終わらないかくれんぼ
夏のホラー2021投稿作品です。
『ぼくをみつけて』
https://ncode.syosetu.com/n9268hb/
のお口直しになります。
話の繋がりはありませんが、上記の話が子どもにまつわる話で、人によっては辛くなるかな、と思ってこちらを書いたので、先に読んでいただけるとありがたいです。
子どものいる日常に潜む、ちょっとした恐怖。
子どもに関わる人ならわかってくださるのではないのでしょうか。
ほのぼの怖いをお楽しみください。
「おいたん!」
「どうした? 椎來」
「かくれんぼ、しよ!」
「おお、いいぞ」
「悪いなヒデ」
「いいって。兄貴はのんびりしててくれよ」
「助かる……」
兄貴はあからさまにホッとした顔をした。
二番目の妊娠で奥さんは実家に帰っていて、三歳になった椎來の相手に兄貴は疲れ切っているようだった。
土日くらいは休ませてやりたい、そう思って俺は兄貴の家に来ていた。
「どっちが鬼をやる?」
「おいたん!」
「よーし。じゃあ十数えるよ」
「きゃー!」
歓声を上げながら走っていく椎來。
よーし、数えるか。
かくれんぼなんて小学校以来だな。
「いーち、にーい、さーん、しーい、ごーお、ろーく、なーな、はーち、きゅーう、じゅう! よーし、探すぞー」
「おいたん、めっ!」
あれ? ソファの陰から、椎來が顔を出した。
怒ってる。何か間違えたか?
「『もーいーかい』っていって、『もーいーよ』っていわないと、めっ!」
「あぁそうか。ごめんごめん。もう一回やっていいかい?」
「うん!」
機嫌が直って良かった。では改めて。
「いーち、にーい、さーん、しーい、ごーお、ろーく、なーな、はーち、きゅーう、じゅう! もーいーかい?」
「まーだだよー!」
この声の感じからソファの裏だな。
「もーいーかい?」
「まーだだよー!」
懐かしいなこのやりとり。
「もーいーかい?」
「もーいーよ!」
よーし、ソファの裏に行って……。
「椎來みーっけ」
「……う……」
え、何で泣くの!?
「すぐみつけちゃやだあああ!」
「ご、ごめん! たまたま! たまたまだよ! さっきいたところだったから、もしかしてーって思って、だから、もう一回やろ? ね?」
「……うん。 こんどはすぐみつけちゃめっだよ?」
「わかった」
……これは兄貴がくたびれるわけだ……。
「いーち、にーい、さーん、しーい、ごーお、ろーく、なーな、はーち、きゅーう、じゅう! もーいーかい?」
「まーだだよー!」
今度はテーブルの下かな。
「もーいーかい?」
「まーだだよー!」
関係ないところをいくつか探してから、見つければいいんだな?
「もーいーかい?」
「もーいーよ!」
「よーし、どこかなー」
ソファの裏を見て、
「いないなー」
ダイニングをのぞいて、
「いないなー」
一度廊下を見て、
「いないなー。どこだー?」
テレビ台の裏をのぞいて、
「いないなー」
「おいたん、めっ!」
え、何が!?
「ちゃんとさがさないと、めっ! しーらここにいたのに!」
時間制限ありとか聞いてないんですけど!?
「おいたん、もっかい!」
「え、あ……」
兄貴に助けを求めると、ソファに横になっていびきかいて寝てる……。
いやまぁ休ませるために来たけどさ、もうちょっと見守ってからじゃないか普通!?
「おいたん!」
「わ、わかった。もう一回な」
「うん!」
やっぱりお母さんがいないから、不安定になってるのかな。
もうちょっとだけ付き合おう。
「おいたん、もっかい!」
「……うん……」
一時間を超えたけど、椎來が飽きる様子が全くない……。
マイルールが多すぎて、しかも気分で変わるから、精神的にめっちゃ疲れる……。
兄貴が起きる気配もない……。
「……あの、椎來? 別の遊びしない? おままごと、とかさ……」
「や! かくれんぼ!」
そんなに楽しいこれ!?
めちゃくちゃニコニコしてるから、本当に楽しいんだろうけど……。
「はやくかぞえて!」
「……うん……」
まだこのかくれんぼは終わりそうにない……。
読了ありがとうございます。
お気に入りができると延々それを繰り返す。
かと思えばいきなり興味が変わる。
幼児の相手はなかなか大変なのです。
先の読めない怖さと楽しさが伝わりましたら幸いです。