いや、どうだっただろうか、吸い込まれそうな闇に眼を瞑っていた気もする。実際はもっと別の色も写っていたかもしれない。
これこそイメージカラーなのかもしれない。他に色があってもその色しか頭に残っていないのだから。
だからどうしたという事なのだが、夜の○○と言えば大抵黒くなるか、アダルトなピンク色が出てくる。
「どうだ海に見えるか?」
先輩は青一色で塗りつぶした絵を見せてくる。ポスター作りをするためにある程度の道具は既に揃えてあるようだった。
「まぁ海だと言われれば海ですが」
紙と色鉛筆の無駄遣いだと思う。
先輩の絵とも言えない代物は海と言われれば海だし、空と言われれば空にも見える。けしてその二つが描かれているようには見えない。
しかし、一色で海も空もイメージが出来るのなら、夜の海理論で行くとどちらもやっぱり青がイメージカラーなのだろう。
その二つのイメージが強い夏のイメージカラーが青と答えてしまうのは通りなのだろうと感じる。
「秋はなんて言ってたっけ?」
何だっただろうか、何となく頭に浮かんだ答えをパッと言っただけだったのでど忘れしてしまった。
「えーと、オレンジです」
そうオレンジだ。思い出した。
「どうしてオレンジなの?」
どうしてだろうか。
「夕焼けの色だからですかね」
秋は夕日が綺麗なイメージがある。だからオレンジ。
「でも夕焼けのオレンジは秋に関係なく見られるよね」
「海の青だってそうでしょ」
つい反論してしまう。でも確かに、春に咲く桜や熱い夏に行きやすい海とは違い、夕方というのは季節に関係なく訪れる。
それなのに、何故夕日を秋の専売特許のように考えていたのだろうか。
「秋は紅葉シーズンだからオレンジっぽい印書も強いよね、暖色って言うのかな」
確かに紅葉のイメージも強い。それも含めてオレンジと答えたのだと言われてみれば思う。でも、今の疑問は夕暮れのオレンジ色が秋のイメージだと思ったのかの理由だった。
キーンコーンカーンコーン
と、学校のチャイムが校内に鳴り響く。
「もうこんな時間か」
そういいながら先輩は外を見る。時間は16時を過ぎている。完全にオレンジ色に染める程の太陽は落ちていない。
あーそうか。
分かった気がする。秋に夕暮れのイメージが強い理由が。
きっと活動時間の差だと思った。こうしてそろそろ帰る時間だと外を見る時間、または帰っている最中、外に居たり、外に注目している時間が丁度被りやすいのが秋なんじゃないかと思った。
あれ、でも、それだと春も秋と夕暮れの時間はそれ程変わらないはずでは?
一年で昼夜の長短は往復しているのだから、丁度真ん中になる春と秋での長さは一緒になる。それなのに、頭の中では春にオレンジのイメージはない。
春にはなくて秋にはある、オータム限定の何かを探し当てなければならない。
「先輩、秋の夕方にはあって、春の夕方にはないものなーんだ」
なぞなぞみたいになってしまった。
「え、なんだろう。哀愁とか」
感覚的なものだが、共感はできる。そもそもイメージカラー自体が感覚的なものなのだから、感覚的な答えの方がこの場合は良いのかもしれない。
「正解なの?」
「いや正解とかないんで」
せっかく答えてくれた先輩には申し訳ないが、興味は秋のオレンジ色に向いている。
哀愁。
確かに春の夕暮れに哀愁というイメージはない。これは季節の移り変わりを意識しているからだろうか。
春は一年の始まり、秋は終わりに近づくイメージ。気温の上がり方も真逆だ。秋は熱い夏からどんどん寒くなっていく季節だ。
暖色とも先輩は言っていた。冬が近づく秋の寒さにオレンジの暖色というのが心に染みるのかもしれない。
根拠はないが自分の中では納得のいく解釈が出来る。
そういえば、秋のオレンジ色のイメージ例に紅葉を上げていた。
春の桜の例もある。植物も季節のイメージカラーになりやすい。そう思えば、夏だって海と空の合わせ技だったと思い返す。
それなら紅葉と夕焼け空の合わせ技でイメージがオレンジになるのも納得だ。
バラけたパズルピースがカッチリとハマった感じ。
かなりしょうもないパズルだろうが、気持ちのいい事には変わりなかった。
「やっぱり秋はオレンジですね」
「え、うん? そうだね」
一人頷いているのを見て先輩は不思議そうにしている。
「それじゃあ帰りますね」
「あーうん、もうちょっと居るからカギは返しておくよ」
「すみません、お願いします」
ペコリと軽くお辞儀をして教室を後にする。
そういえば冬について先輩の話をしなかったなと玄関で靴を変えている時に気が付く。
確か白と答えていたが、雪の印象が強いからだろうと投げやりに考える。
別に深く考える程の事でもない。部室を出たらどうでもよくなってしまった。
少し小腹が減ったのでコンビニで何か買おうかと校門を出る。
すぐにピンクのベールのようになっている桜が出迎えてくれた。
これを見せられてしまえば春のイメージカラーはどうしたってピンクになってしまうと思い坂を下った.
ランダムに選ばれた「オレンジ」「秋」「先輩」の三単語から短編を書きました!
これから365日、毎日短編を投稿しますので良ければ見て行ってください!