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04 ハセダ村

「ちょっと片付けるから」

 おじさんが指を立てると、指が緑色に光る。その指をトカゲの開いたお腹に添わせると切り口がなくなる。

 続いて、もう一度指を立てると、今度は指先がオレンジ色に光る。

 そして空中で指をクルクルと動かす。

 すると、空中に不思議な絵が描かれる。

 その絵をつかんで、トカゲにペタっと貼ると、絵がぴかっと光る。

 光が消えると同時に巨大なトカゲも消えた。

 もう一匹も同じようにする。

「収納の魔法は便利だけど、生きてるものは片付けられないんだ」


 おじさんを連れて家に帰ると、お父さんがとても恐縮しながら『ハナの父親のアラタです。本当にありがとうございました』と迎えていた。

 屋根はある。かろうじて壁のようなものがある。それだけの家なのに、おじさんは何度も「ありがとうございます」と繰り返していた。


 そして、迎えたのはいいけれど、大きな問題があった。

 食べるものがない。

 草の根を干したものがいくつかあるけれど、恩人に食べてもらうようなものではない。

 どうしたものかと困っている。

 お父さんが、隣のミヤおじさんのところで何か分けてもらうように言うけれど、さっきまでの話を聞いている限り、分けてもらうことは難しそうだ。

 しかも、なぜか悪者にされているおじさんのご飯。


 親子で困り果てていると、おじさんが「実は…」と言い出した。

「実は、こんなものがありまして」


 そう言って、あのオレンジ色の絵を空中に描くと今度はその絵に手を突っ込む。

 手を抜くと、そこには真っ黒いウサギがつかまれていた。


「ユメウサギ……」

 お父さんが戸惑った声を上げる。

 この辺りのウサギは色が黒く、足が早く、気配におそろしく敏感で、穴を掘って隠れている。なので、人の視界に入る事がない。

 足跡はあれど姿はない。なので、ついた名前が『ユメウサギ』。


 そのユメウサギの3羽をくくった束が4つ繋がっている。……えーっと、たくさんだ。

「村の皆さんには内緒にしてくださいね」

 にやりとそう言うと、くくっていた紐をほどく。


 そして、大きな荷物から、ナイフを取り出すと、ウサギの解体を始めた。

 血抜きが済んでいるのか、血は流れない。


 サクサクと解体されていく。

 ウサギはあっという間に、キレイな赤身のお肉に早変わりした。


「本当は、火で調理した方が美味しいんですが、炊煙や香りが上がると何か起こりそうなので」

 おじさんは、そう言うと土間にあの時の木の枝のようなものでにガリガリと絵を描く。


 お皿替わりの葉っぱの上にウサギのお肉の半分と、野草、そして、家にあった草の根の干したヤツを並べる。

 塩を振ってから、ブツブツと何かを喋ると、控えめな赤い光が揺らめいて、ぽんと消える。


 葉っぱ上には、香ばしく焼けたお肉が乗っていた。

「「―――!!」」

 私たち親子は、びっくりして目をぱちくりするだけだった。


「もう少し待ってくださいね」

 そう言うと、またオレンジの絵から、茶色い粉を取り出すと、違う葉っぱに粉と載せて水を掛ける。

 またブツブツ言うと、赤い光が上がって消える。


 現れたのは、焼きたてのパンだった。

 フワフワと湯気が上がる焼きたてのパンに、ジュージューと音がなるお肉。


 私のお腹が『ぐぅーーっ』と鳴る。

 思わずお腹を押さえると、お父さんのお腹も『ぐぅーーっ』と鳴り、おじさんからも『ぐぐうーっ』と一際大きな音がした。


 3人で顔を見合わせると、堪えきれずに笑い出す。

「冷めないうちに食べましょう」

 私は大きくうなずいた。


「おいしい!」

 こんな食事をいつぶりに食べただろうか。

 ずーっと昔、まだお母さんがいた頃まで戻らないといけない気がする。


「ごちそうさまでした!」

 おじさんが作ってくれたご飯は、あっという間に無くなった。


 いつもお腹の内側に張りついている、お腹が空いたの虫がいなくっている。

 これもいつぶりのことだろうか。


「デザートだ」

 ご飯を食べ終わると、おじさんはあの赤い玉を出してくれた。

「こら! ハナっ!! いい加減にしろ!」

 思わず手を出すと、お父さんに怒られた。

 私よりもおじさんの方がびっくりしていた。


「ああ、いえ、怒鳴っちまってすみません」

 お父さんが謝る。

「俺たちゃ、もうすでにダンナにとんでもない恩がある。これ以上はもらえねぇ。もらっちゃいけねぇ。さんざん食っぱらってから言うのも世話ねぇ話なんだが…本当にありがとうございます」

