Ⅲ.愛する人へ
今宵、配達の仕事がある配達使達がぞくぞくと扉の前に集まってきた。
手紙の受け取り主が夢の中にはいったのを感じとると手紙の印が光るようになっている。
「恋人って本当に大切な存在なんですね」
風太はひかりと分かれてからもずっと恋人という存在について考えていた。
これだけたくさんの人がいる中でそれだけ想い会える人がいるなんてすごいことだな、と。
「特にこの二人は本当に深いところで愛し合っていたんだろうな」
「はい…僕も出会いたかったなぁ」
その物思いにふける風太を見て黒羽が声を上げて笑い始めた。
「お前なぁ!10年早いんだよ!」
風太は全く悪くないのにゲンコツを喰らった。
「10年って!僕見た目年齢ひかりさんとそんなに変わりませんよ!」
そんなに---とはいっても風太の見た目年齢は22、3歳だ。
「お前はここがまだお子様なんだよ」
そう言いながら風太は胸の辺りをつつかれる。
しぃに助けを求めようとしたがにこにこ見守っているだけだ。
「しぃ君も僕にはまだ早いと思うの?」
「いえ!」
しぃは二人にかけより笑顔でこう言った。
「俺にとって二人はきっと恋人以上に大切な存在になりそうだなぁ、って」
その無邪気であり、しかしとても温かい言葉に黒羽と風太を顔を見合わせて微笑んだ。
『地上への扉が開きます』
アナウンスと同時に扉がひらく。
早速封筒の印が光っているものは次々と扉をくぐりぬけて行く。
「よし……」
そろそろこの印も光るはず---
封筒をじっと見つめる風太のその表情は、もう立派な配達使となっていた。
「あ!光った!」
しぃの声とともに風太は扉へと進んでいく。
「風太!」
「はい?」
「迷子になるなよ」
優しい笑顔を浮かべて黒羽が背中をぽんと押した。
それは余計な一言のようにも捉えられたが、風太はさっきまでの緊張が少しほぐれた気がした。
「行ってきます」
まだ大勢の配達使が印の光を待つ中、風太は地上への扉をくぐった。
扉はその地区事に場所が決まっており、そこから受け取り主の元までは封筒の案内を感じ取って進んでいく。
「この角を曲がって…」
その手紙が案内した先には一件のマンションが建っていた。
「ここだな」
迷子にならなかった安心感もあったが、それよりポストを探さなければならない。
普通の家は玄関先にあるけど---マンションのシステムがわからない風太はぐるぐるとまわってポストを探した。
本当はひかりのその恋人を見てみたかったが、家に勝手に上がりこむことはできない。
風太達配達使の姿は、地上の人達にもはっきりと見えてしまうのだ。
「あ、あった!えっと…」
もう一度封筒に書かれている住所と部屋番号を確認する。
そこにはひかりのキレイな字で「301」と書かれていた。
「301、301……よし、これだな」
ポストにひかりからの手紙を投函した。
「どうかひかりさんの想いが伝わりますように…」
風太は念じるようにポストに向かって手を合わせた。
ポストに手紙が入った直後に、その手紙に書かれた送り主の想いは相手の夢の中で再生される。