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13 ヴェレヌ山脈

 日が暮れたらあの不思議な部屋で休み、朝になると、クマと馬に乗って進む。

 朝、昼、晩とご飯がおいしい。

 それだけでうれしい。

 3日ほどそうやって進む。


 クマも馬も急いでいる感じはなく、揺れもないので、のんびりしているように見えるけどスピードは早い。

 私が走るよりも早い。

 その早さで、キレイに整った道をずんずんと進む。


 そうなのだ。

 森は深いけど道がキレイだ。

 草もなく、キレイに整地された道、しかも、クマと馬が並んで歩ける広さ。

 これまでずーーっとそんな道で、この先もずーーっとそんな道。

『おかしい……』

 何とも思わず進んでいたけど、よく考えたらおかしい。


 道がキレイすぎる。


 村からトカゲの出た川までの道は、毎日とは言わずとも、何日かに一度は人が通る。

 それでも道は草が生えて、荒れていた。

 道だと分かるぐらいには拓けていたけど、こんなキレイではなかった。


 他の村へと続く道ですら、人通りは多くない。それが天井山に続く道なのだ。めったに人が通るはずがない。なのに使われる道より立派なのはおかしい。


 ということは、おじさんの仕業だ。

 チラチラとおじさんを見る。

 おじさんはパッカパッカと揺られながら、ご機嫌に手に持ったピンク色の花の説明をしている。


 この辺りではそれなりに見かけるこのアツメダは意外に貴重な花らしい。根をキレイに洗って乾燥させて粉にして、なんとかいう魔物の爪と混ぜるとヤケドによく効く薬になるらしい。


 この辺りにはそのなんとかいう魔物がいないので、そんな使い方があるなんて知らなかった。


 いたとしたら、それはそれで困るから、いなくて困らないんだけど。


「この道は…」

 おじさんの説明の隙間を見つけて割り込んでみる。

「この道が、こんなキレイなのはおかしいよね?」

「そうだな。来るときは、ほとんど道はなかったな。かろうじて、この辺りに道があったのか? それとも獣の通り道なのか?ってぐらいだった」


「……おじさんが道を引いたの?」

「帰り道の心配もあったからな。私1人ならどうとでもなるけど、もし誰か連れ帰らないといけなくなった場合、さすがに肩ほどの高さがある草を掻き分けて通るのは具合が悪すぎる」


「それで、来るのが遅かったの?」

 そんなつもりではなかったけど、恨みがましくなった。

 しまった、と思ったけど遅かった。

「そうだな……悪かった。もっと早く来れただろうと言われれば、もっと早くは行けたな。確かに。でも……、ああ、そうだな。私が悪かった。申し訳ない」

「……」


「こんな所にこんな立派な道を作ってなんか意味があるの? 誰もほとんど通らないのに」

 続けて出た言葉もやっぱり恨みがましくなった。だから違うんだ。

「ハナさんの言う通り、すぐに意味があるとは言えない。そんな所に時間を使うなら早く村を助けるべきだったというのは、私の反省すべき点だ」

 おじさんの声はどこまでも優しい。


 落ち込んでいると腰の辺りにポンポンと何かがふれた。

 見ると、クマがフサフサのしっぽで器用になでてくれていた。

 このクマも人の心が読めるらしい。

 うれしかった。


「言い訳に聞こえるかもしれないが」

 おじさんはそう前置きして、話し出した。

「道がないと人は通れないし、人が通らないと道はできない。ハセダの村は正直、相当に厳しい場所にある。近くにいくつか同じような村はあるが、どこもそうだ」

 ハセダ、モリグチ、カワエダ、タニハシ……。付き合いのあった村を思い出す。行ったことはないけど、来る人はみんな村の人たちと同じようだった。


「外と付き合わない限り、いずれ村はなくなる」

 つばを飲み込んだ。村がなくなると言われてショックを受けた。

「実際、ハセダの村には子どもが少ないだろう。子どもを育てられる衣食住もだが、子どもを作れる血筋が減ってしまってるんだ」


「外から人が来るためには、道がないと難しい。さっき道を作りながら来たから遅くなったと言ったが、普通、たとえ旅慣れた商人でも、山を越えてハセダ村を目指せば急いでも片道で2ヶ月はかかる。2ヶ月ぶんの旅の荷物を抱えれば、そこに持てる商品は少ない。商売として難しい。南に抜けることも出来なくはないが、国境越えるからな。それはそれで旨味がない。まあ道を引いてもヴェレヌ山脈を越えるのは難しいんだが…」

「道があったら、村に誰か来るようになるの? 役所が出してくれてる行商人が年に1回か2回くるだけなのに?」


「そうだな。今のままでは難しいな。でも、可能性はある。大きい話なら山に鉱脈がある可能性はあるし、実際、貴重な薬草や、獣、魔物はいた。これらが調査されて、収量や運搬にある程度の利便性が保てると分かれば、人が通る理由はできる」

 おじさんは『人は欲深いからな』と付け加えて笑った。

 私には難しい話だったけど。


「それにだ」

 おじさんがこっちを向いてニッも笑う。

「ハナさんが将来、治癒術の魔導師になって、弟子なんか取るようになったら、ハセダの村は聖地になるぞ。弟子にして欲しいって人がハナさんの足跡を追って村を訪れるようになる」

「―――!?」

 目がパチクリした。

「マドウシ……?」


「魔法が使える人を魔法使い。魔法の術理を理解した人を魔術師。魔術師の中でも、魔法の真理に辿り着いたと認められた人を魔導師と言うんだ」

「ジュツリ? シンリ?」

 おじさんの話は時々難しい。

「おじさんは、マドウシ?」

 いや、と首を振る。

「私は治癒術の真理には辿り着いてないから魔導師は名乗れない。私は壊すのが得意で治すのは苦手なんだ」

 ふーん……。うーん??


「私、なれるの?」


「才能はある。理屈では仕組みを知らなくても魔法は使える。でも、仕組みを知らないのに魔法が使える人はめったにいない。私も色んな人を見てきたけど、ハナさんで2人目だ」

「マドウシ……」

 手をギュッと握った。

「ハナさんが治癒術の魔導師になったら史上5人目だ」

「5人目?」

「そうだな。今まで治癒術で魔導師と呼ばれたのは4人。治癒術の開祖マレ・ハノに始まって、ハンネル、クレア・ビドセフ。そして聖道マルクハ・ベントゥーレ」

 少し遠くを見たような気がした。

「なかなか狭い道だが……ヒャクエショウジョウの加護は30年は保つ。時間は充分あるさ」


 おじさんの心地よい笑い声を聞きながら、私はこの日、マドウシという存在を知った。


本年もお世話になりました。

良いお年を(∩´∀`)∩

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