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力じゃ奪えない

「今度、みんなも誘ってご飯に行きませんか?小野田先生が、嫌じゃなかったら」


「そうね。私は、きちんとみんなの背景を知るべきかもしれないわね。」


「前に進めそうなんだな?」


「紺野さんのお陰よ。私何かより辛い思いを抱えている。」


「先生、私何かじゃないよ。それをされた人の傷は、同じだと思う。どんな事があっても女性を傷つけちゃいけないって、私思うの。」


「紺野さん」


「だって、そうでしょ?力だって強いじゃない?現に、笹部に私は力じゃ敵わない。」


「そうだな、紺野」


「昔読んだ本に力は、男が上で、口は女が上って…。だから、お互いにそれを使ってはいけないって書いてあった。でもね、私、時々、笹部に言いすぎちゃうの。だけど、笹部は私を力でねじ伏せたりしないから」


「私も、菅野先生に言いすぎるからわかるわ。菅野先生は、力でねじ伏せたりしないけどね」


「でも、それは優しさで愛でしょ?だって、いつだって私なんかどうにでも出来るんだから」


「そうね。そうだと私も思うわ」


私は、小野田先生の手を握りしめた。


「先生、さっきも言ったけど…。その背景に何があったって、先生にみんなは酷い事をしたの。力で先生を傷つけた。」


「紺野さんも、そうだったのよね。自分を許せなかったのよね」


「女に産まれた事が、堪らなく嫌だった。(けが)らわしかった。それでも、誰かの人形でいたかった。」


「愛されたかったのよね」


私は、先生を見て泣いていた。


「何か、ずっとこんな話ばっかりになっちゃうよね。私は、あの中学で小野田先生に出会ってね。私の世界をずっと救って欲しかったの。だから、先生に会えたら言おうって思っちゃって。卒業式には、言えなかったから…。」


「紺野さん、ごめんね。気づいてあげられなくて。」


先生は、また私を抱き締めてくれた。


「あの時、先生にどうしたの?って聞かれてたら、もしかしたら私話してたかもしれない。先生、いつか先生をまたやる日がきたら、クラスや学年なんか関係なしに声をかけてあげて。きっと、私みたいに悩んでる子がいるはずだから」


「わかった。必ず、そうする」


「俺も、そうするよ。紺野」


私は、小野田先生から離れた。


連絡先を交換した。


「また、ご飯でも行きましょう」


「それじゃあね」


「さよなら」


私とクマさんは、小野田先生と菅野先生が見えなくなるまで手をふっていた。


「愛梨、帰ろうか」


「うん」


クマさんも私も愛を知らなかった。


クマさんは、ずっと暴力と無視される世界にいた。


「クマさん」


「何?」


「よしよし」


「何だよ、急に」


「したくなっただけ」


「愛梨、優しくしてくれてありがとう」


「ううん」


笹部の家に、最近行った。


その帰りに笹部は、私に言った。


あんな小さな存在に、俺怯えていたんだなって…。


私も同じだった。


祖母が他界し、叔父に再会した日に思った。


私は、こんな小さな男の言いなりになっていたのかって…。


離れて、見えた世界は、とっても広く大きくて


あの頃、見ていた景色とは違っていた。


「小野田先生に、先生っていう事を弱みにさせたのは俺達なんだよな」


笹部は、そう言って眉を寄せた。


「そうだね。先生は、生徒に逆らえないなんて構造が出来上がっちゃったんだろうね」


「逆もだよな。羽尾(はお)先生は、生徒を逆らえないようにしてたろ?」


「確かに、そうだよね」


「結局、弱いものがねじ伏せられて生きる世の中ってやつだよな。」


「それでも、逆らって生きたいね」


「愛梨なら、出来そうだな」


「クマさんと一緒じゃなきゃ無理だよ」


「そうか?」


「そうだよ。私は、クマさんがいるから、どの世界でも飛んでいけるんだよ」


「俺達の愛は奪えないな」


クマさんは、そう言って笑った。


あの日、叔父は私を力ずくで笹部から奪おうとした。


でも、それは出来なかった。


例え、力でねじ伏せ叔父の人形になっていたとしても、心は笹部の元にずっとあったのがわかる。 


「力で、何もかも奪えても。愛だけは、絶対に奪えないんだよ。」


「俺、あの日、愛梨を連れ去れなくても何度だって迎えに行ったよ。どれだけ、殴られたって蹴られたって、愛梨を失う痛みよりはマシだったから」


クマさんは、人目もはばからずに私を抱き締めた。


「愛してるなんて、言葉だけじゃ足りないぐらい、私は国厚(くにあつ)が好きだよ。どうしようもないぐらい好きだよ」


「知ってる。俺も同じだから」

 

私は、クマさんだけに蜂蜜(あい)をあげる蜂でいる。 


あの日、この手に掴みたかった愛は、抱えきれない程、この両手にしっかりと握りしめさせられていた。


けして、誰にも奪えない。


それは、私とクマさんだけじゃなく。


小花さんと紫音、坂口君と赤池さん、小野田先生と菅野先生、新田(にった)と夢野さん、佐伯と原口さんを見た時にも感じた。


それぞれの形の愛は、どこまでもどこまでも続いていくのを感じた。


私は、これからも笹部国厚(ささべくにあつ)を愛してる。



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