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早稲月 後半
あの台風の日に、突然レンは私の人生の登場人物になった。
レンからは毎日朝の決まった時間に連絡が来て、
18時前にまた連絡が来た。
一緒にスイーツを食べに行ったり、
韓国風の焼肉屋へ行ったりもした。
仕事で失敗をし、電車でさめざめと泣いて帰って来た日も
上司に怒られ、ボロボロに疲れ切った日も
どんなに私の顔がやつれ、疲れていても
何も訊かずにただただ一緒にいる。
レンは歳は28歳だと言う。
耳に何か入っていると思ったものは、補聴器なのだそうだ。
「僕が小学生の時に、交通事故に遭ったんです。その時に、両親と左の聴力を少しと、脾臓を失いました。」
彼は淡々と言った。
「ひぞう?」
「うん、脾臓。」
それからは祖父母に引き取られ、
大人になってから、一人暮らしを始めたようだ。
週に何度かほんの数時間、一緒にいて
レンは私の手すら握らずに
一定の距離を保ち、帰って行くのだった。
私はそんな胸の温かくなるような時間に神聖なものすら感じていた。
幸せだった。