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レン  作者: N
7/11

文月 後編

せんたっきの音…

時計がゆっくりゆっくり進んでいく。

雨がざあざあ降っている。


「蓮さん。来てくれたんだ。」

ピンポンが鳴って、モニター越しに私が言った。

「さっき行くって言ったじゃん。」レンが笑顔でそう言った。

「蓮さん、お仕事は?」

「今日休み。土曜日なのにすごいでしょ。」


「わあー」レンがうさぎを見てか、部屋を見てか、小さく声を上げた。

「2羽もいる。かわいいな」「動物がいるのに毛もホコリもなくてきれいな部屋だね。」「さすが映画好きはテレビ大きいね」「ランタンめっちゃかわいいね」レンがはしゃぎながら一気に言う。


レンは甘いものとお酒を買ってきてくれていた。

スイーツが死ぬほどある。

色とりどりの、ばえそうなマカロン。

レンみたいだ。手に収まるふわふわとした、甘いパステルカラーのお菓子はレンの雰囲気そのものだ。

「お酒…あの時バーで飲んだ以来だ。」

「たまには良いと思って。」レンがワインやビールを雨でびしょびしょの袋から取り出す。


私の部屋にはソファーが無い。ふたりして体育座りで映画を見てたまにおしゃべりをする。

雨が叩きつけるように降っている。

レンはこの激しい台風の中、帰ってしまうのだろうか。

帰ってほしくない。

自分が思っていたより激しくレンを想う自分に気付く。


「どうした?…悲しそうな顔して。」レンが驚いたように言う。

「蓮さん。」私はそう言って、ふうと息を吐いた。

帰したくないなんて言ったら、気持ち悪いと思われるに違いない。

レンの手が私の髪をなでた。


「……帰ってほしくない?」レンが訊いた。

私は小さく頷いた。

それを見て、レンが私をぎゅっと抱きしめた。

「ありがとう。」


「……僕は希さんが好きだ」レンが言った。

「私も…、初めて会った時から私は蓮さんが好きです。」


レンの髪は、メープルシロップみたいな香りがする。

柔らかく私を抱きしめる。

安心して眠ってしまいそうだ。赤ん坊みたい。

雨が大嫌いだったが、私は雨を好きになった。

レンに好いてもらえて、初めて自分が自分で良かったと思えた瞬間だった。

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