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王宮に着いて真っ直ぐ東宮厩舎に向かった。狩りに連れていく馬を選び、装備を整えさせなければならない。まあ、王宮の馬番に、私などが指示できることなどさして無い。何か困った事があれば相談にのることもあるが、実際確認程度のことだ。
そこにはすでに部下のギタンが来ていた。このギタンは、ヨウ氏の末息子、つまり私の婚約者だったアユーシの一番下の弟で、姉と同じ豊かな黒髪を、剥き出しのまま無造作に首の後ろで束ねていた。馬丁と何か話し合っていたようだが、私の姿を見とめると急いで駆け寄ってくる。まだ十六と少いが、なかなか体も確りしているし、本人ももう一人前のつもりでいる。乗馬の姿勢が美しく、顔立ちもいいので、明日は殿下の近侍として侍らせるつもりで本人にも伝えてあった。
「ギタン、なんて格好だ。今から髪を結いなおすつもりでいるのか? そんな、子供のような身装の男を、道中殿下の近侍には申し付けられんぞ」
「はい、あの、これは直ぐに。でもそれより先に、馬を点検しておきたかったので……」
ギタンは気が逸っているらしく、しどろもどろに弁解する。
「まあ、いい。どうした」
「あの、いま馬丁頭に聞きましたら、殿下が明日の狩りには例の鹿毛を特にご所望になったということで……」
「あの、気の荒い馬をか」
「は」
ギタンは困惑しきっているようだった。
問題の鹿毛は去年王太子の厩舎に献上された牡馬で、体が並外れて大きく、脚が強く、速かったが、酷く気が荒かった。美しいし確かに速いので、殿下は一目惚れなさったが、私は気に入らなかった。気まぐれで、好き嫌いが激しく人を見るようなところがあり、命令を聞いたり聞かなかったりするのだ。私も個人的にはそういう馬を乗りこなすのに楽しみを覚えるたちだし、武人にはそういった癖のある馬の方が愛されることもある。心さえ通えば、お互い信頼しあう最高の伴侶となれるからだ。しかし貴人の乗り物としては相応しくないと感じた。要するに当歳の調教に失敗しているのだ。
だから今回の狩りにも、もう少し気の穏やかな牝馬を使うよう、私から馬丁頭に伝えておいたのだが、殿下はそれをおしてあの馬を使いたいと主張したらしい。
私は少し考えて、
「まあ、仕方が無い」
と答えた。
「殿下がそうなさりたいというのならば、こちらで無理を通すわけにもいかない。馬丁頭に王太子の命を違えさせるわけにもいくまいよ。大層お気に入りのようだし、確かにあの馬は見栄えがいい。殿下には良く懐いているようだし、余程のことが無い限り心配無いだろう。明日はおまえがよく気をつけて、ついていて差し上げなさい。あの脚は素晴らしいから離されないように」
「分かりました」
ギタンが神妙に答える。
一緒に厩舎まで戻り、馬の頭飾りについて馬丁頭を交えて云々しているところに、東宮つきの女官が遣いに来た。王太子殿下のお召しだというので、後を任せて急ぎ東宮に参上する。