29 スイスズメの街
部屋の中には、真ん中に大きな机が1台、壁にくっいたのが2台ある。
細長い机にはみんなが座っていて、壁の机には料理がたくさんならんでいる。
私は、おじさんの右側のイスに座る。
おじさんの左肩には真っ白く光るすごくキレイな毛玉みたいな猫が後ろ向きに乗っていて、そのふさふさのしっぽで、おじさんの顔をパタパタはらっている。
おじさんが顔にかかるしっぽを手でそっとどける、ねこがまたパタパタする、を繰り返している。
たぶんこの子が、さっきの子ねこたちのお母さんのメシュだろう。
子ねこと違っておじさんになついている。
「えー、それでは、お客様のご歓迎と、バルエ様の無事なご帰着を感謝致しまして、晩餐会を開催いたします」
黒い服と白い帽子の男の人があいさつをする。
座っている人の何人かがスルスルと立ち上がる。カティさんもその1人で、私の前に置いてある小さな器に飲み物を入れてくれる。
甘い匂いのする、うすいピンク色の飲み物で、お酒の匂いもする。
「お酒だ。飲んでもいいし、飲めなかったら飲まなくていいぞ」
隣からおじさんが小さな声で教えてくれる。
「甘いの?」
「甘いな。危ないことに」
「危ないの?」
「つい、飲み過ぎるんだ」
「へぇー」
みんなが器を手に持って、顔のあたりまで持ち上げる。
私もマネをする。
そして、そのまま飲む人、飲まずに机に戻す人がいる。
私はおそるおそる飲んでみた。
ふわっと甘さが広がる。
その後、舌の上がくっと熱くなる。
鼻にほんのり甘い匂いがすーっと通る。
「おいしいっ!」
「少しぐらい羽目を外すのはいいが、飲み過ぎるなよ。明日がキツいぞ」
「どうなるの?」
「村を出る時の村長さんみたいになる」
「……気を付ける」
真っ青な顔を思い出してぶるっとふるえた。
みんなワイワイとお皿を持って立ち上がると壁ぎわに並んだ料理を取る。
「ハナちゃんも行かない?」
お皿を持ったマジェリカさんが声を掛けてくれる。
「行っていいの?」
「当たり前じゃない」
「おじさんはいらないの?」
「お取りして参りますね」
「ありがとう」
マジェリカさんがおじさんのお皿を持ち上げる。
「行きましょうか」
机には料理がたくさんある。
どれもこれもおいしそうなのにお皿が小さくて困る。
「むぅ……のらない……」
「食べて空いたらまた取りに来ればいいのよ」
すぐにいっぱいななってしまったお皿を見おろしていると、マジェリカさんが笑いながら教えてくれる。
「!! そうなの!?」
「そうよ。そういうパーティだからね」
「たくさんありますからね、いっぱい食べてくださいよ!」
最初にしゃべった黒い服に白い帽子の人も言ってくれる。
私は急ぎ足でイスにもどった。
「取ってきたな!」
肩に乗っているメシュをじゃらして遊んでいたおじさんが、私のお皿を見て笑う。
「どうぞ」
マジェリカさんがおじさんの前にお皿を置く。
「すごい!」
どさどさと乗った私のお皿と違って、マジェリカさんが取ってきたお皿は、飾りのようにキレイに料理が乗っている。
「すごいでしょ?」
ふふんと胸をはるマジェリカさんは、やっぱりキレイだ。
「バルエ様、飲まれますか?」
たくさんのビンを器用に指に挟んで両手に持ったカティさんがやって来てたずねる。
「頂くよ、ありがとう」
最初に使った小さい器ではなく、もう少し大きなコップを渡す。
「スイスズメにされます? 違うのにされますか?」
「せっかくだからスイスズメを頂くよ」
おじさんが答えると、魔法みたいに1本のビンだけをかたむけて、あのうすいピンクのお酒をそそぐ。
「街の名前のお酒……」
「そうよ。スイスズメはさくらんぼのお酒なの」
「さくらんぼ?」
「果物だよ。赤くて丸くて小さい。食べる機会もあるだろう」
「ハナさんも何か試してみます?」
「スイスズメがおいしかった」
