文月 中編
蒸し暑い日だった。
最悪な気持ちで目を覚ました。
よく寝た気がする。疲れていたのかも。
時刻は12時を過ぎていた。
レンから連絡が来ていない。…あれ、いや昨日私の方が返せなかったんだ。
土曜日。
昼過ぎまで何の不安もなく惰眠を貪り、
ジブリを観ながらのんびり過ごす。
そんな週末など私にはもう来ないのかもしれない。
英会話のYouTube動画をかけながら、
溜まっていた洗濯物や、掃除をし、うさぎのゲージの掃除をする。
一人暮らしは、立ち止まったり、悩んだり、泣いたりする暇がないのだ。
不器用な私は生きづらさを抱えながらも、こうやって日々を粛々と生きていくしかないのだ。
夕方になると、雨が降ってきた。
台風が来ているらしい。
水災の事案だ。きっと月曜日は車の被害で忙しいだろう。
スマホのLEDライトが緑に点滅していた。
電話が来ていた。レンだった。
おそるおそる折り返す。
「はい」レンが低い声で出た。
「もしもし。…電話に出られなくてごめんなさい。あの…」
「元気?」レンがいつもの明るい声で言った。
「うん」私は答えた。たった今、元気になった。
「昨日、お返事なかったから話したくなって。」かけちゃった、と彼は無邪気に笑った。
彼の優しい話し方にどっと涙がこぼれた。
「…。」彼は私の様子がおかしいことに勘付いたのかしばし黙り込んだ。
必死に涙声にならないように、低い声で話そうと努めた。
しかし、彼にはバレている。
「……雨も降ってきたし、希さんのお家お邪魔してもいいですか。プライムでジョーブラックをよろしく観れるよ。一緒に観ましょう。あと、ぼくは勉強ができない読みたいって言ってたでしょ。今持っているよ」レンが一気に話した。
「うん」
切ったあと、我慢をしていた涙が止まらなかった。
はじめてレンが家に来るという歓喜なのか、
それとも、社会に迎合しようと必死な自分の限界の涙なのか、
もう、いろいろと分からなかった。