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幕間 生き物図鑑01 カワズミトカゲ

本編の展開には全く関係ありません(笑)

生物学者マレル・ハーネのアンベラス高等学院 特別生物学講義より書き起こし


―――――――


さて、次はカワズミトカゲについて説明をして行こうと思う。

早速だが、カワズミトカゲについてどのように認識しているかな?

そこの君はどうだい?

何?凶暴?

君は初等科の学生かね?

学術的な認識についてだ。

もう一度チャンスを与えよう。


ふむ。そうだな。

君の言う通り、カワズミトカゲと言えば、広くカワモワニの突然変異種として認識されている。

よく知っている。


しかし、これは間違いだ。

変異ではあるが突然変異ではない。

仕組みについてはまだ研究中であるが、この変異は意図的に、或いは、生存競争の仕組みのひとつとして確率されている。

簡単にだが、順を追って説明しよう。


カワモワニは、河口に群を作って棲息する80cmほどの肉食の爬虫類だ。カワモワニは群れが大きくなってくると、通常より大きな個体が生まれるようになる。


この個体を収束個体と呼ぶ。収束個体は終息個体とも呼ばれる。この個体が生まれると群の生殖能力がなくなり、群が無くなるからだ。


そして、収束個体は群を離れ川を遡上して行く。

収束個体の第一世代は大体20~30km程度遡上し、そこで繁殖を行う。産卵を果たした旧世代はそこで絶命する。

そして、第二世代が生まれるのだが、この第二世代は第一世代より大きな個体になる。

この第二世代が再び20~30km程度遡上する。


このように段々とサイズアップしながら川を遡上し、大体4~5世代目に生まれるのが一般的にカワズミトカゲと呼ばれる。通常であれば成体で1m50cm前後だ。

但し、稀に7世代、8世代、それ以上と遡上を続けかなりの山奥までたどり着くケースがある。

その場合、2mや3mとなるものがいる。最大で5m26cmの個体が確認されている。

この個体により周辺にあった8つの集落が全滅した。


カワズミトカゲと収束個体の違いは繁殖力である。

カワモワニの収束個体が一度に5~6個の産卵を行うのに対し、カワズミトカゲは30~50個程度の産卵を行う。


更に、カワズミトカゲは産後も絶命はせず、卵の孵化、幼体の保護、餌やりなどを行う。

カワズミトカゲは抱卵交配を行う。

卵を腹に抱えた状態で交尾、受精し、天敵・食料・天候など、孵化、成長に十分な環境にあると判断した後、産卵される。


そして、カワズミトカゲから生まれた世代は体長80cm程度のカワモワニへ成長し、河口へ戻り群を作る。

そのため、カワズミトカゲのことを収束個体に対して、始動個体と呼ぶ場合もある。


さて、カワモワニとカワズミトカゲ。

見分け方は知っているかね?

カワズミトカゲという名前の由来を知っていれば分かる問題だ。

先程の君、今回はいかがかね?

何?

なるほど、食べ物が違う。

なるほどなるほど。


どう違うのかね?

ふむ。

カワモワニは肉食で、

カワズミトカゲは?

なんでも食べる?


せめて雑食だ程度の言葉は選んではどうかね?


やはり君は初等科の学生のようだ。


まあいいだろう。

なぜ食性によって見分けられると考えたのかね?


ふむ。名前の由来。

なるほど。

悪食で川に生物はおろか、汚れまで全て食べてしまうので川が澄みきるために、カワズミトカゲ。

ああそうだ、カワズミトカゲの名前の由来として最も有名な説である。

そして、偽りだ。

残念だったな。


カワズミトカゲとカワモワニを見分ける最も簡単な方法は、毒があるかどうかだ。有毒がカワズミトカゲ、無いのがカワモワニである。


カワズミトカゲには毒があり、この毒は体表に分泌されると黒く変色、固着する。

この毒が皮に墨が付いているように見えることからカワズミトカゲと名付けられたのがそもそもの名前の由来である。


そもそも、カワズミトカゲは雑食だと思われているが、これが正確ではない。

カワスミトカゲはあくまで肉食だ。

ただし、大きな口で獲物ごと周辺の草木や岩までまとめて捕食するから雑食だと思われているだけで。

敢えて植物だけを捕食することはない。

まぁ確認はされていない、という話ではあるが。確認のために近づくと食べられてしまうからな。


さて、この毒は弱毒性で、カワズミトカゲの凶暴性から考えれば、かなり穏やかだ。皮膚を浸透することはなく、傷口や粘膜から侵入し中毒症状を起こすが少量であれば軽い目眩や腹痛で済む。

