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次郎と源三

「もう少しだからな、もう少しで着く。おお、おお、こんなに体を寒うして」


 源三は次郎をおぶさりながら雪道を進んでいく。風はますます強くなってきて、源三の体を容赦なく痛めつけた。源三は背中の次郎を必死にかばいながら、一歩一歩、雪に埋まる足を抜いて前へ歩いていった。


「わしがいけんかった。許してくれ」


 誰に聞かれるでもなしに源三がつぶやき続ける。人っ子一人いない雪道の中を進んでいかねばならない源三はともすると自分がどこを歩いているのか分からなくなった。そんな自分を無理やりにでも前へ進ませるように、源三は念仏のように懺悔の言葉をつぶやき続けた。日はもうとっぷりと沈み、あたりは底冷えのするような寒さが風に紛れて全体を覆っている。源三の足は氷のように冷えていて感覚がない。頭の傘には雪がびっしりと積もり、視界がわずかな中で進んでいかなければならなかった。


 背中から聞こえてくる次郎のかすかな息遣いは風に消されて源三の耳まで届かない。源三は懺悔の念仏を呟き続けながら、次郎の僅かな重みを頼りに歩を進めるしかできなかった。源三の足跡は深々と雪の上に残りはしたが、それも吹き付ける夜の風の前では薄れていく一方である。


「もう少しだ、もう少し」


 こんな時、源三は次郎を励ましている以上に自分を励ましていることに気付いていなかった。それでも源三は自分などまったくなくなったように、ひたすらに前へ前へ、つんのめるようにしながら歩いていった。


 遠く彼方にはきらめく小さな明かりがある。降りしきる雪の中で何度も見失いそうになりながら源三は一歩また一歩とその明かりに近づいていった。


「ほら次郎、見えたぞ。あそこへ着けばもう安心だ。」


 急に元気づいたように源三の声は大きくなった。


「もうすぐ着く、もうすぐ着く……」




 風はやがて二人の影をかき消し、雪の中へと見えなくしていった。

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