案外一度は道ですれ違っている
ピコン
「ん?」
《メッセージが届きました。》
私はごく普通の大学生である。SNSはそこまで敏感にやる方ではなく、ほどほどにという感じである。
SNSをやっているとたまに、これは嘘でしょっていう知らない人からのメッセージがくる。例えば、「プリペイドカードの番号が〜」や「最近携帯を変えたから登録してね。」とか、そもそも日本語が怪しいやつなど沢山ある。今回もそんな感じかなと思って拒否しようとメッセージをみたら、それはいつもと違う文章が並んでいた。
『こんにちは。僕は高校生です。最近学校に行けていません。何かアドバイスを頂けないでしょうか。』
これは…なんか拒否しにくいタイプだな…
とはいえ、良心に訴えかける系のやつも最近はあるにはある。だから拒否しようと思ったけど、少し興味がわいた。個人情報を聞かれるまで会話してみようかな。怖いのが苦手だけど、怖い話を聞きたいみたいな好奇心が出てきた。返信してみよ。
『こんにちは。僕は大学生です。アドバイスといえるものでもないですけど、学校に行かなくてもいいので、勉強はしといた方がいいのではないでしょうか。』
うん。なかなかいい感じじゃない?ここで、私とか使って女だと思われて、舐められるのも癪だし、男だって相手も思えば出会い系だったら諦めるでしょ。そう思って、返信をした。
すると、すぐに返事が返ってきた。
『なるほど。学校以外でも勉強はできますし、やっといて損はないですしね。』
少し生意気な気がする返信内容だが、仮定として年下なので許してやるか。ていうか、今は結構な夜中だし、朝もまったり起きれる大学生と違って、高校生の朝は早いのにこんな時間まで起きてるの?やっぱり年齢サバ読んでるのか?まぁ、いいや。こっちも性別偽ってるというか、ミスリードしたし。
『そうですね、損はないと思います。頑張ってください。』
『はい。ありがとうございました。』
これで連絡は終わり、特に変なこともなかった。なんだか拍子抜けだ。
うーん。微妙な結果だけど、明日は1限があるから寝るか。なんで履修登録の時にあんなに気合いあったんだろう。まじ意味わからない。そんなふうに過去の自分を恨みながら布団に入った。
次にメッセージに気づいたのは大学で昼食をとっている時だった。
ピコン
ん?誰だ?場所取りならもう無理だぞ。学食の場所は満員だし、こっちはようやく1人分の場所を確保できたんだぞ。
『こんにちは。昨日はアドバイスありがとうございました。僕は今日はアドバイスを頂いたので、学校ではなく、図書館で勉強をしてみました。ですが、人の目が気になってすぐに帰ってしまいました。どうすれば人の目を気にせずにいられますか。』
おぉ、高校生(仮)ではないか。昨日のメッセージで終わったのかと思ってたよ。そうか、人の目が気になるのか…人の目を気にしないことは難しいもんなぁ。思春期の時とかすごく気になるし。私も気になるもんなぁ…でも、昔よりはよくなったな、現に今1人飯決めてるし。高校生のときとかボッチはやばいみたいな変な焦りはあったけど、大学生になると意外に1人の人は多いし、他人を気にすることないから全く焦りとかない。だけど、友達はできる。ゼミもそうだし学籍番号の前後とか、私は少ない方だけどね。
だから、アドバイスはできないなぁ〜。となると、今の私の現状をお伝えするかな。お一人様は君だけじゃないって教えてあげよう。
『こんにちは。アドバイスがお役に立ってよかったです。人の目って気になりますよね。僕も昔よりはマシになったと思いますが、気にはなります。
僕は今大学で1人で昼食を食べています。大学なので、周りにも同じ状況の人がたくさんいて肩身は狭くないです。しかも、みんな自分の携帯や友達とのおしゃべりに夢中で誰も僕のことは気にしてません。
こんなのアドバイスではないと思いますが、1人でいる人は多いですよ。今後も勉強を頑張ってください。』
的確な答えにはなってないけど、いいお兄さんのムーブはできてるんじゃない?