 お父さんがそう言って頭を下げる。その声は泣いて震えていた。

 私も同じように「ありがとうございます」と頭を下げる。


「頭を上げてください」

 おじさんはそう言って、床に頭をこすりつけたままのお父さんを起こす。

「負担になっては見当違いですから、飴はしまっておきます」


 おじさんはアメとか言う赤い玉をしまってしまった。

「ああぁ…」

 私は思わずため息が漏れる。

 ごちん、とお父さんに叩かれた。

 おじさんは笑っていた。


 それから、お父さんとおじさんはいろいろな話をしていた。

 土砂崩れに巻き込まれてお母さんが死んだこと。自分は命からがら助かったがその時に足をケガして動けなくなったこと。私の治癒術でなんとか、村の人から施しを受けていたことなど。

 村で育てている野菜のことや、獲っている魚のこと、がんばって起きていたけれど私は途中で寝てしまった。


 朝起きると、私とお父さんに温かい布がかけてあった。

 見たことのない柔らかな布だった。

 満腹とこの暖かい布のおかげか、あたりはすっかり明るくなっていた。


 我に返ってがばっと起き上がると、おじさんがいなかった。

 床の端っこに、昨日食べたのと同じパンが置いてあって、何か書かれた紙が添えてあったけれど、私は字が読めないので、何が書いてあるかわからない。


 急いでお父さんを起こす。

 起こしても、この村で唯一ちゃんと文字が読めるのは村長だけなので、お父さんと二人で見ても、何が書いてあるかわからない。


 村長に読んでもらったら、おじさんを泊めたことで怒られそうなので、わからないままにして外に出た。

 きっとおじさんのことなので、食べたらいいよと伝えたかったと思うのだけれど、違ったら困るし、お父さんも怖いので、パンを泣く泣くあきらめて外に出た。


 村の広場には誰もいない。

 うろうろしていると、村の外から声が聞こえる。


 そっちに走っていくと、やっぱり人垣ができていて、やっぱりその真ん中におじさんがいて、やっぱり大きな声で怒鳴られていた。


『早く何とかしろ』という人がいる。

『今からやります』とおじさんが答える。

『何をするつもりだ』という人がいる。

『畑を作ります』とおじさんが答える。

『今から畑を作ってどうなる』という人がいる。

『冬でも育つものを植えます』とおじさんが答える。

『お前みたいに怪しいよそ者に大事な畑を触らせられるか』という人がいる。

『大事な畑ではなく、新しい畑を作ります』とおじさんが答える。

『畑が簡単に作れるか』という人がいる。

『魔法で作るので、すぐに作れます』とおじさんが答える。

『そんなことできるわけがない』という人がいる。

『やって見せますから、場所を開けてください』とおじさんが答える。

『そんなことより早く何とかしろ』という人がいる。


 さらにこの合間合間に

『嫁の腰はいつ治しに来るんだ?』という人がいて

『トカゲの金をお前が全部持っていくのはおかしい』という人がいて

『あの赤い玉をもっと寄こせ』という人がいて

『あのトカゲの肉は本当に食えないのか?』という人がいて

 大騒ぎになっていた。


 おじさんは穏やかに、落ち着いた低い声で何度も何度も丁寧に答えているけれど、話は進まない。

「うちの畑で試して!!」

 私は、力一杯叫んだ。

 騒ぎが止んで、みんながこっちを見た。

「まずはうちの畑で試してみればいい。私はトカゲ退治の報酬でもらわれていくし、私のお父さんが畑に出れるようになるには、まだもう少しかかる。うちの畑なら、もし失敗してもみんなは困らない」

 一息で言い切ると、みんなが私を見て、固まっている。

「そうだな、まずはアラタのとこでやって見せるがいい」

 村長の一言で、「そうだ、そうだ」とみんなが言い始める。


 おじさんは、私のところまでゆっくり歩いてくると、

「ありがとう、案内してくれ」

 と言って、頭を撫でてくれた。




我ながら昼寝中のカタツムリのような進み具合ですが(笑)

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