多量に摂取すれば高熱や神経麻痺を引き起こすことになるが。


しかし、この毒腺は細く、壊れやすい上に、身体中にビッシリと通っている。

刃物や魔法で攻撃すると、毒腺が壊れ周辺組織が毒に侵される。


そのため、カワズミトカゲを解体すると必ず毒が死体の全身に回るため、食用は不可能だ。


何?不可能ではない?

なるほど、よく知っているね。大したものだ。


そう、正確に言えば不可能だった、だ。


今から15年ほど前に、高度な魂操魔法が生み出された。

仮死状態という言葉は有名だな。生きているが、生体活動が著しく低下し、死んだような状態になることだ。

その魔法はこの逆だ。


違う。元気になるわけじゃない。

実際には死んでいるのに、生きているように極めて、極めて弱く生体活動が維持されている状態を作り出す。

これを仮生状態という。


意味が分からない?

そうだろうな。私にも意味が分からない。


この学院には、優秀な魂操術士であるミヤベ女史がおられる。

魔法については、そちらに訊ねてくれ。


ともかくだ、この仮生状態にし、必要な時間、およそ一昼夜だが、尻尾を下にして立てて保管すると、新しい毒の生成がされず、体内に滞留している毒を尻尾に集めることが出来る。


こうして極めて微量になった毒をいくつかの薬草を使い、ほぼ無効化することで食べられる状態にするという方法が編み出された。


但し、だ。

ここが重要で、まずこの高度な魂操魔法を扱える者が極めて少ない。そもそも魂操魔法を扱える者が少数だからな。


更に、カワズミトカゲを倒す途中で刃物や魔法など外傷を与える攻撃をした段階で毒が溢れるため、大体、討伐を終えた時には全身、毒まみれになっている。


以上の2点から、カワスミトカゲの食用は現実的に不可能だと言える。


しかし、この魔法の発明により、カワズミトカゲの肉が食べられるようになったのは事実だ。

そして、このカワズミトカゲの肉の研究により、素晴らしい価値が発見された。


珍味?

確かに、そういう捉え方をする愚か者がいるのは事実だ。嘆かわしいがな。


毒抜きされたカワズミトカゲの肉は、薬液に漬け、薬木で燻製にした後、粉末にし、更にいくつかの薬草と混ぜ合わせることで――、


――薬になる。


何の薬になるか知っているかね?


初等科の君か。よかろう、発言しなさい。


ほう!素晴らしい!

その通りだ。

カワズミトカゲの肉から作られる薬は、

鱗粉赤斑症の特効薬となる。


鱗粉赤斑症は、繁殖期のアカメウチワマダラという蛾の鱗粉を吸い込むことで発症する皮膚病だな。

致死率95%、生き残ってもひどい後遺症が残る。

アカメウチワマダラの生息地域においては、悪夢の代名詞だったこの病気に、正しく処方されれば後遺症も含め、100%助かる奇跡の薬となる。


しかし、そもそもカワズミトカゲの生息個体が少ない上に、先程述べたように毒抜きが出来る者は尚、少ない。

そのため、カワズミトカゲの肉は常に不足している。


CAMなどに討伐依頼が来た場合は、率先して優秀な討伐者が派遣されるな。

優秀でないと、返り討ちにあってしまうという問題が一番大きいのだが。


また、討伐対象として多いと言えばグリズリースライムであることは諸君もご存知であろう……


――――――――――



私は書いてて楽しかったです(笑)

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