隣に引っ越してきたモンスター娘共がウザすぎる!!
俺の名前は三上純弥。三十歳。不動産会社に勤める平凡な社会人だ。
俺の住んでいるマンションの部屋の両脇には住人がいない。この天国の様な状況は、俺の不動産ネットワークをふんだんに利用した結果の賜物だ。俺が住んでいる部屋は二〇二号室なのだが、片方の二〇一号室は誰かが倉庫として借りており、もう片方の二〇三号室は事故物件で誰も借りようとしない。正に完璧な配置なのだ!
しかし、そんな天国も直ぐに終わる事になる。それは、ある休みの日の出来事だった。俺が家で昼寝をしているとチャイムが鳴った。
「おかしいな。宅配なんて何も頼んでないのにな」
俺はどうせ怪しいセールスか宗教の勧誘だと思って無視していると、可愛らしい元気な声が聞こえてきた。
「すみませーん! 隣の二〇一号室に引っ越して来た犬井です!」
俺はそれを聞いて飛び起きた。そして俺は寝ぐせもそのまま玄関の扉を開けると、そこには茶髪の犬耳と尻尾を持った可愛らしい雰囲気の女性が立っていた。
「こんにちは! 隣の二〇一号室に引っ越してきた『犬井もこ』です。お近づきの印に、こちらをどうぞ」
そう言って犬井さんは俺に紙袋を手渡してきた。その中には肉じゃがが入っていた。俺は色々聞きたい事があったが一先ず犬井さんに対してお礼を言った。
「ありがとうございます。え~っと、犬井さん」
「どういたしまして。いきなりですが、三上さんの下の名前って何ですか?」
「あ~。純也です」
「純也。つまり純さんですね!!」
俺はいきなりあだ名呼びされて戸惑いを隠せなかったが、ここは俺の懐の深さを見せる時! そんな事よりも俺は犬井さんの耳と尻尾について言及する事にした。
「あの~。失礼かもしれませんが、その耳と尻尾は?」
犬井さんは照れながら話し始めた。
「変、ですかね?」
俺は慌てて言葉を返す。
「いえいえ! 凄く可愛いと思います!!」
俺がこう言うと、犬井さんは凄く嬉しそうに左右に揺れだした。
「えへへ。そうですか~。わたし、狼男の末裔なんですが、わたしだけ家族の中でも特に変身症状が酷くて……。我慢しても丸い物を見たらこんな感じでちょっと変身しちゃうんですよ。だから自分の眼鏡を見たら毎回変身しちゃって。テヘッ」
「それなら、丸眼鏡を止めて、別の形の眼鏡にするかコンタクトにしては……」
「え~。でも丸眼鏡って可愛いですし、コンタクトってなんか付けるとき怖いじゃないですか~。わたし的には別に気にしてないですし、変身しちゃうのも新しい職場では認められましたし、何より可愛いのでいいんです! というか初対面でそんなメタい感じのアドバイスするのは男性として、いや、人としてどうなんですか~」
俺と犬井さんが会うのはこれが初めてだが、既に分かった。こいつ、ウザい!!
「そりゃすみませんでしたな」
「良いんですよ~。可愛いって言ってくれた人は好きですので! では、また明日にでも容器を取りに来ますね」
そう言って犬井さんはその場から立ち去ろうとしたので、俺は犬井さんを呼び止めた。
「いえ。それなら俺が返しに行きますよ!」
すると、犬井さんは俺の右の耳元にいきなり寄って来て囁いた。
「会っていきなり女の子の部屋に行くのは、マナーが悪い子犬さんだけですよ」
犬井さんはそう囁くとウインクをして自分の部屋に帰って行った。
俺は自分の部屋に戻り、頭を抱えていた。勿論、俺の完璧な天国が崩壊したのも理由の一つだが、犬井さんのあのウザさと可愛さが俺の脳内を完全に混乱させていた。俺は一先ず自分を落ち着ける為にコーヒーを入れようとした。すると、また玄関のチャイムが鳴った。俺はまた犬井さんかと思い、気軽に扉を開けた。しかし、そこに居たのは犬井さんではなく、色白の肌に、銀髪の髪、そして赤い瞳と鋭い牙を持っただらしない雰囲気の女性だった。
「やっほ~。あたしは隣に引っ越してきた吸血鬼の末裔の『冬月あやか』。よろしくね~。お近づきの印に、これをあげるよ」
そう言ってその女性も俺に紙袋を手渡してきた。その中に入っていたのは、なんと大きな黒のブラジャーだった。俺は、この現象に脳が耐え切れずに俺の中の全ての回路が三秒程停止した。
「シッシッシッ。や~い。ブラ眺めてやがる~。変態野郎だ~」
俺は急いでそのブラを袋に戻し、袋ごと冬月さんにつき返した。
「何するんですか!!」
俺がどんなに声を荒げても、冬月さんの表情はニヤニヤと笑ったまま変わらない。
「シッシッシッ。まぁ、面白ければ良いじゃん」
「俺は面白くないんですよ!」
「そうか~。玄関出る前にパッと思いつたネタだし、まぁ仕方ないか」
俺はその発言からとある事に気づいてしまった。
「冬月さん。もしかしてさっきのブラって……」
「あ~。あたしがさっきまで着けてたやつだから、あたし今ノーブラなんだよね。因みにパンツも紙袋に入れたからノーパンでもある」
「いちいち報告せんでいい!!」
俺はもう帰りたくなった。いやまぁ、自分の部屋の前はいるんだけどね。
「シッシッシッ。三上さんって面白いね。下の名前何て言うの?」
俺は疲れ果てながら冬月さんの質問に答える。
「純也です……」
「そうか。じゃ~寿限無寿限無五劫の擦り切れ海砂利水魚の水行末雲来末風来末食う寝るところに住むところやぶら小路の藪柑子パイポパイポパイポのシューリンガンシューリンガンのグーリンダイグーリンダイのポンポコピーのポンポコナの長久命の長助だ」
「違います。本当に何がしたいんですか……」
「シッシッシッ。つまり、純也という事だ」
俺と冬月さんが会うのはこれが初めてだが、既に分かった。こいつ、ウザい!! 犬井さんとは違う種類でウザい!!