なかなかの出来に満足しながら私は送信ボタンを押し、睡魔の3限の授業に向かうのであった。
「はぁ〜。やっと終わった〜。」
睡魔と戦いながらなんとか3限を終え、バイトもないし後は帰るだけだ。
「お疲れ〜。」
「マジ眠かったね。」
この2人は私の大学で最初にできた友達である。ゼミはみんなバラバラであるが、自由に取れるコマは一緒に受けたりしている。
2人と一緒に教室をでて、電車を待っていたときにピコンと携帯が鳴った。
「ん?」
「どうした?」
「バイトから?」
「ううん。高校生(仮)からだよ。」
「「え?」」
2人には、ついに犯罪を…やら友達に逮捕される人がでるなんて…と色々言われたが、しっかりと説明して、結局なんだと言われてしまった。
「こんなの早くブロックした方がいいよ。」
「そうだよ。変なことに巻き込まれる前にさ。」
「えー。でも、すごく悩んでそうだし、ここまできて見捨てるのも心苦しいっていうか…
しかも、見てこれ、ちゃんとお礼までしてくれるんだよ!」
自信満々で2人に画面を見せたが、2人とも呆れ顔で深くため息をついた。
「そんなにダメ?」
「まぁね。お礼するだけなら誰でもできるし。」
「そうだよ。ありがとうを言うだけで良い人判定しちゃダメだよ。」
「でも、今回は大学のいいところはどこかだって。私については一回も聞かれてないし、ただの質問だから答えてもいいんじゃないかな。」
「んー。大学名まで言っちゃダメだからね。それと、変なメッセージきたら速攻でブロックすること。」
「分かった!」
「ちょっと…」
「まぁ、いいんじゃない。パスワードとか送るほどSNSに疎い訳じゃわないしさ。もし、何かあったら助けてあげよう。」
「…そうだね。私たちじゃどうにかならないかもだけど。」
「その時には他に頼ろう。」
2人がこそこそ話していることはつゆ知らず、私は大学のいいところを探していた。
大学のいいところねぇ…あっ、まずは自分が興味あるものを学べるところかな。抽選とかで落ちたら訳分からないのになっちゃうけど、高校の時よりかは楽しく勉強できるかな。それと、自由ってところかな。その分自己責任になるけど授業ちゃんと出てたらある程度なんとかなると思うし。後、私が1番気に入ってるところは、他人との関係が希薄なところかな。本当に周りを見ても知らない人だらけ。友達と会うのもしっかりと連絡取らないと会うことができないし、ゼミくらい小規模じゃないとそこにいる人全員なんて覚えられない。本当に高校や中学とは全然違う、気楽に生きていける。そういう部分が気に入ってるかな。
「どう?なんかいいの思いついた?」
「うん!結構いい感じだよ!」
「あぁ〜。なるほどねぇ。確かに周り見ても知らない人しかいないの分かる。」
「もしかしたら、同じ学科かもしれないけど、1つの学科に100人以上いるし、学籍番号近い人しか分かないよね。」
「だよね。」
主にこの3つの内容をまとめたメッセージを返信した。
「この子大学のこと聞くんだから、大学生になりたいのかな?」
「そうだといいな。高校と大学って全然違うからね。高校が苦しいから同じ学校だし大学も苦しいとか思ってほしくないよね。」
「うんうん。分かるわ〜。だけど、その楽しさを味わうためには受験頑張らないとね。」
「うわ〜。現実…」
「まぁまぁ。私たちは晴れて大学生になれたんだし。大学生活を楽しみましょう!ということで、ショッピングしにいこう!」
「ちょうど電車も来たね。」
みんなで買いたいものや行きたいカフェについて電車なのでこそこそと話し合いながら乗り込んだ。
次の日の朝は比較的ゆっくりと起きることができる日であった。嬉しい限りである。しかし、授業があるため、外出はしないといけない。
なんで私は全休の日がないのか…くそ!3年生になるまでお預けか。そうやって悔やんでいると、ピコンと着信音がなった。
おっ、高校生(仮)だ。今日はどうしたのかな。
『大学ってなんだか楽しそうですね。僕もなんだか行ってみたくなりました。』
よかった!大学に好印象もってもらえて。よしよし、早速返信しよう!
『そう思ってもらえてよかったです。ですが、大学は勉強しないと入れないし、高校を卒業したという証明が必要なので頑張ってください。応援しています。』
うーん。ちょっと厳しい感じがでちゃってるかな。でも、本当のことだもんな。高校生(仮)君には、ぜひ大学のよさ味わってもらいたいしな…うん。送っちゃおう!それと、これも加えよう。
『僕も高校生のとき、あまり学校に行きたくないときがありました。ですが、高校を卒業したという証明のために、高校へ行ってました。証明をもらうために学校へ行くという気持ちでいれば、案外上手くいくかもしれません。よかったら試してみてください。』
これでよし!送信!これで、少しでも学校に行くのが気楽になればいいな。そう思いながら、アプリを閉じた。
どうしよ!ヤバい!ダラダラ準備してたら、家出る時間、少し過ぎた!
駅までの道のりをいつもより早足で歩いていると、シャーッと隣を自転車が通り過ぎた。
あっ、自転車いいなぁ。1人暮らしだから、今持ってないんだよなー。しかも、高校生。うーん、若い!やっぱり制服は今の私は着れないし!分散登校かな?高校生も大変だ。ん?待って、時間。おいおい、これは走らないと!
私は、間に合え!という思い一心で駅へと駆けた。