「ふふふふ。気を付けて下さいね。赤いスズメは乙女を殺すって言われるんですから」
おじさんとカティさんが笑う。
「私にも頂けるかしら?」
マジェリカさんがコップをさし出す。
「殺される気満々な乙女もおられますけどね」
カティさんがそう言って、みんなが笑う。
楽しそうだったので一緒に笑っといた。
おじさんが飲もうとすると、肩に乗っていたメシュが腕をつたい、手元まで下りてくるとコップの中身をなめようとする。
「お前はダメだ」
お酒に届きそうになったところで、いつの間にか後ろに来ていた目にハチマキみたいなのを巻いた人………えーっと……その人に首根っこをつかまれて持ち上げられる。
「可愛い子どもが腹を空かしてる。行くぞ」
メシュはニャアニャア鳴いてバタバタするけど、逃げられない。
「メシュ。乳をやるならお酒はダメだぞ。仔猫の毒になるからな」
おじさんに『ダメだよ』と言われると、あきらめたように大人しくなった。
この子も人の言葉が分かるのか……。
メシュはプラプラと連れられて、部屋の外に出ていった。
扉を開けると、子ねこがハチマキの人の足にまとわりついて、お母さんを取り返そうとするように上ったり、引っ付いたりする。
ハチマキの人はそのまま猫まみれにながら歩いて行った。
おじさんの所は、宝石のお礼を言ったり、何があったか話したりと、次々とみんながやって来るので、にぎやかい。
私もたくさん話した。
そして、たくさん飲んだ。
初めてだけど、お酒っておいしいし、楽しい。
たくさん飲むほど、たくさん飲んでいいと言われるお酒ってふしぎな飲み物だ。
あっちの人からこっちの人から、あれもこれもと飲んでみる。
「大丈夫なのか?」
おじさんが心配そうにこっちを見る。
「大丈夫そうだな」
あきれた顔になる。
「何が?」
「それだけ色々飲んで全く酔ってないな……」
「ハナちゃんは強いわね! 次はこれなんかどう?」
カティさんが新しいビンを持ってくる。
「いる!」
「あ、おい!それは」
おじさんが止めるのも聞かずにコップに注がれるお酒。
ハチミツより少し黒く濃い色。
鼻を近づけると、ほんのりと木のような匂いがする。
――くいっ――
「あ、待て!」
「待ってー!」
慌てるおじさんとカティさんが止めるより先に飲む。
甘いともなんとも言えないふしぎな味がして、ノドがガッと熱くなる。
続けて、舌、ほっぺた、鼻もグワッと熱くなる。
「!!」
熱いのが通り過ぎると、香ばしいような、こげた木の実のような匂いが鼻からふーっと抜ける。
「ほぉお……」
「大丈夫か!?」
「大丈夫??」
残りをくいっと飲む。
「おいっ!!」
「うそっ!?」
「ほぉお……おいしいとはちがうけど、なんかいい……」
「「…………」」
おもむろにおじさんが、手をおでこにのせる。
ぽわぽわと温かい感覚がおでこから広がる。
「うむ。ハナさんは、無自覚に解毒してるな」
おじさんがそう言った。
「解毒っ!?」
カティさんがおどろいている。
「ああ。結構、毒のある木の実やら葉っぱやらを食べるとは聞いていたが……。たぶんそれに耐えるために、体に入ってきた毒を無意識に解毒してるんだろうな」
「そんなことって……」
「聞いた事はないが、理屈上では有り得るし、実際、ハナさんの中で魔力が動いてる。酔いにくいなら分かるが、全く酔ってないからな。飲んだ端から治してるんだろう」
「??」
「まぁ、倒れなくて良かった。カティさんも、よく分かってない人にアダラセトなんて注いじゃいけないからね」
そのまま頭をなでてくれながら、カティさんをしかる。
「すみませんでした」
カティさんがしょんぼりしている。
さっきのもう一杯欲しいけど、ムリっぽい……。
悲しい。
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