「まぁ、何でも良いんですけど、吸血鬼の末裔なら日の光とか駄目じゃないんですか? 大丈夫なんですか? こんな昼間に外に出て」
「それなら大丈夫。あたしって、家族の中でも一番吸血鬼の血が薄いから、日の光に当たっても日焼けしやすいくらい。まぁ日焼けはしたくないけど……。因みにニンニクも苦手だけど食べられないことは無い」
「あ~。そうなんですね! 十字架とかはどうなんですか?」
「宗教にとやかく言うつもりはないけど、冷静に考えてみろ。いきなり赤の他人が信じる宗教のシンボルを突き付けられるんだぞ。誰が好意的に思うんだ?」
「なんでそこは常識的なんですか……。まぁ、確かにそうですけど。じゃ~、他に何か吸血鬼らしい事って、何かありますか?」
「そうだな~。普通に血とかは飲むぞ」
すると、冬月さんは急に俺の左の耳元にいきなり寄って来て囁いた。
「お前の血も美味そうだな。ジュルリ……」
冬月さんはそう囁きながら、俺の耳の側で自分の唇を舐めた。冬月さんは去り際に俺の方に向かって舌を出しながら、口元を右の人差し指で抑えていた。
俺は自分の部屋に戻り、準備しておいたコーヒーを飲んで落ち着いた。
「一体全体なんなんだ。あいつらは……。とにかく、今日は早めに寝よう」
俺はその後、さっさと風呂に入り、犬井さんからもらった肉じゃがをいただいた。これがまた今まで食べた肉じゃがの中で一番美味かった。俺はその後に歯磨きをしてから速攻でベッドに入った。
しかし、そう簡単には問屋は卸さなかった。ベッドに入ってからもあの二人の囁き声が、俺の頭から離れなかった。俺は眠れず苦しんでいると、俺の部屋のチャイムが鳴った。その時の時間は夜の九時だった。確かにまだ寝るには流石に早い。俺はチャイムを鳴らした奴に対して、起こされた怒りよりも、寧ろ起きる理由を作ってくれた事に感謝していた。
しかし、いざ出てみると……。
「お~! 純也出るのが遅いぞ! 暇だし純也の家でゲームしよ」
そこに居たのは冬月さんだった。なんで出会って数時間の奴を部屋に上げて一緒にゲームをしなきゃならないんだ!? なんでこいつは出会って数時間、しかも自分の下着を見られた奴の部屋でゲームをしようとしてるんだ!?
「冬月さん。ゲームなら自分の部屋でやればいいでしょ」
「え~。だって家まだ引っ越したてだから散らかってるしさ~。それにほら、知らねえ男を部屋に上げるのって尻軽女みたいじゃん?」
「知らない男の部屋に上がり込んで、しかも二人っきりの状態でゲームするのも問題だと思うのですが!」
「う~ん。それもそうだな。ちょっと待ってろ」
そう言うと冬月さんは犬井さんの部屋に向かって行った。まさか……。その予想は的中する事になる。
「という事で連れてきました。犬井もこさんです!」
「すみません……。わたしも今日は早く寝ようとしたんですが、なんだか寝付けなくて……」
俺はこの状況に呆れてしまった。とにかく、冷静に考えて一人だろうが二人だろうが女性が見知らぬ男の部屋に入るのは良くない。俺は二人に帰ってもらうように言おうとした。
「すみませんが、やっぱり可愛らしい女性が会って数時間の男の部屋に入るのは、っていねーーーー!!」
俺が気づいたときには既に二人の姿は無く、俺の部屋のリビングから最新ゲーム機ピョンテンドウウサッギの起動音が鳴った。俺は急いでリビングに行くと、そこには既にセッティングが終わり、コントローラーを持った冬月さんと、キッチンで溜まっていた洗い物を片付けている犬井さんが居た。
「二人共勝手に上がって何してんすか!?」
「シッシッシッ。いいじゃ~ん。そんな事より早くゲームしようぜー。純也のくせに最新のピョンテンドウウサッギなんて持ちやがって! 生意気だからあたしがウサギカートでボコボコにしてやる」
「純さんったら、こんなに洗い物貯めたら駄目じゃないですか! 大体もっと普段からしっかりしてください!」
「そんな事より純也~!! ゲ~ム~!!」
「犬井さんはお姉ちゃんか!! 後、冬月さんは妹か!!」
俺が総ツッコミをすると二人はこちらを向いたまま黙った。すると二人は俺に近づき、こっ恥ずかしそうに囁き始めた。
「別に、わたしの事、もこお姉ちゃんって呼んでもいいんですよ~」
「別に、あたしの事、あやかって妹扱いしてもいいんだぞ~」
俺は、顔を真っ赤にして、こう言うしかなかった。
「このモンスター共、ウザすぎるーーーーーーッッ!!」